くしゃみで二人っきり AM編

城山リツ

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くしゃみで二人っきり アニー×ミチル編

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これは……本編とは全く、一切、1ミリも関係ない、妄想ifストーリー……



 
 ( ~д~)ハ・・・ハ・・ (o>Д<)o・’.::・ハックショォンッ!!


 

「アルバイト?」

 ミチルがそう聞くと、アニーはにこやかにコーヒーを飲みながら答えた。

「そ。ボスの別荘のね、大掃除」

「オレとアニーでやるの?」

「うん」

「あんな大っきいお屋敷を?」

 ミチルはちょっと逃げ腰だった。ボスの別荘は一度行ったが部屋がいくつもあったし、三階建だった。それを二人でやるなんて一週間では終わりそうにないのでは、と思った。

「ああん、違う違う。掃除するのはね、地下の倉庫だけ!いろんな物をドンドン運んでほっといたからさ、整理するんだ」

「ああ、なんだ」

 ミチルはほっとした。でも、ちょっと待って。マフィアの使ってる倉庫なんて入っても大丈夫なの!?
 見てはいけないものが入ってるんじゃないの!?

「ちなみにぃ、バイト代はこれだけ♡」

 アニーが指を三本立てて笑う。

「3000円?」(※わかりやすく日本円で表現しています)

「ノーノー」

「3万円?」(※わかりやすく日本円で表現しています)

「なんのなんの」

 もっと上の金額を想像したミチルは無になって、右手で制止のポーズをとった。

「お断りします」

「えええっ!?」

 アニーは大袈裟に驚いた。ご丁寧にのけ反ってまで。

「学生がバイトで受け取れるのは、ン万円までなんだよ!30万なんてそんなのほぼ闇じゃん!闇バイトじゃん!」(※日本円で表現しています)

「へー、チキュウだとそうなんだー」

 アニーはわざと棒読みで感心して見せた。ミチルはこいつは元々マフィアの掃除屋だったことを改めて思い出す。

 冗談じゃない、⚪︎体処理の片棒なんか担ぎたくない!

「じゃあ、わかった。ミチルが3万、オレが297万ならいいよね?」

「さん、びゃく、まん!!」

 金額の正体にミチルは腰が抜けそうになった。

「それでえ、ミチルはついてきてくれるだけでいいから!処理は全部俺がやるし!」

「やっぱり遺⚪︎処理!!」

 完全にミチルは腰が抜けた。

「バイトが終わったら、好きなだけ別荘に滞在してもいいんだって」

「え?」

「ミチルも知ってるでしょ?川のせせらぎ、静かな森……」

 確かに、絶好の癒しロケーションではある。
 ミチルは少し考えてしまった。この前は夜だったから全然散歩とか出来なかったし。
 ダリアの街は砂利とホコリばかりで、ミチルは少し自然が恋しかった。

「ねえー行こうよぉ。マイナスイオン浴びまくろうよぅ」

 アニーは甘えた声を出し始めた。ミチルがイケメンに甘えられたら逆らえないことを知っているのだ。

「ぐぬぬ……その顔と声には逆らえない」

「よおし、決まり!」

 アニーは両手を挙げて喜んだ。
 それから抜群にかっこいい、艶のある微笑みでトドメをさす。

「いつかの夜の、続きをしよう……?あっためてあげる」

「にゃあああ!」

 途端にミチルの頭は沸騰する。抜けたはずの腰がちょっと疼いてしまった。


 

 ( ~д~)ハ・・・ハ・・ (o>Д<)o・’.::・ハックショォンッ!!


 

 ボスの別荘は相変わらず森の中に、人目を避けるように佇んでいた。
 なんだか不気味な影が差し込んでいる気がする。
 実際は雲が動いて一瞬だけ陰っただけなのだが、倉庫にあるであろうブツを想像してミチルは悪寒が止まらない。

「地下の倉庫はさ、外に扉があるんだ」

 アニーは慣れた足取りでその方向を指す。
 だいぶ伸びた雑草をかき分けて裏に回ると屋敷の基礎が剥き出しの部分に古いドアがついていた。

「……ミチルは入らなくてもいいよ、屋敷で待ってたら?」

 アニーの優しい申し出を、ミチルは勇気を振り絞って断った。

「いいい、や、バイト代3万の働きはするから!入るのはゴメン、だけど入口で見張りくらい出来るから!」

「……なるほど。確かに見張りは必要だ」

 ほらあああ!
 やっぱり見せられないものが入ってるんでしょ!?

 アニーが真面目に頷いた顔を見て、ミチルは確信した。
 この倉庫には、きっと、骨的なアレが山のように安置されているに違いない!

「じゃあ、そこで待ってて。そんなにかからないと思うから」

「う、うん。気をつけてね、アニー……」

 ミチルがそう声をかけると、アニーは目を丸くして固まった後、急に戻ってきた。
 そんでもってミチルをがばちょと抱きしめる。

「ミチルぅ!」

「え、え、何、もう何かいたの!?」

 恐怖心でそっち恋愛のスイッチが入っていないミチルは狼狽えたが、アニーは顔を緩めて頬擦りをかます。

「もう、やだあ!そんなに一生懸命俺の心配して、チョー可愛いんだけどぉ!」

「アァ!?」

「……参ったな、君の可愛さに引き寄せられる、俺は愛の狩人」

 囁く声はかっこいい。だが、セリフが残念だ。

「早くやれ!バカ!」

「えー。俺はこのまま君の体に溺れたい」

「そういうのは終わってから!」

 売り言葉に買い言葉。ミチルはついそう口走ってしまって、やられたと思った。

「言ったね?終わったらご褒美くれるって言ったよね?」

 アニーは抱きつきながらおでこコッツンコでミチルに甘く問う。

「そこまでは……!」

 言ってないけど、そういうニュアンスはあったかもしれない。
 ミチルはこうやっていつもアニーの手のひらで転がされて、大事なところも転がされる。

「いいから、早く片付けろっ!」

 ミチルはアニーを無理やり引っぺがして倉庫の入口まで蹴り戻した。
 アニーはカッコよく体勢を立て直して振り返り、ウィンクして見せる。

「オーケー、ボス♡愛しい人

「むむむ……」

 やーばい。
 なに、あの人。顔が良すぎるんだけど。
 こんなんで誤魔化されるオレも相当だけど。

 ミチルが溜息を吐きながら倉庫から少し離れると、ガチャと扉を開く音がした。
 怖くて振り向けはしないけれど、鼻をふんふんさせて匂いを確認する。

 うーん、変な匂いはしない。
 ていうか、⚪︎体の匂いなんて知らんけど。

「おおー……また随分と溜め込んだなあ」

 アニーの独り言をミチルは耳を傾けて聞いていた。
 溜め込んだって何?お金とかだよね?

「あーあ、こんなにキレイなのに」

 ……貴婦人が借金を苦に自殺したとか!?

「こっちは、可哀想に。腕がとれちゃって」

 ……借金のかたに腕をつめられた!?

「俺にはよくわかんないけどなあ、充分売れると思うんだけどなあ」

 ……人身売買!?

「ほぎゃああああっ!」

 恐ろしい妄想をしてしまったミチルは恐怖に耐えきれず悲鳴を上げた。

「ミチル!?どうした!」

 それを聞きつけたアニーが勢いよく振り返って出ようとしたが、倉庫の中のモノが雪崩れた。

 ガラガラ、ザザー、ドドーン!

「わあ!」

「アニー!?」

 アニーが⚪︎体につぶされた!
 ミチルは恐怖も忘れて倉庫に入った。

「アニー、大丈夫!?」

「う……うん」

 目の前の光景にミチルは固まった。
 アニーの上に積み重なっているのは、人間の形をしたモノが何体も。
 生気のない瞳で、あらぬ方向を見つめる顔ばかり。

「ふぎゃああああっ!!」

 全然骨になんてなってないじゃない!
 そんな短期間でこんなに!?
 マフィア、怖すぎる!!

「いてて、しくったあ……」

 アニーはやっとのことで、その山をかき分けて立ち上がった。

「そうだ、ミチル!大丈夫?」

「アニイイィイイァアア!!」

 ミチルは半狂乱で大号泣してアニーに抱きついた。

「何があったんだい、ミチル?」

「もうダメ、帰ろうよ!300万じゃ安過ぎるよ!いや、お金の問題じゃないよ、人としての問題だよぉお!」

「いや、でも、ここの人形ちゃんと捨てないと増える一方だから……」

 ん?
 人形?

 ミチルはアニーから体を離して、足元に転がったソレを凝視した。
 大分リアルだが、確かに人形だった。ミチルが知っているマネキンに近い。

「何コレ?」

「実はね、ボスのお嬢さんは人形作家なの。ただ気難しくてすぐ作った人形をボツにするんだ」

「……お、おう?」

「それでね、お嬢さんは人形製作中は忙しくて捨てないから、ボスが代わりにボツを引き取るんだけど、ボスも捨てられなくて」

「な、なんで?」

 ミチルの問いかけに、アニーは困った様に笑って答えた。

「やっぱりさ、人の形してると捨てるのも忍びないよね。それに親は娘が作ったものは余計捨てられないでしょ」

「ぽふ……」

 ミチルは放心のあまり変な言葉が口から出てしまった。
 えーと、つまり、それってほっこり話って事でいい?

「ただ、倉庫にだって限りがある。だからね、定期的にお嬢さんから頼まれて俺が捨ててんの」

「じゃあ、バイトの依頼主って……」

「お嬢さんの方。超売れっ子だから、金銭感覚ないの。ね、美味しいシゴトでしょ?」

 金持ちの、ア・ソ・ビ!!

 ミチルはもう、何に怒っていいのかわからない。
 せっかく湧いた怒りのエネルギーは労働で発散するのが一番!

「クソがああ!とっとと掃除するぞぉ!」

 ミチルは率先して倉庫に入った。人形なら全然怖くない!

「え、ミチルも手伝ってくれるの?」

「早く終わらせるぞぉ!時給単価上げてやるんじゃああ!」

「じゃあ、ミチルの分け前増やさないとだねえ」

「オレは3万でいいです!」

 ミチルは荷車にドンドン人形を詰め込んでいく。

「まあ、俺がもらってもミチルがもらっても一緒かあ♡参ったなあ♡」

「手ェ動かせェ!!」

 色惚けしているアニーを蹴り飛ばして、ミチルはブルドーザーの様に働いた。


 

 ( ~д~)ハ・・・ハ・・ (o>Д<)o・’.::・ハックショォンッ!!


 

 ミチルの働きにより、倉庫の掃除は二時間ほどで終わった。
 倉庫は見事に伽藍堂。人形以外はなかったことになる。
 なんだ、不審がって損した。ミチルの悪寒はすっかり消えていた。

「いやあ、凄かったねミチル!」

 アニーは倉庫の外で人形をひたすら焼いていた。
 ダイオキシンとかの問題は異世界なので関係ない。

「はあ、はあ……ほっこり話とわかればこんなもんじゃい」

 ミチルは言葉は強がっているが、体力はもう限界だった。
 ここで立っているのもしんどいくらいである。

「うんうん、お疲れお疲れ♡」

 アニーはミチルの体中についた埃や蜘蛛の巣を払ってやる。

「はい、元通り可愛いね!」

「もう、そういいのいいから……」

 ミチルは基本イケメンから好意ある言葉を聞くと心臓が砕けるほどに興奮する。
 しかし、ここ最近で慣れたワードがあった。
 それがアニーの「可愛い」だ。

 アニーは事あるごとに、事なくてもミチルに「可愛い」を連発する。少なくとも毎日、ひどい時は一時間に一回くらい言う。
 最初は「人をダメにする魔性のワードやでえ!」と興奮していたが、呼吸するように「可愛い」を言うのでついに慣れた。

 やだ、もしかして倦怠期なのかしら!?
 ミチルは一抹の不安を感じる事もあるが、別のワード、例えば「好き」とか「愛してるよ」とか「ミチル……綺麗だよ」などなど、心臓破壊ワードはまだあるので多分大丈夫。

「じゃあ、川のほとりでお弁当食べようか」

 今のアニーの言葉は、ミチルが正に求めていた魅惑のセリフだった。

「食べるぅ!」

 そうしてミチルはルンルン気分でアニーの後ろをついていく。疲れとかはもう忘れた。
 十代(ギリギリ)の体力、なめんなよ!

 森では地面に雑草が生い茂る。かなり伸びているが、逆に座るにはふわふわしていて心地いい。
 ミチルとアニーは新聞紙をお尻に敷いて、弁当を広げた。

「美味しそう!」

 色々な具が挟まったサンドイッチがキラキラ輝いて見える。ミチルは感嘆の声を上げた。

「ちょっと待ってね。コーヒーも沸かすから」

「本格的!!」

 アニーは小さなヤカンを火にかけ始めた。それからコーヒー豆やドリップの準備も手早く済ませる。
 ミチルのいた日本ではアウトドア用品があるので簡単にできるが、こちらではそうもいかない。
 それなのに涼しい顔で全ての工程を鮮やかにやってのけるアニーの「旦那」力にミチルは惚れ惚れした。

「はい、どうぞ」

 アニーが差し出してくれたカップには、黒々と香ばしいコーヒーが注がれていた。

「ありがとう、……ん、美味しい!」

「よかった」

 ミチルはブラックコーヒーが飲めなかったが、アニーと一緒に暮らしているうちに飲めるようになった。
 着実と、アニー色に染まっている。実感はまだないけれど。

「さ、どんどんお食べ」

「いただきまあす!……もぐもぐ、はむはむ、うまうま」

「ミチルはいつも美味しそうに食べるねえ」

「アニーの料理が上手だからだよ!」

 ミチルは料理が一切できないので、アニーが毎食作る。
 アニーは掃除が一切できないので、ミチルが家中を掃除する。
 二人は良いバランスで暮らしている。

「一番美味しいのはミチルだけどねえ♡」

「ぶほぉ!!」

 不意打ちの心臓破壊ワードにミチルは思わず吹き出した。

「おまっ、おま、食事中にセクハラ発言すんな!」

「食べたいなあ……?」

 ミチルはもうサンドイッチどころではなくなった。アニーが熱っぽい瞳で見つめてくる。
 だが、ここは外。××を食べさせるわけにはいかないんだ!

「サン、サンドイッチ食べなよ!ほら!」

 ミチルはアニーにサンドイッチを差し出した。それに苦笑してアニーはひとつつまむ。

「意地悪」

「……ヌレギヌ!」

 イケメンが拗ねる仕草って、なんか絵になる!
 ミチルはドキドキしながらコーヒーを啜ることに集中した。

 サンドイッチをひとつ食べ切ったアニーは、ミチルが頭沸騰しているのを確認した後、自分の残ったコーヒーをくいと飲み干した。
 それからゆっくり手を伸ばして、指先でその頬をなぞる。

「ミチル」

「ふぁ……っ」

 突然与えられたくすぐったさに、ミチルは小さく声を漏らして少し身を捩った。
 アニーの指はミチルの柔らかな頬を撫でながら包む。触れた掌が、温かい。

「あ……!」

 アニーはにっこり笑ってミチルが持っていたカップを取り上げて地面に置いた。
 頬に触れていた親指は唇をなぞる。

「っあ……」

 ミチルの熱を持ち始めた下唇を親指で少し開いてから、アニーは顔を近づけた。

「んぅ……」

 アニーの唇がそこに降りる。喰むような口付けが与えられた。

「……っは」

 コーヒーの苦い香りが、舌先でとろける甘さに変わっていく。
 ミチルは柔らかく温かい快楽に、頭までとろけてしまいそうだった。

 アニーはミチルの腰を抱えて、体勢を倒す。
 カサ、と草の倒れる音がした。それから青い匂いも。
 ミチルは澄み切った空と、アニーのとてつもなく綺麗な顔に目を奪われた。

「やっ……」

 アニーがミチルの喉元にキスをしながら、腰回りを弄る。指先がもっと奥を──

「ダメえええ!!」

 ミチルは突如アニーを押し返す。

「え?何で?ご褒美くれるって言ったよね!?」

「ここはダメだろぉ!入る!入っちゃう!草とか泥とか入っちゃうから!」

 ミチルは涙目で訴えたが、アニーは少し余裕をなくしているようで再び上にのしかかった。

「大丈夫、気をつけるから♡お日様の下で二人で自然に還ろ♡」

「無理ぃい!」

「ミチルぅ、お願い♡」

 こう言う時に最も効く魔法の言葉がある。

「……無理強いするアニーはキライ」

「!」

 アニーに100のダメージ!会心の一撃!
 数秒苦しんだ後、アニーは渋々土下座した。

「……ごめんなさい」

 ミチル、win!

「よおし、よおっし!」

 ミチルは高らかにガッツポーズをする。青⚪︎阻止、成功!

「ううー……」

 顔を上げたアニーは泣きそうな顔をしていた。
 可愛い!
 子犬みたいな、あどけない顔して訴えてる。嫌わないでって訴えてる。
 極大男前呪文イケメンハセイギ!!

 ミチルは心臓をぶち抜かれて、結局折衷案を出すはめになる。

「よ、夜に、キレイなベッドなら……いい」

「ミチルぅう!!」

 それを聞いた途端、アニーは尻尾振ってミチルに抱きついて押し倒した。

「ミチルぅ、ミチルぅ!」

 頬ずりすりすり、むちゅむちゅむっちゅう。そして指は奥へ──

「だから、入るからダメだって言ってんだろぉおおお!!」

 ミチルの叫びは、蒼き空の彼方に溶けた。



 Love is so sweet…!








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お読みいただきありがとうございます
本編「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」も是非ご覧下さい
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