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第11章~転生王子と秘密基地

番外編 それぞれの思うこと(ハロウィン編 中編)

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 ※この度のお話のみ、リレー方式です。
 トーマ→カイル→レイ→ライラ→アリス
 と視点が変わります。ご注意下さい。

ー◇◆◇ートーマ

 仮装パーティーの会場は、中等部の室内訓練場を飾り付けて行われていた。
 自由参加と言うことだったが、ほぼすべての中等部の生徒が集まっているみたいだ。
 「うわっ!トーマ、すっごいもふもふだ!」
 フィルが僕の服を触りながら、にっこりと微笑む。
 僕はふわふわの羊毛で全身おおわれていた。
 頭から足先までモコモコしている。出ているのは顔と、手だけだ。
 フィルは「おぉ~」と言いながら、僕のフードについている偽物の羊耳をつまむ。
 「……羊の着ぐるみだな」
 唸りながら、僕をもふもふする。
 「キグルミ?」
 僕が首を傾げると、フィルは誤魔化すように笑った。
 「いや、何でもない。…しかし、これ何の衣装なの?」
 「毛刈りの時、羊を捕まえるのに、警戒させないように近付くためのものだって」
 くるりと一回転してしっぽも見せる。フィルはその細かい出来栄えに、可笑しそうに笑った。
 「へぇ、確かにこれだったら、羊か人間かわからないや」
 「うん。僕も一目見て気にいっちゃったんだ。でも暑いんだよねぇ、これ」
 肌寒い季節だと言うのに、僕はすっかり汗をかいていた。
 「でも、もふもふ可愛いよ」
 心からそう思っているらしく、フィルは頬を紅潮させる。
 「フィルのほうこそ可愛いけど」
 僕が正直な感想を言うと、フィルは途端に渋い顔付きになった。
 「それは言わないで……変装なんだよ…」
 それからため息を吐き、キョロリと会場を見渡した。
 「それにしてもカイル達遅いなぁ。トーマ汗かいて喉乾いたでしょう?僕、飲み物でも貰ってきてあげるよ」
 フィルはにこっと微笑んで、軽やかに歩いて行った。
 フィル…一人で大丈夫かなぁ?
 心配げに見送っていると、ふと女の子の「きゃ!カイル君よ!」と言う声が耳に入ってきた。
 見ればこちらに向かってやってくる。
 さっき噂してる子もいたけど、カイルは今日もモテモテだ。
 僕は手を上げて名前を呼んだ。

ー◇◆◇ーカイル
 
 「カイル!」
 トーマの呼びかけに返事をしようとして、もこもこした羊を見つけた。
 思わず言葉に詰まる。
 服ばかりかと思ったら、こういう物もあったのか。
 ついいつものように全身黒い服を選んでしまったが……。
 やはりフィル様の言っていたように、普段着られないような恰好を選ぶべきだったかもしれない。
 トーマの元へ行き、辺りを見回す。
 いるのはトーマ一人で、フィル様の姿が見えなかった。
 おかしいな。少し前、トーマと話すフィル様の声が、聞こえたかと思ったんだが…。
 「フィル様は?」
 聞くと、トーマは自分をあおぎながら答える。
 「僕に飲み物取ってきてくれるって」
 なるほど。確かにトーマの衣装は暑そうだ。
 「もう少し早く来ればよかったな」
 事もあろうか、フィル様に取に行かせてしまうとは…。
 自分のふがいなさに眉を寄せる。
 「仕方ないよ。女の子たちに捕まってたんでしょ?」
 トーマはくすくすと笑った。笑うたびに羊のモコモコが揺れる。
 確かにトーマの言うとおりだ。
 ここに来るまでに、やたらと呼び止められた。
 いつもはそう話しかけられる方じゃないのだが、パーティーという空気が人を気安い気分に変えるのだろうか。
 「しかし、よく分かったな。捕まっていたと」
 トーマは当然とばかりの顔で、微笑んだ。
 「さっき噂してる女の子たちが通ったんだよ。カイルが黒の王子様みたいで、すっごくかっこいいって」
 黒の…王子様?
 長めの黒の上着に黒のシャツ、黒のズボンと黒のロングブーツ。所々金糸のラインが入っている以外、いたってシンプルなものだ。
 いつも着ている服とそう変わっていないと思っていたが、どこか違って見えるのか?
 やはり服はよくわからないな。
 すると、突然トーマが、へたばったような声を出した。
 「あー我慢してたけど駄目だ。やっぱり暑いや。僕、ちょっと外に涼みに行ってくる。カイルはフィルが来るまでここにいて。レイももうすぐ来ると思うから」
 「わかった」
 俺が頷くと、トーマはモコモコと動きながら外へと向かった。
 あの恰好は似合うが、敷地外では危険だな…。本物と間違われそうだ。
 ジッとしていると、人の喧騒が頭に響く。俺は息をひとつついた。
 早くフィル様、戻ってこないだろうか…。

ー◇◆◇ーレイ

 壁際にいて、黒の地味な格好をしているくせに、やたらと目立つ奴がいた。
 少年でありながら影を背負っているような、そんな雰囲気をかもし出している。
 「あ~カイル君カッコイイっ!勇気出して声かけちゃおうかな」
 「今日の仮装、黒の王子様なのね!あの物憂げな様子が素敵っ!」
 そんな女の子の声が聞こえた。
 女の子たちは、勘違いをしている。
 あれ絶対、フィル早く来ないかなぁとかなんとか、ボーっと考えているだけだぞ。
 しかし、黒の王子様か…。確かに……な。
 黒一色で一見地味そうだが、上着は立て襟で斬新だし、生地に少しだけ光沢がついていて、カイルのスマートなイメージにあっている。
 上着とシャツの胸元を少し開けて、微妙に着崩してるのもまた格好いい。
 俺だって初等部の時には、そこそこモテていたのになぁ。
 カイルもフィルも、カッコイイし可愛いし、性格もいいし、すごいのはわかってるけどさ。もうちょい俺の評価上がらないものかね?
 俺は若干拗ねるような気持で、カイルの所へ向かった。
 「あぁ、レイ。フィル様に会わなかったか?」
 ほらな。何をおいてもフィル一筋。
 「会ってないけど。トーマは?」
 「羊の恰好して、外に涼みに行った」
 肩をすくめるカイルに、俺の口から「あぁ…」と声が漏れた。
 トーマ、嬉しそうにベイル先輩の部屋から持って帰ったけど。あれ、本当に選んだのか。
 「レイはそういう格好似合うな」
 カイルが俺を褒めるとは珍しい。俺はちょっと浮かれて、ふふんと笑った。
 「だろ?俺くらいになると、何でも着こなしちゃうけどさ。こういう王子服は、特に似合うだろ?」
 俺の今着ている服は、オーソドックスな王子様スタイルだ。赤い上着に白いズボン。金糸の刺繍や飾りがふんだんに施されている。
 どっかの王子様用に作ったらしいけど、まるで俺の為にしつらえたみたいだ。
 「今日はレイ王子様って呼んでもいいぜ」
 そう言った途端、ため息が聞こえた。
 「黙りなさいよ、馬鹿王子」
 聞きなじんだ呆れ声に、俺は眉を顰める。
 その声は…ライラか……。

ー◇◆◇ーライラ

 2人の姿は遠目からでも目立った。『黒のシックな王子様と、華やかな王子様』そんな女の子たちの声が、耳に入ってくる。
 カイル君は当然かっこいいけど、レイだって黙ってればちゃんと王子様っぽいのよね。顔のつくりは悪くないんだから。
 ただ言動が残念って言うか…。
 「今日はレイ王子様って呼んでもいいぜ」
 得意満面に言う姿は、本当におバカだ。
 思わずため息が漏れる。
 「黙りなさいよ、馬鹿王子」
 私が声をかけると、嫌そうな顔でこちらを見た。
 だが、私の姿を確認すると、驚いたように目を瞬かせる。
 私はレトロなパーティードレスを着ていた。
 胸の所で切り替えしになって、あとはくるぶしまでストンと真っ直ぐな淡い黄緑のドレスだ。薄く柔らかい素材を重ねているので、ボリュームはないが動く度に風をはらんで動く。
 肩の丸く膨らんだ袖には、同色の布で出来た花があしらわれている。
 いつもは三つ編みを上にまとめているが、今日は髪を下ろし生花を飾っていた。
 「ライラ…お前どうしちゃったの?」
 そう言って、上から下まで眺める。
 ……言われると思った。
 レイとは母親同士が親友で、付き合いが長いので、パーティーで会うこともある。
 だがいつもは華やかなドレスを着ることが多く、こういう夢見る少女のようなドレスは着たことがなかった。
 「似合わないって言うんでしょ。どうせ」
 口を尖らせて言うと、カイル君が微かに微笑む。
 「いや、とても似合っている。髪もそうしていると印象が違うな。見違えた」
 なっっっ!!!
 口をパクパクさせて、思わず固まる。
 全身の血が、一気に蒸発するかと思ったっ!
 カイル君の褒め言葉の、何て破壊力っ!
 いつも一緒にいるから少しは慣れたかと思ったけど、全然だったわっ!
 「天然だから真に受けるなよ」
 そう言うレイを、ジロリと睨む。
 わかってるわよ。それ以上でも以下でもないって。まったくいい気分だったのに。
 するとふとカイル君が、会場の何かに反応した。レイもそんなカイル君の様子に気が付いたらしい。
 「どうした?」
 「あ…いや。ちょっと遅いから、フィル様に何かあったのかもしれない」
 何か…。
 そう言われて、ハッとした。
 フィル君ならあるかもしれない。今日は特にっ!
 「カイル君行って!すぐさま行って!」
 私が言うが早いか、カイル君は頷いてあっという間に人の波を抜けていく。
 「何?何かあるのか?」
 レイが訝しげに私を見る。私が誤魔化すように笑うと、何か察したらしい。
 「お前ここでトーマとアリスちゃん待ってろよ」
 レイはそう言ってカイル君の後を追いかけた。私は小さく息を吐いた。
 フィル君無事だといいけど……。
 
ー◇◆◇ーアリス

 カイルに続いて、それを追いかけるようにレイが足早に歩いていくのが見えた。
 それを見送るライラも、息をひとつついている。
 何かあったのかしら?
 首を傾げ、ライラの元へ行く。
 今日の彼女の服は、まるで花の妖精のようだ。優しい色遣いは、いつものイメージとは違うが、とても可愛らしかった。
 こういう格好もっとすればいいのに。でも、本人は柄じゃないって言うのよね。
 「ライラ」
 呼びかけるとライラは振り返り、私を見て微笑んだ。
 「わぁ、アリス素敵っっ!」
 感嘆の声に、少し照れてしまう。
 「そう?」
 「よく見せて」
 ライラに言われて、私は手を広げる。長い袖がひらりとひらめいた。細かい花の模様が入った布は、金糸が入っていてひらめくとキラキラと輝く。
 「これって、この前衣装探しの時に見た民族衣装よね?形が違うと思うんだけど」
 首を傾げて、長く垂れる袖を見る。
 「フィルがアレンジ画を描いて、ベイル先輩が直してくれたの」
 「フィル君が?何でもやるわね、本当に」
 驚くライラに、私はコクリと頷いて笑った。
 「もともとの衣装が、フィルの知っている『キモノ』っていう民族衣装に似ていたらしくってね。そのキモノって言うのに近付けてくれたの」
 お腹に巻いている帯が少し苦しいけど、帯を使って作られたリボンがとても可愛い。フィルが作ってくれたこのゾウリと言うのも可愛いし。
 「真っ直ぐな黒髪に、華やかな生地が合ってるわ。まるで人形みたいね」
 「ありがとう」
 ライラに向かって、にっこりと微笑んだ。
 そう言えば、フィルに見せた時も『すっごい可愛いよー!ニホン人形みたい!』と喜んでくれたっけ。
 思い出して小さく笑う。
 「え、何?思い出し笑い?どうせフィル君絡みでしょう」
 ニヤリと笑って指摘され、カァッと頬が紅潮する。
 もう、ライラったらそういうところ鋭いんだから。
 「そ、そう言えば、さっきカイルとレイがどこかに向かったみたいだったけど。何かあったの?」
 ライラは唸って、息を吐く。
 「それが、フィル君に何かあったかもって…」
 私は小さく息を飲んだ。
 「フィルに?」
 私は不安な気持ちで、ライラを見つめた。ライラは慌てたように、私の手を握る。
 「ごめん!まだ何かあったって、決まってないから!でも…」
 「でも?」
 珍しく口ごもるので、私は先を促すように彼女の顔を覗き込んだ。
 「私…フィル君にすすめた服あるのよ。ほら、ファンクラブとかしつこいじゃない?だから、ある意味変装にって思ったんだけど…。フィル君じゃ、変装にならなかったかも……」
 腕を組んだライラは、考え込むように唸り、天井を見上げて大きなため息を吐く。
 すると、そこへモコモコとした物体がやって来た。
 「と……トーマ……?!」
 ビックリした。本物の羊かと思った。
 「あれ?まだフィル戻ってきてないの?」
 トーマはモコモコさせながら、目を瞬かせて首を傾げた。

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