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第三話 芳樹
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本当に噂とは怖い。
しかも広がり方が尋常なく早いのも、少し引っかかる。
たかが新人に。
俺は残っている弁当を見る。
後少しかと思うと、美味しいとはいえなくても残念だった。
肉巻きアスパラを口に入れ、白木の事を考えた。
白木は良い奴なのに、どうして馴染めないかが分からなかった。
真面目で余計な事を喋らない。
仕事をするには理想的じゃないか。
とはいえ確かにコミュニケーションは下手だから、日頃から少しお喋りくらいはして欲しい。
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白木から色々話を訊くと女性の先輩からうるさく小言を言われるらしいのだが、どれもが上げ足で、俺は呆れた。
どうして女はそういう陰湿な事をするのかが分からない。
美恵が働いたら、いい的だろう。
俺が美恵に働かせたくないのはその為だ。
美恵の両親との約束でもあるけれど。
金は沢山ある事に越した事はないのだから、パートに出たって良いと思うが、中々OKを出す気になれない。
むしろ、美恵がもう少し要領が良ければ、パートに出た方が気晴らしにいいと思う。
家にいても、何もしていないでテレビしか見ていないのだろうから。
しかしそういう簡単な問題でもない。
白木みたいな子を見ていたら、美恵には家事だけ頑張ってもらえば充分だ。
白木はデスクワークではミスをする事はあまりないが、緊張からミスをしやすくなったそうだ。
それを寄ってたかって周りが揚げ足取りをしたり、そんな事までも噂に含めて広めたりする。
バカな事ばかりだ。
暇人め。
俺は頭を悩ませた。
白木と美恵がダブる。
一生懸命やればやるほど空回りの白木。
同じような美恵。
2人とも似てるな。
俺はまた苦笑いした。
恥ずかしい。
美恵が好きだからって、白木を気にするなんて。
全然違うのに。
慌てて残りのメシを頬張ると、喉につかえてむせ、冷めてまずいコーヒーを飲むしかなかった。
温かいコーヒーを入れなおして、席に戻る。
家なら美恵が文句付きでも淹れてくれるのに。
今は昼休み中のせいか、フロアはほとんど人がいない。
好きに悩み、考えられる。
さて、白木はどうしたものか。
2人で呑みに行けば、また噂だ。
どこかで見張りでもされているのだろうか。
噂の早まり方が早い。早過ぎる。
まさか白木が口を滑らせているなんて事はないだろうか。
まさかな・・・。
俺は弁当を片づけながら白木の性格を考えた。
真面目・・・。
素直・・・。
嘘が付けない・・・。
こりゃ白木からバレてるかもな、案外。
寄ってたかって問い詰められて、咄嗟に嘘が付けるとも思えない。
俺はため息を吐いた。
とはいえ、俺も白木と似たりよったりで、質問責めにされてないから助かっているだけだ。
白木と同じ状況になったら言ってしまうだろう。
最近は落ち込んでいるのが目に見えているし、疲れている。
何か白木を元気付ける方法はないか。
俺は頭を悩ませた。
けれど何も思いつかない。
2人で呑みに行く事が、一番の解決なんだがな。
そうだ! 家で呑めばいい!
俺は思わず立ち上がってしまったので、慌てて座った。
家なら浮気じゃない。
後輩を連れて呑みに来たと美恵にも言えるし、奥さんの前で浮気なんてありえない。
だから白木からでも他の奴らにも堂々と言える。
もしかしたら、今までの噂も帳消しに出来るかもしれない。
ナイスアイデア!
俺は一人にんまりする。
早速白木に教えてやろう。喜ぶだろうか。
俺はケータイを取りだしメールを打った。
『元気か? 今日は俺の家で呑まないか? 嫁さんの手料理は無理だが、何かつまみくらいあるだろう。ピザでも取るか?』
送信、と。
さてさて、白木は今昼か?
俺はあまりのひらめきに、自分を誉めたくなった。
いや、誉めて欲しい。
返事はすぐに来た。
白木からだった。
『いいんですか? ご迷惑じゃありませんか?』
俺は白木らしい返事だと思った。こうした気遣いをすぐにする。
いいヤツだ。
俺はすぐに返事をする。
『迷惑じゃない。俺の嫁さんも喜ぶよ。後輩なんて連れて帰った事ないからな。それより夜遅くなるだろうけど、大丈夫か?』
送信、と。
俺は一人満足し、淹れ直したコーヒーを飲んだ。
うまい!
しかも広がり方が尋常なく早いのも、少し引っかかる。
たかが新人に。
俺は残っている弁当を見る。
後少しかと思うと、美味しいとはいえなくても残念だった。
肉巻きアスパラを口に入れ、白木の事を考えた。
白木は良い奴なのに、どうして馴染めないかが分からなかった。
真面目で余計な事を喋らない。
仕事をするには理想的じゃないか。
とはいえ確かにコミュニケーションは下手だから、日頃から少しお喋りくらいはして欲しい。
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白木から色々話を訊くと女性の先輩からうるさく小言を言われるらしいのだが、どれもが上げ足で、俺は呆れた。
どうして女はそういう陰湿な事をするのかが分からない。
美恵が働いたら、いい的だろう。
俺が美恵に働かせたくないのはその為だ。
美恵の両親との約束でもあるけれど。
金は沢山ある事に越した事はないのだから、パートに出たって良いと思うが、中々OKを出す気になれない。
むしろ、美恵がもう少し要領が良ければ、パートに出た方が気晴らしにいいと思う。
家にいても、何もしていないでテレビしか見ていないのだろうから。
しかしそういう簡単な問題でもない。
白木みたいな子を見ていたら、美恵には家事だけ頑張ってもらえば充分だ。
白木はデスクワークではミスをする事はあまりないが、緊張からミスをしやすくなったそうだ。
それを寄ってたかって周りが揚げ足取りをしたり、そんな事までも噂に含めて広めたりする。
バカな事ばかりだ。
暇人め。
俺は頭を悩ませた。
白木と美恵がダブる。
一生懸命やればやるほど空回りの白木。
同じような美恵。
2人とも似てるな。
俺はまた苦笑いした。
恥ずかしい。
美恵が好きだからって、白木を気にするなんて。
全然違うのに。
慌てて残りのメシを頬張ると、喉につかえてむせ、冷めてまずいコーヒーを飲むしかなかった。
温かいコーヒーを入れなおして、席に戻る。
家なら美恵が文句付きでも淹れてくれるのに。
今は昼休み中のせいか、フロアはほとんど人がいない。
好きに悩み、考えられる。
さて、白木はどうしたものか。
2人で呑みに行けば、また噂だ。
どこかで見張りでもされているのだろうか。
噂の早まり方が早い。早過ぎる。
まさか白木が口を滑らせているなんて事はないだろうか。
まさかな・・・。
俺は弁当を片づけながら白木の性格を考えた。
真面目・・・。
素直・・・。
嘘が付けない・・・。
こりゃ白木からバレてるかもな、案外。
寄ってたかって問い詰められて、咄嗟に嘘が付けるとも思えない。
俺はため息を吐いた。
とはいえ、俺も白木と似たりよったりで、質問責めにされてないから助かっているだけだ。
白木と同じ状況になったら言ってしまうだろう。
最近は落ち込んでいるのが目に見えているし、疲れている。
何か白木を元気付ける方法はないか。
俺は頭を悩ませた。
けれど何も思いつかない。
2人で呑みに行く事が、一番の解決なんだがな。
そうだ! 家で呑めばいい!
俺は思わず立ち上がってしまったので、慌てて座った。
家なら浮気じゃない。
後輩を連れて呑みに来たと美恵にも言えるし、奥さんの前で浮気なんてありえない。
だから白木からでも他の奴らにも堂々と言える。
もしかしたら、今までの噂も帳消しに出来るかもしれない。
ナイスアイデア!
俺は一人にんまりする。
早速白木に教えてやろう。喜ぶだろうか。
俺はケータイを取りだしメールを打った。
『元気か? 今日は俺の家で呑まないか? 嫁さんの手料理は無理だが、何かつまみくらいあるだろう。ピザでも取るか?』
送信、と。
さてさて、白木は今昼か?
俺はあまりのひらめきに、自分を誉めたくなった。
いや、誉めて欲しい。
返事はすぐに来た。
白木からだった。
『いいんですか? ご迷惑じゃありませんか?』
俺は白木らしい返事だと思った。こうした気遣いをすぐにする。
いいヤツだ。
俺はすぐに返事をする。
『迷惑じゃない。俺の嫁さんも喜ぶよ。後輩なんて連れて帰った事ないからな。それより夜遅くなるだろうけど、大丈夫か?』
送信、と。
俺は一人満足し、淹れ直したコーヒーを飲んだ。
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