第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく

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クロック帝国編

狼さんの秘密

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「…そういえば、さっき言ってたけどウルフは魔獣とハーフなの?」


僕は今、ウルフと街をぶらぶらと歩いていた。

さっき、ホークに言っていた言葉が気になりウルフに声をかけるとウルフは深くうつむいてしまった。

あれ、まずいこといったかな…。


「…えっと、ごめんね。言いたくない話なら話さなくていいよ…?」


僕は慌ててウルフの背中を擦る。


「…いえ、聞いてもあまりいい話ではないので話すかどうか迷っちゃっただけです…。」


いい話じゃない…?


「なんか、あったの…?」


僕がそう言いながら顔を覗き込むとウルフは涙目になりしゃがみこんでしまった。

何だ何だと街の人の怪しむ視線が集まる。

これじゃ誤解されちゃう!

僕は慌ててウルフの手を引き走り出す。


「えっ」


ウルフの驚いた声が聞こえるが今は無視して全力で走る。

しばらく走ったところで足を緩め歩く。

そして、少し進んだ先の路地裏へと入り込んだ。


「はぁ、はぁ、…ウルフ…だいじょうぶ?」

「は、はい。」


急に全力で走ったからか、僕もウルフも息が乱れてしまった。

僕は壁に倒れ込みズルズルと滑るようにしゃがみこんだ。

レンガの壁が冷たくて気持ちいい。

すると、ストンと横にウルフが座った。

そのまま膝を抱えて踞り顔を隠す。


「ウルフ…?」


僕が不思議そうに声をかけるとウルフはポツポツと喋りだした。


「俺の父親は魔獣なんです…狼の。」

「…狼さん?…だから耳と尻尾があるんだね」


僕がそっと指先でウルフの垂れてしまった耳を立てるように触るとピクッと耳が震える。


「…恐く、ないんですか?」


少し怯えた顔で僕の方を見たウルフは恐る恐るといった様子で僕に質問をしてくる。


「…こわいって何が?」

「魔獣の俺が…ですよ。」


なんで、魔獣だとこわいんだろう?

僕が不思議そうな顔をしているのが分かったのか、ウルフはまたポツリポツリと話し始める。


「俺は人間の女と魔獣の狼から産まれました。」


女って…、お母さんじゃないの…?


「お母さんじゃなくて…?」

「あんなやつっ、母親なんかじゃありませんよ!!!」


ダンッとウルフは壁を殴って歯をむき出しにしながらグルルルと唸っている。

ここまで言うなんて…ウルフに何があったのだろう。

ウルフは苛立ちを抑えるように震える腕をもう片方の手で握りしめた。

そしてまた話し始める。


「…あの女は俺が産まれてすぐ捨てたんですよ、森にね。」

「す、捨て…!?なんで!どうして!?」

「単純です、俺が要らなかったんですよ。
…俺は望まれて産まれたわけじゃなかった。」


望まれて産まれたわけじゃない…?


「女は魔獣にレイプされて俺を身ごもったんです。
…まだ人間同士だったら母性が働いて、たとえ嫌いな存在との子でも育てる可能性はあったかもしれない。
…でも魔獣は人間に忌み嫌われる存在です。
だからあの女は妊娠していることを隠した。
俺が生まれ、でもそれを他の人にはバレたくなくて産んだ俺を森に捨てたんでしょう。」


そ、そんな…!


「でも、それって、予想…でしょ?
もしかしたら何か別の理由があったのかもしれないよ?」


それこそウルフを守るためだったのかもしれない。


「残念ながらそれはありませんよ。
…皮肉なことに俺は魔獣の血が通っているおかげで産まれた瞬間から記憶があります。
…最初にあの女が言った言葉は  でした。」


そんな、酷いよ…。


「そんなに悲しい顔しないでくださいよ。
俺が望まれて産まれなかった、それだけじゃないですか。
ネムが悲しむ必要なんて、…っ!」


僕は言葉を言い切らないうちにウルフの頭を抱きしめてよしよしと撫でる。


「…僕はウルフのお母さんに感謝してるよ。」

「…どうして、ですか…。」

「だって、こうしてウルフと会えたんだもん!」


僕が笑顔でウルフに笑いかけるとウルフはポカンとした顔で僕を見つめている。

え、そんなに驚くことかな…?

僕が首を傾けると、その様子がおかしかったのか、ウルフがプッと吹き出して腹を抱えて笑いだしてしまった。


「え、え…?」


僕がおろおろすると、さらに笑い声が大きくなる。

しばらく笑って、落ち着いてきたのか涙を拭いウルフは僕をギュッと抱きしめた。


「えっと、ウルフ…?」


クンクンと僕の首元の匂いを嗅いでいる。

僕が困惑しているとガブッと項を噛まれる。


「…うぇ!?」


ガブガブと甘噛みされて僕はどうしたらいいのかも分からず目の前のウルフの肩に顔を埋める。


「…っふ、…ぅん……」


何度も噛まれると変な気分になってきて、僕は声を抑えようと手で口を抑えるが堪えきれなかった吐息が少しずつ漏れてしまう。


「いいんですか?抵抗しなくて。」

「てい、こう…?」


僕には抵抗するという考えがなかった。

ウルフに項を噛まれるのが嫌でもないし、断る理由がないと思ってしまっていた。


「魔獣の狼にとって項を噛むのは求愛行動なんですよ…?」

「きゅう、あい…」

「ええ、求愛です。」


求愛って愛情表現だよね…?

ウルフは僕に好きになってほしいってこと?


「だって、ぼく、んぅ…、ウルフのこと、すき、だよっ、んん、ふ、…んっ…」


ウルフは項から口を離すとそのまま僕の口を塞いだ。


「ん、んんっ、ん…、んぅ…」


ウルフの長い舌が僕の口の中をまさぐってくる。


「…俺だけ好き、ですか…?」


急に唇を離したかと思うと謎の質問をされた。

ウルフだけ…?


「僕と仲良くしてくれる人は、みんな好きだよっ…?」


僕が笑顔で伝えるとウルフは眉を下げて笑った。


「まあ、そうですよね。分かってたから大丈夫です!」

「え、何が大丈夫なの…?」

「ネムは気にしなくて大丈夫ですよ!」


え、気にしなくて大丈夫って言われると逆に気になるんだけども…。





何度も街を歩いている時も聞いてみたが、ウルフに上手いこと話を逸らされてしまって結局聞き出すことはできなかった。
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