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第9章~転生王子の休日(ピクニック編)

疑惑のトーマ

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 「怪しいってどういうこと?」
 俺は首を傾げる。
 怪しいかぁ。のんびり天然なトーマに、あまり似合わない単語だな。
 確かに動物が好きで、パッション溢れる言動をしがちだが……そんなの今更だもんなぁ。トーマの召喚獣であるエリザベスなら、その辺りよく解っているはずだけど……。
 
 エリザベスは少しうつむき加減で話し始めた。
 【トーマはね。いつも学校から帰ってきたら、1番に私を召喚して、お話したり毛並み整えてくれるの】
 「へぇ」
 さすがトーマ、すごい甘々っぷり。と苦笑しかけたが、ふと我が身を振り返ると似たようなことをしていた。
 召喚獣の数が多い分、他人から見たらドン引きされるかもしれないな。
 き、気をつけよう……。

 エリザベスは足でのの字を書きながら話を続ける。
 【でも最近、お話して毛並み整えたらすぐどっかに出かけちゃうの】
 いや……それくらいなら俺だって、召喚した後夕食行ったりお風呂行ったりしちゃうんだけど。
 「別にそんなに変なことじゃ……」
 言いかけた俺を、タンッと足音を立てて止める。
 【変よ!長い間戻ってこないのよ?どこに行っているか聞いても誤魔化すし。私のことどうでもよくなったんだわ!】
 エリザベスは話していたらだんだん興奮してきたのか、椅子の上で地団駄を踏み始めた。

 「そんなはずないよ。たまたま何か用事があっただけじゃない?大した用事でもないから、どこにいたのか話さなかっただけかもしれないし」
 フォローするように言って、優しく微笑んだ。
 エリザベスへの愛着ぶりを知っている俺としては、ただの考えすぎとしか思えない。

 しかしエリザベスは「違うの!」とぶんぶんと頭を振った。振るたびに垂れ下がった長い耳が、周りにペチペチあたる。
 【ここ何日もなのよ?今日だってそう!せっかくの休みに、朝早くから置いていくなんて。こんなこと……今までなかったのに……】
 シュンと萎れるエリザベスに、俺は考えるように唸る。

 うーむ。普段と違うことに不安になるエリザベスの気持ちもわかる。けど、それを確証とするには弱いよなぁ。
 するとヒスイが、窓辺からひらりと浮いてエリザベスに近寄った。
 【それだけで決めつけるのはいけないわ。何かそれ以外に、怪しい言動でもあるのかしら?】
 優しい口調でエリザベスに話しかける。エリザベスは興奮したように、ピョンピョンと飛び跳ねた。
 椅子の上なのでガタンガタンと音をたてて揺れる。俺は慌てて椅子をおさえた。

 【あるわ!その出かける時に必ず持ち歩く袋があるの。さっき私がそれを見ようとしたら、焦ったように隠したわ!怪しいでしょ?】
 必ず何かを持ち歩いて出かけていく?何だろう。怪しい云々は別として。確かに少し気になる。
 トーマ…学校から帰って、いったいどこで何やってるんだろう。学校や寮で顔を合わせるけど、それ関連だと思える話聞いたことないなぁ……。

 すると突然ザクロが、二足歩行でこちらに歩いてきた。何だろうと見ていると、ズビシッ!とエリザベスを足で指す。
 【お嬢さん、それは浮気にちげぇねぇ!】
 【浮気っ?!】
 エリザベスは雷に打たれたように固まった。
 ざ、ザクロ……いきなり話題に入ってきていったい何を言い出すんだ。
 
 「ザクロ何言って……」
 俺は呆れたように声をかけると、ザクロはそれを遮るように前足を掲げる。そしてクルリと甲羅を見せた。
 【太陽がすべてを照らすように。このザクロの甲羅は、すべてを照らす!間違ぇありやせん!】
 甲羅が太陽の光に反射して、ピッカーンと輝く。
 …………まだザクロ奉行、見参中なのか。
 【ま、眩しいっすーっ!】
 テンガがオーバリアクションで目を覆い倒れこんだ。ホタルとコハクも真似して倒れ、楽しそうにキャッキャとしている。
 他人事だからか……理解してないからか、この3匹は無邪気だなぁ。

 それにしてもザクロ奉行の甲羅は、印籠とかと違って目に悪い。
 「甲羅はわかったから」
 眩しいのでザクロを、クルリとひっくり返す。
 【あぁ、せっかくの見せ場とらねぇでくだせぇーっ!】
 ひっくり返されて少し不服そうに俺を見る。
 見せ場はわかるが、ずっとこのままじゃ眩しくて敵わない。ピカピカに磨く度に、ザクロ奉行が現れるんだろうか。その度にお白州おしらす開かれるの、ちょっと嫌だな。

 【あのさ……浮気だと思う?】
 前足で光を遮っていたエリザベスは、椅子の上からザクロを見下ろした。
 ザクロは得意そうにコックリと頷く。
 【一緒にいる時間を大切にしねぇ。コソコソして、聞いても誤魔化す。こりゃあ浮気の可能性が高ぇ】
 ……何だこのモフモフ相談室。
 と言うか、何でそんなん詳しいんだザクロ。
 あ……そういや、ザクロのお兄さんのガァちゃんもゴシップ好きだったな。その影響なんだろうか?

 【オイラが考えるに、きっと新しく召喚獣と契約しようとしてるんでぃ】
 【やっぱりそうかしら?】
 エリザベスは頬に両前足をあて、ショックを受けたように震える。だが俺もまたショックを受けていた。
 「え、召喚獣にとったら、他の獣を召喚獣にするのって浮気なの?」
 え、召喚獣6匹もいる俺って……浮気性?
 【まぁ、召喚獣にとって主人は1番ですもの。そう思う召喚獣もいるようですわ】
 ヒスイは俺に向かってにっこりとほほ笑む。
 マジか。

 【オイラは気にしやせんが。嫉妬深い召喚獣がいるなら、同時に召喚しないのが鉄則でさぁ。喧嘩しやすからねぇ】
 頷くザクロに俺は「えぇっ!」と声を出した。
 「普通に全員出しちゃってたよ!え、皆嫌だった?」
 途端に不安になって眉を下げる。だがコクヨウはフンと呆れるように息を吐いた。
 【今更だろう。お前の獣好きも、獣に好かれ過ぎるところも】
 え……今更なの?

 【フィル様が嬉しいなら全然いいっすよ!】
 【ボクはフィルさまと皆一緒で楽しいです!】
 【一緒!】
 テンガとホタルが足元に擦り寄り、コハクはホタルの頭で飛び跳ねる。
 ヒスイはそれを見て苦笑した。
 【ですわねぇ。フィルの場合、全員に愛情を注いでくれているのがわかるので、争う気持ちも起きませんわ】
 そう言って俺の頭を撫でてくれる。何だか照れて顔が熱くなる。
 少しホッとしたけど、召喚獣にも嫉妬とかそう言うのあるんだなぁ。

 そんな時エリザベスの口から、地を這うような低い声が聞こえた。
 【トーマのやつ……蹴り上げてやる】
 「えっ?!」
 とてもふわふわ可愛いウサギから発せられた声とは思えない。
 け、蹴り上げるっ!?
 エリザベスは嫉妬深いタイプだったか。あ、いや、うん。何となく想像出来たけど。

 【相談に乗ってくれてありがとう。気持ちが決まったから、ちょっと行ってくるわ!】
 エリザベスは鼻息荒く椅子から飛び降りた。
 「ちょっ、ちょちょっ、ちょっと待って!」
 出て行こうとするエリザベスをすんでのところで捕まえる。
 「行くってどこへ?」
 【トーマのとこよ!】

 ジタバタと動こうとするので、宥めるように撫でた。
 こんな状態のエリザベスを、解放しては危ない気がする。
 「落ち着いて、トーマの場所わかってるの?今も出て行ってるんだよね?」
 俺がそう言うと、エリザベスはフフンと鼻で笑った。
 【大丈夫。場所は確認済みよ。もう何回も後をつけてはいるの。そこに乗り込む勇気はなかったけど】
 すごい……抜かりない。
 【でも相談したおかげで乗り込む勇気が出たわ!】
 再び抜け出そうとするエリザベスを、懸命に抑える。
 「いやいやいや!ちょっと待ってって!」

 【行かせてやれ。確認せぬままでは、気持ちも収まらん。フィルもついて行ったら良いではないか】
 コクヨウはそう言って、大きくあくびをした。これからする昼寝に、俺たちは邪魔だと言わんばかりだ。
 「ついて行けって……」
 簡単に言ってくれる。
 トーマの行動は気にはなるが、俺が聞いてないと言うことは、トーマが隠している可能性もある。自分だって隠し事あるのに、探って暴くことに加担するのは……。

 するとコクヨウはニヤリと笑った。
 【だが、お前のことだ。どうせこやつだけ行かせても心配なのだろう?】
 「ぐっ……」
 性格を見抜かれて、俺は息を詰まらせる。
 確かにコクヨウの言う通りだ。
 エリザベスを1匹で行かせて、何かあったら大変だよな。なにせザクロが焚き付けちゃったようなものなんだから。このエリザベスの勢いのまま、トーマが蹴り上げられたら……。
 想像してゴクリと息をのむ。

 「わかった。じゃあ、僕も一緒に行くよ」
 俺はため息をついて、エリザベスの背をポンポンと叩いた。
 【本当?】
 エリザベスは嬉しそうに小さな尻尾を振った。強がってはいても、内心不安だったようだ。
 「うん。だけど、様子を見に行くだけだよ。いきなりトーマを蹴り上げないこと。わかった?」
 俺が立てた人差し指を、エリザベスは約束と言うように両前足で挟む。
 【わかったわ!】

 すると俺の足をポムポムと叩く者がいた。見るとザクロが俺を見上げている。その後ろにはテンガ、ホタル、コハクも集まってこちらを見上げていた。
 何故こちらを見ている。嫌な予感がするんですけど。
 【フィル様!オイラも行かせて下せぇ!】
 【行きたいっす!】
 【ボクも行くです!】
 【コハクもー!ポッケ入るー!】
 ザクロを筆頭にテンガとホタルとコハクが、ワクワクとした顔で近付いてきた。いや、コハクはただ単にポケットに入りたいだけかもしれないが。
 「ダ、ダメだよ。そんな大人数で行けないよ。皆はお留守番をお願い」
 隠れてこっそり見るのだから、皆を連れて引率なんてしきれない。皆、幼稚園児みたいに自由人なんだから。

 俺がそう言うと、不服そうな声を漏らした。
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