上 下
58 / 156
第7章~転生王子と寮改革

手紙

しおりを挟む
 【フィルさま~!お城からお手紙きてるっす!】
 夕食を食べて食堂から戻ってくると、テンガが2つの封筒をひらひらと振っていた。
 グレスハートの城には、俺専用の手紙箱を設置している。その箱には俺から届いた手紙の棚と、俺宛に届ける手紙の棚があって、テンガの空間移動によってやりとりをしていた。
 郵便屋もいるのだが、何週間もかかってしまうので、この方法をとっている。

 「ありがとう」
 手紙を受け取って、テンガの頭を撫でた。ベッドで寝ているコクヨウの隣に腰をおろすと、届いた手紙の名前を見る。
 「えーっと……あ!父さんの返事もう来てる。こっちの分厚いのはアルフォンス兄さんか」
 俺の呟きにコクヨウは頭を持ち上げ鼻息を吐いた。
 【またか、毎度毎度よく書くことがあるものだ】
 俺はくすりと笑って、コクヨウの上にいたコハクを胸ポケットに入れた。

 ろうそくはついているが、手紙を読むには薄暗い。
 「コハク明るくして」
 コハクはポケットから顔を出すと、ピッと敬礼する。
 【りょーかいっ!】
 眩しくないくらいに調節してくれたその光で、封筒から手紙を取り出す。


 まずはアルフォンス兄さんの手紙を読もうかな。
 アルフォンスの手紙は、定例報告に近い。まず家族の出来事や、その周りの人の出来事。それから俺がいなくて寂しいってことと、俺の近況への質問だ。
 コクヨウは呆れていたが、俺は結構楽しみだったりする。

 ほぼ2、3日置きに送られてくる手紙なので、内容は日々の生活の何てことない出来事。例えばヒューバートが食べ過ぎでお腹壊しただの、レイラがマナー教習で泣いているだの。
 だが、身内新聞みたいでなかなか面白いし、家族の近況が解るのは楽しかった。

 【今日は何書いてあったですか?】
 ホタルが俺の足元までやってきて、ワクワクと俺を見上げた。俺は微笑んで手紙を開く。
 冒頭のいなくて寂しいってやつと、最後のいつ帰ってくるかの催促はカットして……。

 「えっとね今回の話題は……。ヒューバート兄さんが自分は大分強くなったはずだって言い出して、グランドール将軍に試合を挑んだんだって……?!」
 俺が呆気に取られたような声で言うと、コクヨウはしばし口を開けた。
 【無謀な……勝てるわけなかろう】
 コクヨウの目から見ても、グランドール将軍は強い人間と言う認識らしい。

 うん、確かになぁ。勝負するならまずスケさんに勝ってから、グランドール将軍に挑むべきだよね。スケさんだってグランドール将軍の次に強いのだし…。
 何もボスをすっ飛ばして、ラスボスいかなくてもいいのに。

 
 【フィルさま。フィルさまの先輩の大きい人でも勝てないですか?】
 「マクベアー先輩が、グランドール将軍に?」
 ホタルに聞かれてうーんと唸る。
 マクベアー先輩も相当強いけど、グランドール将軍相手だろう?どうなんだろう。
 「無理じゃないかなぁ。」
 あの人年々強くなってるってスケさん言ってたもんな。

 【じゃあ、ヒューバートさまはどーっすか?】
 尻尾をぶんぶんと振って聞くテンガに、コクヨウは首を振った。
 【カイルの話ではマクベアーとやらは剣技が長けていると聞く。ヒューバートでは勝てぬだろう。あやつの剣は単純明快すぎる】
 うん。我が兄ながら単純明快です。
 剣術大会で場慣れしているマクベアー先輩には勝てないと思う。

 だが、テンガは納得できないのか、ベッドにしがみついてコクヨウに訴える。
 【えぇ!ヒューバートさまの方が体が大きいっすよ?】
 【よいか。体格が問題ではない。剣技が上手ければ、フィルのようにガリガリでも大人を倒すことは可能なのだ】
 コクヨウは先生が説明する時のように、腕をちょいちょいと動かす。
 【へぇ、ガリガリでもいいんっすね!】
 【ガリガリでもいいです!】
 俺を見ながら頷くテンガとホタルに、何とも言えない気持ちになる。
 ガリガリ、ガリガリって……。平均だからっ!


 【それでヒューバートさまの勝負はどーなったって書いてあるっすか?】
 テンガに聞かれ、俺は忘れてたと手紙の続きに目を通す。
 「んー、瞬く間に返り討ちにあったみたい」
 【やはりな】
 コクヨウは予想通りでつまらんとばかりに、再び丸まって寝に入る。テンガもホタルも残念そうな声を出し、くるりと背を向けた。負けたと解って興味がなくなったようだ。


 仕方なく1人で手紙の続きを読み始める。

 『そう言えば女子寮の沐浴場も改修することになったらしいね。女子寮は男子寮より新しいはずだったが、それでも改修を決めたことには驚きだ。さすがフィルだね。フィルの兄としてとても誇らしいよ』

 …………そうなんだよね。ようやくひと段落ついたと思ったのに。
 頭を下げてハァァーっと深いため息を吐く。
 【……?】
 その息でコハクの頭の羽毛が揺れたのか、何の風かと見上げられた。
 俺はごめんごめんと指でコハクを撫でる。

 男子寮の改修作業が終わったと思ったら、今度は女子寮の改修を頼まれるなんてなぁ。
 心の中で再びため息を吐いた。

 いくつであっても女の子はお年頃らしい。
 男子がツヤツヤピカピカいい匂いでは、とても近くにいられないとクレームが出たのだ。
 その原因がお風呂である事が判明し、女子寮も改修することになったのである。

 そんな理由で学校側に申請が通るのか?と思ったのだが、意外にもあっさり受理された。
 なんでも女子寮にはお金持ちの娘さんがいて、寄付として改修費を全額持ってくれるんだとか。
 おかげでいちいち木を育てることなく、パドルーの木材を買うことができた。

 まぁ、今回俺の出番は少ないから、まだいいのかなぁ。
 男子寮で使った設計図はあるし、前回の職人さんがまたやってくれるので、作業内容はわかっている。
 俺の仕事はマクベアー先輩とコンクリ作りして、あとは職人さんに教える木の継手の設計図くらい。

 ハッ!これで高等部とか初等部とかも改修って言い出したらどうしよう!いや、高等部はゆくゆく行くつもりだからあってもいいの…かな?
 もしなったとしても、何とか俺が介入しないですまないかなぁ。


 俺は唸りながらアルフォンスの手紙を封筒に戻した。それからマティアス王の手紙を開く。
 これは先に俺が送った手紙の返事だと思うのだけど……。

 『体調は崩していないか?……と聞くのは愚問だな。そうであればアルフォンスが即座にそちらへ旅立っているだろうから。
 まずは新しい沐浴場の完成おめでとう。学校が始まってさほど経たぬのに、沐浴場の監督となったと聞いて大変驚いている。
 石鹸に関しては、実はトリスタンからも連絡があった』

 「んん?トリスタン?!」
 トリスタンはライラの実家だ。何で商家であるトリスタンが出てくるんだろう。
 俺が送った手紙は確かに石鹸に関する話なのだけど……。
 入浴した生徒に好評だったのが、グレスハート産の石鹸。泡立ちよく肌に優しく汚れも落ちる。ステア王国で使われている従来の石鹸に比べるととてもいいと話題になった。
 デュラント先輩も大変気に入ってくれて、学校に仕入れようということになったのだ。それで納品を頼む手紙を送ったわけで、ここにトリスタンは入っていないのだが……。
 首を捻って続きを読む。
 
 『何でもトリスタン家の娘が、友人にこの石鹸を教えられたらしく虜になったとのことだ。何が何でも仕入れ、ステア王立学校や国外に売り込めと言われたそうだ』
 
 あー……解った。そういや俺がアリスにあげた石鹸をライラが使ったようで、とても感動したって話してたな。
 実家にすでに連絡とったばかりか、売り込めって……。さすが商売人の娘。仕事が早い。

 『トリスタンは有名な商家。独自の運搬技術もあるという。我々が送るより早く納品できるだろう。
 定期的に納品することにもなる為、運搬に関してはトリスタンに任せることとなった。すでに送る手はずは整えてある。そう何日も待たせることはないだろう』

 そうか。運搬のことは抜けていたな。トリスタンが運んでくれると言うなら、それは大助かりだ。
 石鹸が納品されるなら、俺はそれで充分だし。
 そう思って封筒を戻そうとすると、封筒の中に小さなメモ書きが入っていた。

 ん?父さんの追伸かなにかか?
 そっとメモ書きを取り出して読んだ。

 『コクヨウ専用のプリン入れの減りが早い。時々父用のプリンも無くなっている時があって悲しい』

 メモ書きと手紙を封筒に戻すと、静かに口を開いた。
 「コクヨウ……テンガ……、ちょっと聞きたいことがあります」

 
しおりを挟む

処理中です...