【本編完結】嫌われ偽聖者の俺に、最狂聖騎士が死ぬほど執心する理由

司馬犬

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2章

4.偽聖者は捜索中《2》

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 エンジを探すといっても、部屋の場所を知っているわけではない。そのため、全体を見やすい外から探すことにした。幽霊に近い今の状態なら、浮遊することが可能だ。だから俺はバルコニーから飛び降りて、辺りを漂うことにした。
 外は星が良く見える晴れた夜空だったが、風は少々強い。この神皇宮殿は、聖都の内でも一際高い建物で、外に出るだけで聖都が一望できる。俺の自室は二階だが、それでも十分といった景観だった。
 とりあえず、宮殿の外周を回るように動き、外から気になる部屋を見つけると、文字通り頭を突っ込んで中を確認した。そして。気になるものがなかったら次へ、といったように部屋を見て回る。

「まあ、そう簡単に見つかるわけがないな」

 この宮殿は広い。聖者と教皇の住まいとなっているが、世話役の神官たちも、ここで寝泊りしているから当然、部屋数も多い。
 やはり何の情報もないのに、聖者の部屋を見つけようというのはかなり無謀だったかもしれない。わかっていたが、今日を逃すと暫く機会はない。だからこそ、無理だとわかりつつ動いたのだが、どうにも見つけられなさそうだ。
 夜明けの時間も迫っているし、フシェンも待っている。

「ゴート。見つからないからそろそろ」

 これくらいで戻ろうと、言いかけたその時だった。不快な耳鳴りが響き、息を止めた。

『──いやだ、まだ死にたくない!』
「ッ!」

 ガンッと殴りつけられたような衝撃と同時に大きな声が頭の中に響き渡る。俺はその声の騒がしさに頭が痛んで眉を顰めた。
 この、頭の中で鳴り響くような声は……!

「ゴート!」

 これは、神に願う人間の願いだ。つまり、今近くには死に瀕している誰かがいて、救いを求めている。
 内容が内容なだけに、猶予はない。咄嗟にゴートを呼ぶとすぐに金色の霧が文字へと変わる。

『大丈夫だよ、レダ! 場所はすぐそこだ!』

 ゴートの文字が消えると矢印に変化する。それは上を差しており、俺は上を見上げた。
 見えたのはここより上階にある一室のバルコニーにいる人影だ。問題はその人影がバルコニーの柵にしがみ付き、ぶら下がっている状態だということだ。
 その状況を見て、思わず息を呑む。

「まずいな、あれは……ッ」

 なぜ、ああいう状況に陥っていたのかは気になるが今は後回しだ。あの人影は必死に掴んでいるが、既に限界が近いのだろう腕は震えて今にも手を離してしまいそうだ。このまま地面へ落下すれば、間違いなく助からない。
 先の事を想像してしまい、背筋には嫌な汗を感じ、舌打ちでもしたい気分だ。このままではまずい。
 俺がゴートの方へ眼を向けると、彼も理解していたのだろう。すぐに俺の掌まで歩いてくると収まった。

「時間稼ぎを頼んでいいか」
『うん!』
 
 俺は力強く頷いてからゴートを掴み、上空に放り投げる。その速度に乗って、ゴートは上へと飛んでいく。
 浮けるゴートが腕を引っ張れば、負担が減って少しは楽になるはずだ。ただゴート自身にはそこまで力はないため、引き上げることは不可能だ。ただ時間を稼いでもらうだけだ。
 ──急げ、急げ!
 自分を急かしながら、辺りに使えるものはないかと目を配る。その時、下の方に生えている木々を見つけて、すぐに指を鳴らした。
 次の瞬間、一本の木が一気に成長を始めて生い茂る葉が広がっていく。同調するように他の木も成長を始め、葉が広がっていく。

「これだけでは、さすがに足りないな。後は」
『レダぁ! はやく、そろそろ限界!』

 金色の文字が俺の前に広がる。それを読んで、上を見上げた瞬間だった。

「あ……」

 微かだが、絶望したような声が俺に届いた。それはバルコニーにしがみ付いてた人の声だろう。次の瞬間、掴んでいた手はついに柵から離れ、支えていたゴートと共に宙へと投げ出される。その光景にひゅっと息を呑むこむ。
 そして、そのまま一気に落下を始めた。

「──間に合え!!」

 指を鳴らすと同時に、凄まじい勢いの風が巻き起こる。それは落ちる人影の下から上空へと吹き抜けていく。ゴートが必死に上へと引っ張っているため、風の力と合わさり落下の速度が落ちていく。そして、そのまま俺が伸ばした木の上へと落ちていった。
 バキバキと枝が折れる音が大きく辺りに響いて、その姿は緑葉に埋もれて見えなくなる。俺はすぐにその姿を追って、地面へと降り立つ。

「ッ、無事か!」

 すぐに地面に倒れる人影を見つけると、飛びつくように近づく。倒れているのは、金色の髪の十代後半くらいの青年だった。
 頬や手足には、小さな切り傷が残っているが、多分木の上に落ちた際に枝などで切れたのだろう。他にも怪我はないか、確認するが外見にはそれ以上の怪我はないように見えた。

「ん……っ」
「はあ……。よかった、生きてる」

 微かに漏れた声と、上下する胸を確認できて、そこでようやく安堵から胸を撫でおろす。どうやら意識は失っているようで、青年の目は開かない。
 助けられて本当によかった。本当なら無傷で助けてあげたかったが、この状況ではこれが最善だったはずだ。
 人の願いを叶えるための奇跡は基本的に起こりうる範囲に留めないといけない。これはゴートの教えてもらったことだが、起こりえない奇跡は人を不安にさせるからだ。
 例えば、さきほど青年を浮かすなどの方法で力を使うと、悪霊に憑りつかれたなどのよくない疑念を抱くものも現れるということだ。
 何でも加減が必要だということらしい。

『つかれた……』

 乱雑に書きなぐったような文字が目の前に浮かび、ゴートが指先で地面に立ち、どことなくぐったりしている。

「お疲れ、ゴート。助かった、感謝するよ」

 今回の一番の功労者は間違いなく、ゴートだろう。彼がいなければ、命は助けられても青年が悲惨な目にあっていた可能性がある。
 それにしても、この夜明け前に青年はどうしてバルコニーから落ちそうになっていたのだろうか。
 しばし、考え込んでも正解を得られる訳もない。どうせなら、さきほどぶら下がっていたバルコニーの部屋の様子を伺おうとしたとき、ふと声が聞こえた。
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