異世界転生から500年、隻腕の仙人は忌竜憑きと旅をする

鵩 ジェフロイ

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戻らずのドゥルス山脈

第1話 異世界転生から500年

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 オレは現代日本から、この剣と魔法のファンタジーな世界に転生をした。

 ────今から500年前に。


 前世世界の感覚でいえば大往生した人間の人生5回分は生きているのでだいぶ記憶が朧気だが、異世界転生ものの物語でよくある『謎空間でカミサマ的存在に異世界転生の告知をされ、チート能力を授けられる』的なイベントはこなした気はする。

 どうやら「こんな能力がいい」とリクエストをできるタイプだったようで、そのときのオレはなにをトチ狂ったか、かなり“アレ”な能力……こちらでは天与能力ギフトというらしい、を所望した。

 どんな天与能力かは……まぁ、見せる機会はあとでいくらでもあるだろう。

 とりあえず、オレのリクエストをきいた真っ黒なローブを着てフードを深くかぶった顔の見えないカミサマがえずくほど爆笑していたのだけはなんとなく覚えている。

 ちなみに、この謎空間の時点で現代日本で生きてきた感覚と常識や知識などは覚えていたが、名前やなにをしていていつ死んだのか、個人的な情報だけは曖昧な記憶しかなかった。このパターンは少し珍しいか?


 とにかく、そうしてオレはこの世界に転生を果たしたわけだが…………ぶっちゃけ、最初の20年ちょいがまぁーーーーーーーー大変だった。


 とある大陸のとある帝国で生を受けたオレは気づいたときには孤児で、当然、常に飢えていた。
 天与能力をこっそり使うことでどうにか飢え死にはまぬがれたが……その能力が周囲にバレたらどんな目にあうかわかったもんじゃない。
 だから、用心してギリギリまであまり使わなかった。

 そうして、十を越えるくらいまで生き残れたオレは飢えをしのぐために兵士になったのは自然な成りゆきだろう。
 前世知識で最低な環境でもできるかぎり健康でいられるように努めていたおかげか、同年代の孤児のなかじゃ身体が強いほうだったしな。

 教官のしごきや戦闘訓練はキツかったけど、衣食住の心配をしなくていいというだけで気楽だった。


 ────そんなある日、帝国が隣の大陸にある大きな王国に突然喧嘩をふっかけて、戦争が始まっちまった。


 オレたち下っ端がきかされた大義名分は「最も優秀な皇帝とその臣民たる帝国人がすべての民を治めることで世を平定する」とかうんぬんかんぬん。

 それをきいて『王国の資源が欲しいから』という利益を求めるだけだったならまぁ、まだ……と思ったが、どうやら皇帝や上級貴族内の権力闘争や王国へのある種の劣等感から喧嘩をふっかけたらしいことが後々わかった。
 自分が所属していた国のことながら激ヤバすぎる地雷物件だ。マジで。

 それからあれよあれよと戦火は広がり、こちらの大陸とあちらの大陸のほかの国や部族をも巻きこんだ大戦争になった。

 同じ釜の飯を食った仲間は……みんな死んじまった。そのなかには孤児時代からのつきあいの奴もいた。
 当然自軍の兵士や将軍、果ては貴族さえもたくさん死んだ。それは王国側も同じで……生き残るためにたくさん……殺した。

 オレは戦闘に役立つ天与能力はなにももらっていない。死んでいった仲間と同じ、多少病気知らずで健康だった若い男というだけだ。
 剣で急所を刺されるか、魔法が当たればほかの奴らと同じように簡単に死ぬ。

 だから、ただひたすら必死に戦場を駆けて、駆けて、駆け抜けて────。


 ────戦争が終わったときにオレに残ったのは、右肘から先を失ったもののそれ以外は割と健康な身体と命だけだった。


 それからは王国がある大陸に渡っていくあてもなく放浪した。戦場にいたオレのことを覚えてるやつなんて案外いなくて、戦争の恨みが原因で命を狙われることはなかった。

 オレの見た目が一般的な帝国人に見えなかったからかもしれない。

 帝国も王国も、前世世界でいう欧州人的な見た目なんだが、オレの見た目は日本人そのものだ。もしかしたら前世と同じ容姿をしている可能性すらある。……転生だよな?

 まぁそれは置いておいて、オレの容姿は黒髪黒目で帝国人より少し濃い肌色に掘りの浅い顔だ。今は白髪がまばらに生えていて完全な黒髪ではないけど。
 まぁ、500年も生きてりゃあな。抜け落ちてないだけ上出来だ。

 身長はどいつもこいつもバカでかい帝国人とくらべたら小柄といわざるを得ず、唯一帝国人らしいところといえば、目つきのキツさくらいか。

 ……転生なんだしそこは一般的な帝国人の見た目にしてくれてもよくなかったか? 本当に転生か? と思わないでもないが、そうではなかったおかげで比較的ラクに放浪できた。
 なにが幸いするかわからないもんだな。

 ちなみに、オレみたいな容姿の奴をこの世界では『島国顔とうごくがお』という。帝国ではあまり見かけなかったが、王国側の大陸ではたまに見かけた。その『島国』が王国のある大陸から見て帝国とは反対側の海を挟んだお隣さんだからかな?

 島国顔の人は少しだけ親近感と懐かしい気持ちが湧いたけど……まぁ、その程度だ。


 そうしてただぼんやりとあてもなく彷徨って、もうなにもかもどうでもよくなって食事も水もとらずに大木に寄りかかってじっと、していた。


 そのときに────師匠と出会った。


 師匠は『うん百年ぶりの仙人候補じゃの』とかわけのわからんことをのたまったかと思いきや、『仙郷』という場所にオレを拉致った。
 今でも割と許してねぇ。

 そこでもまぁーーーー大変で、最初の100年くらいは師匠に消し炭にされては、回復を待つ、消し炭にされては回復を待つ、という日々だった。

 ……いや、1回目の消し炭からの回復がまずおかしいんだけどな。普通に粉々に炭化したし。
 しかし、どういう原理か、オレは毎回時間さえかければ元通りの姿まで回復することができた。

 たぶんこの過程でオレは一般的とはいえない身体になって不老長寿? になったんだと思う。だってこのころから500年経っても見た目変わってねぇし。
 ただ、死なないわけではない。とんでもなく死にづらいだけで。

 この謎の消し炭周回で、身体中にあった細かい傷は消えたが、右肘から下はそのままだった。……いや、わかるよ。そのままなのが普通だろってな。
 だけど、師匠は『おかしいのー、生えるはずなんじゃがのー。ほれもう一度じゃ』とか言いながら軽いノリで消し炭にしてきた。

 そして腕は生えない。ふざけんじゃねぇぞ、あのジジイ。


 そんなこんなで消し炭周回が終わったあとは、丹薬作りだの仙術だのを叩きこまれた。
 このころにはさすがに「……オレ、仙人として育成されてる??」と思ってはいた。

 だけど仙郷からでる方法はわかんねぇし、とくにやることもなかったから一応教えられるもんは習得していった。なにせ時間はたっぷりあったしな。

 ある程度修行が終わったら自由時間が多くなって逆にすげぇ暇になった。
 だからとりあえず仙郷を探索してみたり、怒れる仙獣と何十年か取っ組み合ってみたり、オレの右腕がなんか冥府的なところでモニュメント化してるのが判明したりだとかしたが、この200年くらいは探索にも飽きてずっとゴロゴロしていた。


 ────そんなある日、「仕事の時間じゃ」と師匠ジジイに仙郷から突然蹴りだされて見知らぬ山に放られた。


 ……ちっ。


 まぁ、幸いなことに仙郷でのオレの私物はほとんど手元にあった。
 それに、さっきちらっといった怒れる仙獣とは取っ組み合いのあとなんやかんやあって友だちになったんだが、なんとそいつが蹴りだされたオレについてきてくれた。

 紹介しよう、それが立派に伸びる2本の螺旋角を持ち、鋭い眼光に額にはバツ印の傷跡があるのがチャームポイントのイカした牡山羊、『ガラ』だ。名前はオレがつけた。
 牛並みにでかいこと以外は前世世界でいうマーコールという山羊に似ている。毛並みはほんの少しだけ黄色がかった白で生成り色というやつだ。

 ……実は、このガラと同じ毛並みのマントをオレは羽織っている。
 ガラの死んでしまった家族の毛皮だ。最初は大事に保管していたんだが、仕舞いこむよりも使え、と言われたのでありがたく大事に使っている。

 外気温の影響をシャットアウトして常にちょうどいい温度に保たれていたり、完全防水・防汚・防塵性能があったり、防御力もかなり高い優れものだ。

 当然、同じものを持つガラの毛も同等かそれ以上の力がある。

 あと山羊の毛だからごわごわしてるかと思いきや、意外とふかふかもふもふしていて気持ちいい。これ一枚でどこでも寝れる。ガラと身を寄せ合えば完璧だ。

 そしてもう一匹、この10年で行動を共にするようになったニューカマーがいる。

 オレが蹴りだされて『仕事』をしている山で偶然出会った赤毛で尾っぽだけが黒くて長く、手先がすごく器用な頭のいい猿で『ヒエン』と名づけた。性別はメスだ。
 前世世界でいうとフサオマキザルという猿に似ている。大きさも同じくらいで、幼児サイズだ。


 …………オレは前世で動物が好きだったんだろうか? やけに詳しく動物の種類がスラスラとでてくる。べつに今だって嫌いじゃねぇけどさ。


 あ、オレの名前は『ヨタカ』だ。
 仙郷に拉致られたときに師匠につけられた。

 前世の名前は覚えてないし、最初の20年くらいのときも……名前なんてあってないようなもんだったからな。



 そんなわけでオレが放りだされたこの山、地元民からは『戻らずのドゥルス山脈』として恐れられる山でいつものようにガラとヒエンと一緒にぶらっと散歩していたら────大量の血を流して死にかけているイケメンを発見した。


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