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第8章~転生王子は授業中

召喚学

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 召喚学は大人気の選択授業だ。1年生の生徒全90人。数えてないので正確な人数はわからないが、大部分の生徒が召喚学を受講していると思う。
 まだ召喚獣を持っていない子もいるので、これを機に召喚獣を手に入れられるのではないかと期待しているらしい。

 カイルも獣人族の掟がないなら、召喚獣を持つことができたのになぁ。
 いつも一緒に授業受けているから、ほんの少し寂しく思う。
 
 召喚学の内容としては、召喚の歴史を含めた理論を半分、召喚術の実施を半分。召喚術の中には、校外に出て召喚獣を手に入れる校外学習も含まれる。
 召喚術が始まれば屋内運動場や校庭で授業があるらしいが、今は理論なので100人以上入れる大きな教室を使用していた。

 俺たちはその教室の一列目中央、教壇真ん前の席にいた。
 出来ればもう少し後ろの方が良かったのだけど……。先生の一言一句を聞き逃したくないと言うトーマの希望でここになってしまった。
 レイは最後までごねていたが、普段我を通さないトーマの希望だ。尊重しなくてはなるまい。

 教壇ではセイム・ルーバル先生が書物をペラペラとめくっていた。文字が読みにくいのか、メガネをかけているのに時々眉間にしわを寄せている。
 ルーバル先生は先生の中でも年配の部類に入る。見た目は60代後半だろうか?ツルリとした頭は見事なまでに光り輝いている。

 声を荒げず、優しく語りかける口調は耳心地よい。柔和な笑顔は普通のおじいちゃんなのだが、どうやら召喚学では名の知れた人らしい。
 グラント大陸の中でも、召喚獣研究の上位にいるとトーマが興奮気味に話してくれた。
 そう言えば、グレスハート王国図書館にあった召喚獣の書物の著者に、ルーバル先生の名前もあったような気がする。


 この先生の授業は2回目だが、とても面白い。
 召喚の授業は、初心者もいる為初めは基礎的な理論から入ると聞いていた。
 すでに基礎的なことは書物で学び、召喚獣も手に入れていた俺やレイは、理論は退屈そうだと話していた。
 しかしルーバル先生は最新の研究結果も交えながら話してくれるので、とても興味深い授業で面白い。
 実際知らないこともあった。すっかり基礎的なことは理解していると思っていたけど、まだまだ足りていなかったみたいだ。


 前回は召喚と種仮シュカの方法について教えてくれたのだが……。
 さて、今回はどんな授業をしてくれるのだろうか?
 ルーバル先生は書物をめくり終えると、ふむと頷いて黒板に文字を書き始める。

 『しょうかんじゅう  と  ひと』

 「今回はこの話にしよう」
 コホンと咳払いをして、教室をぐるりと見まわす。
 「我々人と召喚獣との関わりは、古代より続いている。前回の授業で話した種仮シュカ。種を呼び出す召喚方法もまたそのひとつ。この違いはちゃんと覚えているかな?」
 トーマが手を挙げ、ルーバル先生に指をさされる。

 「今使われてる召喚は個体と契約し、種仮は種族と契約します。また召喚はその個体を従えることができますが、種仮は従えることはできません。古く行われた種仮は事故なども多かったため、今のような召喚が確立されました」
 ハキハキと明確に答える様子に、いつもののんびりしたトーマの雰囲気は見当たらない。
 さすが召喚獣マニア。生き生きしている。

 「うむ。さすがはトーマ・ボリス。素晴らしい答えだ。では人は獣と契約することで何を得る?その隣の者、答えなさい」
 トーマの隣のレイは、急にあたって驚いたのか居住まいを正す。
 「はい!従えた獣の能力を使えることです」

 ルーバル先生は目を細め、うんうんと頷く。
 「そうだな。いろいろな考え方や理由はあろうが、大半はそうだろう。では逆に、獣は人と契約して何を得ると思う?その隣の者答えなさい」
 レイの隣は俺だった。
 何を得るか?コクヨウを召喚獣にした時も言ったが、人である俺がしてやれることは少ないものなぁ。
 「家族になってあげること?」
 俺が首を傾げながら言うと、先生は一瞬キョトンとしてからフォホホと笑い出した。

 え?何かおかしい事言ったか?
 キョロキョロと周りを見ると、皆が『可愛いなぁ』とでも言いそうな生暖かい目を俺に向けていた。
 ライラとアリスが今にも撫で撫でしたいと、手をワキワキしている。アリス…だんだんライラに感化されてきてない?

 ルーバル先生はコホンとひとつ咳払いをして、自分に注目をもどした。
 「フィル・テイラのが言ったことも間違いではない。主人を拠り所だと思う獣もいるだろうしな。だが、実際に得るもの……誰か答えられる者はいるか?」
 教室はざわめくが、誰も手を挙げることは出来なかった。
 トーマと目があったが、ため息をついて首を振る。

 ルーバル先生は優しく微笑むと、黒板に絵を書き始めた。人と獣。人にはオーラみたいな膜を書いて、それが獣に少し移動している。
 「人には生命力とは別の、体から発する『気』が存在する。この『気』を召喚学では『エナ』と呼んでいる」
 黒板のそのオーラみたいなものにエナと書き足す。
 「このエナは人それぞれの分量があり、性質も人によって異なる。長年の研究結果で、召喚獣は主人のエナを摂取して生きている事がわかった。つまり召喚獣はそのエナを食物摂取の代わりとしているようなのだ」

 「だから食べなくても大丈夫なのか。不思議に思ってたんだ」
 レイが納得したように頷く。
 だが俺はその話を聞いて、この間の出来事を思い出していた。
 テンガやホタルが何か訴えてたのってこの事かな?何かカオスになって、結局よくわからなかったけど。
 俺はそのエナってやつを皆に摂取されてるって事か。
 ん……?まてよ。

 俺が手を挙げると、ルーバル先生が指さす。
 「ルーバル先生、そのエナって言うのは召喚獣で分け合って足りなくなっちゃったりしますか?」
 俺今、精霊1人と召喚獣5匹……そのうち1匹伝承の獣だもんな。
 結構な大家族。心配になってきた。
 
 すると、ルーバル先生はにっこりと微笑んだ。
 「今召喚獣にしている分は許容範囲だろう。しかし、それ以上召喚獣にするのは、自分のエナ次第だ。自分のエナ以上の獣を召喚獣にしようと思っても、召喚獣には出来ないだろう」
 えーっと……つまり、データ容量以上のものをダウンロードしようと思っても出来ないってことか?

 ショック……。もっと召喚獣増やしたいと思っていたけど。もしかしたら、もうデータ容量満杯かもしれない。
 俺のもふもふパラダイスっ!
 俺は遠のいていく楽園に、ガックリと肩を落とした。

 レイとトーマも同じことを考えたのか、不安そうな顔をしている。
 「俺どんくらいエナに余力あるのかなぁ?」
 「僕も召喚獣にしたい獣いっぱいいるのに…エナ絶対足りないかも……」
 トーマは絶望的だとため息を吐いた。

 そんな心配をする俺たちがいれば、反対にきゃっきゃと話している生徒もいた。
 「私のエナってどんな性質かな?」
 「召喚獣にする獣と性質って関係あるのかしらね?」
 ライラとアリスは召喚獣を持っていないので、容量を気にするより期待感でいっぱいのようだ。
 
 教室全体がざわめき、ルーバル先生が手を叩く。
 「これ、静かに。……心配無用だ。エナを調べるすべはある」
 その言葉に一旦は静かになった教室が、再び大きくざわめいた。


 
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