こんなに悩むのはあなたのせい

如月一花

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第八話

1   芳樹と赤ちゃんと、そして

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 私達は神社の坂道を歩いていた。
 戌の日のお参りは済ませていたが、もう一度行きたいと思って、別の神社に来ていた。
 ゆっくり歩いているのに、息切れが酷い。お腹も前より重いように思う。

 何度その場で芳樹にしがみついて、休憩したか分からない。
 その横をスタスタと、おばさんから、果てはおばあさんまでが抜かしてゆく。

 私の体、今何歳?
 そもそも、体が一気に年老いたみたいになるなんて、酷い。

「大丈夫か? お守りは俺が買ってくるから、美恵はその辺で休んでろよ」


「ダメよ! ちゃんとお参りしないと意味ないの。ここは有名なパワースポットなんだから! 絶対に安産がいいの!」


「ああ。そうか」


 芳樹が呆れながら言い、私の手を握る。私はその手だけが頼みだとばかりに、必死に息を整える。

 ようやく鳥居まで着いて、一安心。そう思っても、本殿まではまだ歩く。
 けれど坂道から開放されたから気も楽になる。
 のんびり歩いて、ようやく到着した。
 手と口をお清めして、それから神様にお願いした。

『元気で産まれてきますように。安産でありますように。健康でありますように。お金に困りませんように・・・』


 私が必死にお願いし振り向くと、芳樹はさっさと済ませて私を少し呆れて見ていた。


「煩悩の塊だな」


「違うわよ」


「神様は、そういうの無理だってさ」


「困る。こっちは必死に坂道歩いてきたんだから」


「そういうのは関係ないよ。皆ここまで歩いてるんだから」
 芳樹はニヤニヤして、私の手をまた引くと安産のお守りを買ってくれた。

「他にもあるけど、どうする?」


「うーん。今年も後少しだし。でも、芳樹には早く昇進して欲しいし、ボーナスもアップして欲しいからなあ。そういうお守りないかしら?」
 お守りが置いてある所を必死に見ながら、冗談半分で言ってみる。


「そういう限定品はない」


「じゃあ。大器晩成ってお守りは?」
 適当なのを一つ取って、芳樹に見せる。


「いいの? 大器晩成で? それだと今は昇進出来ないよ」


「それはイヤ。じゃあ、もう一つお仕事に関係しそうなお守り買わないと。でも、いつか大物になればいいじゃない。人生長いんだし」 


 なんだか芳樹が私に微笑んだ気がした。
 なんだろうと見直したけれど、もういつもどおり、無表情みたいな芳樹になっていた。

 白木の事でも考えているのだろうかと勘ぐってみるも、こればかりは分からない。

 辞表の話を芳樹から突然言われた時には驚きもしたけれど、私は辞めて良かったと思う。
 どんな事をしても、悪い事を悪いと思えない人と付き合うのは難しい。
 そもそも、人間なんていつだって、自分は正しいと思って皆生きているのだから、年を取れば考えを曲げるなんて無理に近い。

 父が良い例。
 私と芳樹の事を最後まで反対した。
 それどころか、初めは親族全員から反対された。

『顔がブサイク』

『入社した会社がダメ』

『学歴見たけど、その人馬鹿じゃない?』

 などなど、偏見だらけだった。
 けれど、私は学生の頃から芳樹と付き合っていて、もう離れたくはなかった。
 お付き合いにしたら6年くらい。友達の期間は1年くらい。

 それまでに、ちゃんと高学歴で高収入予備軍の人とも友達になった。
 でも、なんだか違う。
 話がつまらない・・・というか、上手く表現出来ないが。

 別に常に面白い事を求めていたわけではないけれど、毎日顔を合わせているのに、話がちんぷんかんぷんで、おまけにつまらないとなると、結婚生活はキツイだろうなと容易に想像出来た。
 だからか、私がつまらなそうな事が分かると、必死に面白い話をしようとするのだけれど、誰ものどの話題もが、やっぱりどれもつまらないのだ。
 
 なんでだろうか。

 理由が分かった時、自分が父に無意識にでも反発している事がわかった。
 父みたいな所があるのだ。

 そうして、私は芳樹と本気で付き合う事に決めた。

 後に友人からの噂で分かったのだけれど、私と付き合う事により、父の会社にコネ入社出来ると思っていた人もいたらしい。
 そういえば、別れようとしても、随分必死に食い下がる人もいた。

 要は、そういう人間が嫌だったのだろう。
 芳樹のように、普通に自分の道を歩む人を、どこかで憧れていたのかもしれない。

 神社のお参りから数週間後。
 その日の検診は、性別が分かる予定だった。
 男か女かで人生が変わるわけではないけれど、とても気になる。 

 ウキウキして待合室で待っていたら、もうお産が近いような、大きなお腹の妊婦さんが近くに座る。

 私のお腹、あんなに膨らむだ。
 重いよね。絶対。
 凄く重いに違いないんだよね。

 私は思わず見てしまった。心のどこかで思う。

 無理、と。
 そして、怖い、と。

 田島さんと呼ばれ、私は診察室に入る。
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