結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ

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1話

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うららかな春の日差しが気持ちよく、爽やかな風が頬を撫でる今日。

 王都の中心の教会で、若い一組の男女が結婚式を挙げようとしていた。



 この大陸では、遥か昔から「教会で一切の曇りなく、真実の愛を誓いあった者には聖なる力が与えられる。」といった伝説が伝えられる。時に女性には絶大な治癒の力が与えられることがあり、その者は聖女と呼ばれ敬われる。

 実際に百年程前の国王夫妻は婚姻を結んだ後に王妃が聖女となり、王も強力な結界の力を手に入れ、魔物から国を守ったと伝わっている。



 そのため、この国では婚姻の儀式は教会で行われ、それを多くの者が見守るのが習慣となっていた。

 とはいえ、神の認めるほどの「一切の曇りなき、真実の愛」などなかなか誓われるものではなく、王家から庶民まで口にはするものの、ある種の迷信と化していた。



 今日の主役である新郎は古くから続く名門ベイカー伯爵家の長男アルフレッド。新婦は王家の血も入った名門レスター侯爵家の次女エリザベトで、同い年の二人は7歳の頃に婚約。学園の卒業を機に婚姻というよくある政略による縁組でありながらも、在学中はそれぞれの従者を伴いながら清らかにも仲睦まじい姿を見せていた。

 エリザベトは、幼い頃から「真実の愛」の伝説の聖女に憧れを公言しており、その淡い金髪に淡いブルーの瞳の冷えた美貌に愛らしさを含ませる。

 これを聞いた婚約者アルフレッドが「きっと叶うよ」と微笑み返していた姿を目撃したという者は、この話をその日のうちに100人には伝えたと言われている。



 また、幼いころから自身の従者と共に伯爵家所有の商会に手をかけ、新たな魔術道具を数々生み出し大きく発展させていたアルフレッドは、その最新商品を惜しげもなく次々と婚約者に贈る。

 飾りとしても映える魔術道具は鮮やかな緑や高価で繊細なプラチナ等の色彩が使われ、美しいエリザベトをさらに美しく飾っていた。

 アルフレッド自身も、黒髪に淡い緑の瞳の穏やかで優しげな自身の容貌を、輝くような金色や鮮やかな青を多様した装飾の魔術道具で彩ることが多くあった。



 後に、相手の好みの色や自分の髪や瞳の色を使用し、魔術文様が刺繍されたハンカチを意中の相手に贈ったり、逆に相手の髪や瞳の色を使用した魔術道具を身に着けるという恋愛のおまじないが「真実の愛」の伝説に繋がるものとして、貴賤問わず流行したのはこの二人がきっかけである。だが、これはまだもう少し先のことになる。



 何かと話題に上ることの多い二人がついに挙式。ということで、本日も広い教会の中を親族やかつての学友、縁のある貴族などが埋め尽くし、外にも関わりの有無を問わず王都の住民が朝から押しかけていた。



 いよいよ儀式の始まり…という時間になり、父侯爵の手を取った新婦が静しずと新郎の元へと歩む。

 大勢の参列者も息を詰めるような緊張感をまといながら主役達を見守る。ついに新郎新婦の視線が混じり、今まさにお互いの手を取ろうとしたその瞬間――――



「ちょっと待ったーーー!!!」



 厳かな空気と静かな緊張感に満ちていた教会の中に、突如男の叫び声が響き渡った。

 乱暴に開かれた扉があまりの勢いに立てるギィギィという音や、外の人々のざわめく声をものともしない、凛と響く声だった。



 祭壇に立つ司祭を含めた室内の全員の視線が入り口に向かうが、声の主は真っ直ぐに新郎新婦の元へと駆ける。

 開いたままの扉から入る光に眩みその姿がはっきりするまでにわずかな時間があった。

 しかし、その声の主が誰なのか。そして、誰のもとへ走っているのか―――





 この場に参列している者は全員その答えを知っていた。

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