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『アンカー、君には私が沢山の加護を与えていた。生まれ変わる度に加護を増やしたから、歴代の愛し子の誰よりも多い加護だ。加護は神殿で私に祈りを捧げれば覚醒する。そうすることで神の愛し子として神官達に認知され、アンカーは幸せな人生を歩んでいた筈なのに……何故毎回君は処刑され人生を悔やみながら終えるんだ』
「幸せな人生?」
神の思う幸せな人生とアンカーが願うそれは別物なのだろうかと、アンカーは考えながら首を傾げる。
『大きな恨みを抱いて死んだ愛し子の魂は私の下には来られない。不幸な記憶を抱えたまま、地上で苦しみ続ける。だから私はアンカーの魂を救うため、加護を増やして生き返らせていたというのに』
言い訳するように神が告げる、その内容に呆れ苛ついてアンカーは髪を掻き毟り、唸り声を上げながら今度は手当たり次第に髪を引き抜いていく。
「私は神殿で祈りを捧げたことなんか一度もないわ。神殿なんて、私は神官に拒否されてただの一度も迎い入れて貰ったことなんて無いっ!」
『そんな筈、アンカーは愛し子だと神官には神託を出していたし、アンカーの魔力は何度も神殿で感知していた』
戸惑う様な神の声に、神とは万能ではなかったのかとアンカーは再度呆れる。
「神って無能なのね、何も見ていなかったんじゃない。アンカー・センターと名乗る子供、それが成長し令嬢になり夫人になってもアンカーと名乗る偽物は神殿には足繁く通っていたでしょうよ。ありがたく神官の話を聞いて祈りを捧げて神の声を聞いていた」
『それならば、なぜ』
「でもそれは、私じゃない。父と義母の間に生まれた義妹よ」
ブチンと抜いた髪を、アンカーは見えない何かに見せつける様に差し出しながら「神と名乗る無能。あなたにはこの髪が何色に見える?」と聞く。
『金だ。金色の髪と紫の瞳、生まれた時のアンカーを見た時と同じ、お前の色だよ。その髪を囲う魔力の色も私がずっと見て来たアンカーの色だ』
「そうね、だけど私はこの色と一緒に名前まで奪われるのよ。義母と義妹にね」
継母では無い、彼女は母の後を継いでなんていないから、それにあの子を異母姉妹だなんて認めない。
アンカーは繰り返し生まれ変わりの度に、二人についてそう考えていた。
アンカーの母親が亡くなった後後妻にならず屋敷に住んでいた二人を、アンカーはせめてもの抵抗で義母と義妹と呼んでいたのだ。
それは、妹と自分に血の繋がりがあると思いたくなかったからだったし、世間には自分の立場を弁えしおらしく生きる女性だと見せていた義母が、アンカーの次の母だとは死んでも思いたくなかったからだ。
『どういうことだ』
「この家は私のお母様が隣の国から嫁いできた時に新たに起こした公爵家、表面的にはお父様の実家を侯爵から公爵に引き上げたとしているけれど、実際王家の考えはお母様の、隣国の王家の血を残すための結婚だったわ」
別名魔法大国と呼ばれる隣の国の王家は、神の血を継いでいると言われており魔力が多く長命だった。
吹けば飛ぶ様な小国に王女が嫁ぐきっかけとなったのは、この国の鉱山で貴重な金属が採掘出来ると分かったためだった。その金属の購入権を得るため王女は母国の十分の一程しかない小さな国に嫁いできた。
この国の王子はすでに皆結婚していて、公爵家の男子は幼いものばかりだったから、比較的年が近く、二代前のこの国の王子が婿入りしていた侯爵家の息子に王女は嫁入りすることになった。
センター家は、王女の血を継ぐ子供を得るため侯爵から公爵になったのだ。
元のセンター侯爵家の嫡男は、王家から新たに家名と伯爵位と豊かな王家直轄領を与えられ口を噤んだ。
まだ婚約者も決まっていなかったアンカーの父は、突然王命で婚約させられいきなり公爵家の当主となった。
「義妹は魔道具で私の髪色と目の色に姿を変えたわ、それだけで兄も使用人達も彼女をアンカーだと認めた。私は従属の魔道具の腕輪をつけられて、義妹の色に変えられ名前も奪われた。あの腕輪は本来奴隷に使うもの、対の腕輪を持つ主人の命令には何でも従うしかないの。私は自分の魔力の殆ど全部を義妹に譲渡させられた上、義妹と自分の容姿を入れ替える様魔法を掛けさせられたのよ」
『なんてことだ、それではあの魔力は』
「奴隷が主人に魔力を譲渡するのはこの国ではよくある事、お金があれば幾人もの奴隷を持ち魔力譲渡をさせられるから貴族は遠慮なんかしないし、主人を表す腕輪をしていても誰もおかしいと思わないのよ」
アンカーの義妹は、アンカーの容姿を奪いアンカーの振りをして貴族社会で生きていた。
本当は平民の母から生まれ、元王女の妻を裏切った父の庶子として人目を気にしながら生きなければならなかったというのに、尊い血筋の両親から生まれた魔力の多い隣国の王族の血を受け継ぐ貴族令嬢として生き続けた。
妻の死後、後添えとして嫁いで来た義母は平民だから自分は公爵家の籍には入れなくていい、ただ愛する人の側にいたいだけだと言い、先妻の子二人を自分の子より優先し大切に育てた。
自分が生んだ子は、不義の子だからと公爵家の粗末な部屋で使用人扱いにしながら、先妻の子を大切に育てる賢母だと評価され、王家は後妻を正式な妻とするよう公爵へ告げ二人は皆に祝福されて結婚した。
ただ、平民の時に産んだ不義の子は公爵家の籍に入れることが許されず、それを不服とした子供は公爵一家の殺害を企ててて捕まった。
それがアンカーに掛けられた冤罪だった。
「魔力を譲渡、だから神殿で私はアンカー本人だと誤認したのか。譲渡しても魔力の色は元々の魔力の色を残しているものだから」
後悔を滲ませた様な声色が、アンカーの頭の中に響くけれど、そんなものこちらには関係ないとばかりにアンカーはハンと鼻で笑う。
「そうなのでしょうね、だからあなたは無能だと言ったのよ。無能なりに理解はしたのかしら、それともそれすら理解出来ない無能なの?」
尊大だと言われても当然の様な態度で、アンカーは神を罵倒した。
「幸せな人生?」
神の思う幸せな人生とアンカーが願うそれは別物なのだろうかと、アンカーは考えながら首を傾げる。
『大きな恨みを抱いて死んだ愛し子の魂は私の下には来られない。不幸な記憶を抱えたまま、地上で苦しみ続ける。だから私はアンカーの魂を救うため、加護を増やして生き返らせていたというのに』
言い訳するように神が告げる、その内容に呆れ苛ついてアンカーは髪を掻き毟り、唸り声を上げながら今度は手当たり次第に髪を引き抜いていく。
「私は神殿で祈りを捧げたことなんか一度もないわ。神殿なんて、私は神官に拒否されてただの一度も迎い入れて貰ったことなんて無いっ!」
『そんな筈、アンカーは愛し子だと神官には神託を出していたし、アンカーの魔力は何度も神殿で感知していた』
戸惑う様な神の声に、神とは万能ではなかったのかとアンカーは再度呆れる。
「神って無能なのね、何も見ていなかったんじゃない。アンカー・センターと名乗る子供、それが成長し令嬢になり夫人になってもアンカーと名乗る偽物は神殿には足繁く通っていたでしょうよ。ありがたく神官の話を聞いて祈りを捧げて神の声を聞いていた」
『それならば、なぜ』
「でもそれは、私じゃない。父と義母の間に生まれた義妹よ」
ブチンと抜いた髪を、アンカーは見えない何かに見せつける様に差し出しながら「神と名乗る無能。あなたにはこの髪が何色に見える?」と聞く。
『金だ。金色の髪と紫の瞳、生まれた時のアンカーを見た時と同じ、お前の色だよ。その髪を囲う魔力の色も私がずっと見て来たアンカーの色だ』
「そうね、だけど私はこの色と一緒に名前まで奪われるのよ。義母と義妹にね」
継母では無い、彼女は母の後を継いでなんていないから、それにあの子を異母姉妹だなんて認めない。
アンカーは繰り返し生まれ変わりの度に、二人についてそう考えていた。
アンカーの母親が亡くなった後後妻にならず屋敷に住んでいた二人を、アンカーはせめてもの抵抗で義母と義妹と呼んでいたのだ。
それは、妹と自分に血の繋がりがあると思いたくなかったからだったし、世間には自分の立場を弁えしおらしく生きる女性だと見せていた義母が、アンカーの次の母だとは死んでも思いたくなかったからだ。
『どういうことだ』
「この家は私のお母様が隣の国から嫁いできた時に新たに起こした公爵家、表面的にはお父様の実家を侯爵から公爵に引き上げたとしているけれど、実際王家の考えはお母様の、隣国の王家の血を残すための結婚だったわ」
別名魔法大国と呼ばれる隣の国の王家は、神の血を継いでいると言われており魔力が多く長命だった。
吹けば飛ぶ様な小国に王女が嫁ぐきっかけとなったのは、この国の鉱山で貴重な金属が採掘出来ると分かったためだった。その金属の購入権を得るため王女は母国の十分の一程しかない小さな国に嫁いできた。
この国の王子はすでに皆結婚していて、公爵家の男子は幼いものばかりだったから、比較的年が近く、二代前のこの国の王子が婿入りしていた侯爵家の息子に王女は嫁入りすることになった。
センター家は、王女の血を継ぐ子供を得るため侯爵から公爵になったのだ。
元のセンター侯爵家の嫡男は、王家から新たに家名と伯爵位と豊かな王家直轄領を与えられ口を噤んだ。
まだ婚約者も決まっていなかったアンカーの父は、突然王命で婚約させられいきなり公爵家の当主となった。
「義妹は魔道具で私の髪色と目の色に姿を変えたわ、それだけで兄も使用人達も彼女をアンカーだと認めた。私は従属の魔道具の腕輪をつけられて、義妹の色に変えられ名前も奪われた。あの腕輪は本来奴隷に使うもの、対の腕輪を持つ主人の命令には何でも従うしかないの。私は自分の魔力の殆ど全部を義妹に譲渡させられた上、義妹と自分の容姿を入れ替える様魔法を掛けさせられたのよ」
『なんてことだ、それではあの魔力は』
「奴隷が主人に魔力を譲渡するのはこの国ではよくある事、お金があれば幾人もの奴隷を持ち魔力譲渡をさせられるから貴族は遠慮なんかしないし、主人を表す腕輪をしていても誰もおかしいと思わないのよ」
アンカーの義妹は、アンカーの容姿を奪いアンカーの振りをして貴族社会で生きていた。
本当は平民の母から生まれ、元王女の妻を裏切った父の庶子として人目を気にしながら生きなければならなかったというのに、尊い血筋の両親から生まれた魔力の多い隣国の王族の血を受け継ぐ貴族令嬢として生き続けた。
妻の死後、後添えとして嫁いで来た義母は平民だから自分は公爵家の籍には入れなくていい、ただ愛する人の側にいたいだけだと言い、先妻の子二人を自分の子より優先し大切に育てた。
自分が生んだ子は、不義の子だからと公爵家の粗末な部屋で使用人扱いにしながら、先妻の子を大切に育てる賢母だと評価され、王家は後妻を正式な妻とするよう公爵へ告げ二人は皆に祝福されて結婚した。
ただ、平民の時に産んだ不義の子は公爵家の籍に入れることが許されず、それを不服とした子供は公爵一家の殺害を企ててて捕まった。
それがアンカーに掛けられた冤罪だった。
「魔力を譲渡、だから神殿で私はアンカー本人だと誤認したのか。譲渡しても魔力の色は元々の魔力の色を残しているものだから」
後悔を滲ませた様な声色が、アンカーの頭の中に響くけれど、そんなものこちらには関係ないとばかりにアンカーはハンと鼻で笑う。
「そうなのでしょうね、だからあなたは無能だと言ったのよ。無能なりに理解はしたのかしら、それともそれすら理解出来ない無能なの?」
尊大だと言われても当然の様な態度で、アンカーは神を罵倒した。
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