こんなに悩むのはあなたのせい

如月一花

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第七話

1  主犯格あらわる

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 妊娠中期を迎えると、つわりは段々治まり、私も外出したいと思えてきた。
 あれから、母や芳樹に言われても、家に籠ってしまいがちだった。
 近くのコンビニなら行けたけれども、スーパーは芳樹が勝手に行ってくれていたし、夕御飯も私が作るのではなく、芳樹が作る時もあり、割りと楽だった。

 楽になったら、今度は散々昼寝をしてしまい、このままでいいのかと思うほどだった。昼寝をした償いにと夜ご飯を作るのだけれど、内容は、やる気がないせいかあまりパッとしない。
 芳樹が作った方が美味しそうで、レパートリーも増え、それがちょっと悔しい。

 でも、楽になったとはいえ、妊婦は妊婦。
 思うように動けないのが現実だった。

 中期に入った頃から、芳樹は家に白木を呼ぶようになった。
 私の気持ちなんておかまいなしに。

 でも、私とデートもしてくれていた。
 買い物や映画、公園をブラブラ。近々お医者さんに相談して旅行に行けるかも訊いくる予定だ。なんだかんだで、私を大事にしてくれているのは分かる。分かるのだけれど、白木を週に一度の割合で呼ぶのは嫌だった。

 映画を見終えた後、それとなく嫌だと言っても通じない。
それはストレスだった。 


 それならば散歩中になんとなく話してみるかと思うも「白木は大変なんだ」とそれだけだった。それ以上は話してくれない。以前白木を連れて呑みに来た時と同じで、詳しくは何も話してくれなかった。何も納得がいかないまま、楽しみにしていた旅行は、長野に決まった。

 膨らみ始めたお腹を気にしながらの旅行は、まるで3人の旅行のようだった。
 ホテルの部屋に着くと、芳樹は突然甘えてきた。

「疲れたあ。癒しが欲しいー」
 と言いながら、あちこち体を撫で回すのだけれど、私は別にそういう気分じゃない。


「美恵ー。美恵ー。最近冷たいぞー」


 私は仕方ないなと思いながら、芳樹からキスをされる。それが本格的になって、思わず拒否する。


 あ、ヤバイ。


「キスくらいはしたいよ」
芳樹はスネて、私を悲しそうに見た。でも、嫌だった。拒絶していた。


「ごめんね。芳樹を嫌いじゃないの。ただ、なんていうか・・・」

 ホルモンバランスの関係、それだけなのかな、と思ってしまう。
 白木の存在。
 お腹の赤ちゃんへの影響。
 色々考えると、とても芳樹とセックスする気持ちにはなれない。
 妊娠をきっかけにセックスレスになるって、今なら分かる。


「まあいいよ。少し休んだら、外を散歩しよう。来た道、凄く綺麗だった」


「うん」


 私はそっとベッドに寝転ぶと、疲れからか、思わず寝そうになる。
 でも、寝たら旅行が台無しだとまたむっくり起き上がった。 

「外、行こう」 


「休憩しなくていいのか? 疲れてるだろ」


「久しぶりに歩かないと。体力なくなってるし」


「まあ。大丈夫なら」


 そうしてホテルを出ると、様々な木々が植わる森を歩き始めた。
 最初は景色に見とれてはしゃいでいたけれど、やっぱり白木の事が気になる。
 
 芳樹と2人きりの時にも・・・。

「ねえ。白木さんに恋愛感情がないのは分かるの。そのつもり。でも、そこまで気にかけないといけない子? 家に来るとしっかりしてるじゃない」
 手を繋いで歩いていた。その手を芳樹が強く握り返す。


「まだ気にしてるのか」


「だって男と女でしょ? 会社じゃ部下と後輩。恋愛と友情の堺なんて、そんな曖昧な存在ある? 無いでしょ? 少なくとも、私には、理解出来ないの。芳樹が鈍感なだけで、白木さんは芳樹を好きかもしれない。それを芳樹も気がついているけれど、知らないフリをしているだけかもしれないって、私には時々そう見えるの。それに…」

先は言えなかった。
単なる嫉妬。仲間外れが嫌なだけ。
 それが本心。 
 

「でも!」と続けようとしたら、芳樹はため息を吐いた。


「白木はイジメられてるって、知ってるだろ?」
芳樹が真面目に言う。


「前に聞いたけど」


「その主犯格が分かったんだ」


「主犯格? そんなのいるの? なんの為に? 大人になってまで?」
驚いて、声が大きくなってしまった。芳樹は相槌を打つだけだ。


「美恵はお局って分かるか? 長く会社にいて、会社の事を裏で操るような女」


「うん。そういうのはなんとなくね」


「白木はそういう奴らからイジメられてる。仕事を3人分押し付けられて、キチンとこなしても、それはそれで妬まれて嫌味言われて。白木はデスクワークは得意だから、書類作りが綺麗なんだよ。でもそれがかえって妬みになる」

「なによそれ。代わりに仕事してやってんのに、なんなの? なにがしたいの?」
怒りと驚きで、芳樹に問い詰めてしまうが、芳樹は落ち着いていた。


「俺にも分からない。そもそも、そんな奴らの気持ちなんて分かりたくない」
 芳樹は石ころを蹴った。長い道のどこまでもコロコロと転がる。


「でも、その人達はどうにも出来ないの? 労働基準法だっけ? ほら、他にも社員を守る法律あるでしょう!」


「労働基準法は、会社が劣悪な環境の場合には効果があるもしれないけれど、こうして個人に対する嫌がらせには何もないだろ。なにより、白木がそんな所に行かないよ」


「どうして? そんな目にあって、何か一つやり返さないと」
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