《完結》『沈黙の騎士と秘密の代筆屋』

誰も知らない場所に、小さな部屋がある。
細い路地の奥、苔むした石畳の先。
看板もなく、扉も古びていて、まるで“見つけられないように”そこにあるかのようだった。

中には、魔法書が積み重なった本棚と、灯りの弱いランプ。
湿った紙と古いインクの匂いが、ほのかに漂っている。
この部屋で言葉を書き、生きている少年がひとり。

──代筆屋。
そう名乗ってはいるけれど、依頼人はそう多くない。
彼の書く手紙は、時に優しすぎて、時に痛々しいほど正確で。
それを必要とする者は、この町ではほんのわずかだった。

けれどそれでもいいと、少年は思っていた。
誰にも気づかれなくていい。
見つけた人だけが、ここに来ればいい。

そうして今日もまた、少年はインク壺の前に座り、静かにページを開く。

そして──
その扉が、初めて“沈黙”によって叩かれる。

振り返ると、雨の匂いを纏った男が、扉の外に立っていた。
言葉を持たない、ひとりの騎士だった。


本編17話/番外編5話予定




ゆるゆる更新
24h.ポイント 56pt
362
小説 15,897 位 / 211,201件 BL 4,243 位 / 29,202件

あなたにおすすめの小説

処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される

水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。 しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み! 生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。 ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。 しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。 「――俺の番に、何か用か」 これは破滅を回避するためのただの計画。 のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。 悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

王太子殿下のやりなおし

3333(トリささみ)
BL
ざまぁモノでよくある『婚約破棄をして落ちぶれる王太子』が断罪前に改心し、第三の道を歩むお話です。 とある時代のとある異世界。 そこに王太子と、その婚約者の公爵令嬢と、男爵令嬢がいた。 公爵令嬢は周囲から尊敬され愛される素晴らしい女性だが、王太子はたいそう愚かな男だった。 王太子は学園で男爵令嬢と知り合い、ふたりはどんどん関係を深めていき、やがては愛し合う仲になった。 そんなあるとき、男爵令嬢が自身が受けている公爵令嬢のイジメを、王太子に打ち明けた。 王太子は驚いて激怒し、学園の卒業パーティーで公爵令嬢を断罪し婚約破棄することを、男爵令嬢に約束する。 王太子は喜び、舞い上がっていた。 これで公爵令嬢との縁を断ち切って、彼女と結ばれる! 僕はやっと幸せを手に入れられるんだ! 「いいやその幸せ、間違いなく破綻するぞ。」 あの男が現れるまでは。

麗しき王子様の愛する人

みあき
BL
その時が訪れるまで、私たち二人だけの秘密。 元々は、総てを持っている王子様の伴侶に相応しい人はどんな人か、と王子への恋慕を同性を理由に諦めている主人公が色々考えるという話を書こうとしていました。色々考えてたら違うものに落ち着きました。 色々削って、なんかふわふわした話になったな…と思います。 他サイトにも投稿してます。

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。