42 / 80
知り合ったばかりなのに
しおりを挟む
「今村さんのお店で髪を切ったんですか、髪型が変わっていて驚きましたがとても良く似あっていると思います」
夜、十和と一緒に神社に向かうと、紺さんが狐の像の辺りに立って出迎えてくれた。
急に髪型も服装も変わっていたから少し驚いた様な顔をして、でもとても似合うと褒めてくれたから私の頬が熱くなってしまった。
「似合ってますか? なんだかまだ慣れなくて」
服は今村さんのお店で買ったばかり、購入した中で一番気に入ったものをお店で着替えてそのまま帰った。
シンプルなベージュのハイネックのセーターと濃いグリーンの膝丈ボックスプリーツのスカート、コートはグリーンと赤のタータンチェックのテーラーコートだ。
ちょっとかっちり目のコートは、レトロな雰囲気があって、昔のイギリスのミステリー映画に出て来る女性みたいでウキウキしてしまう。
祖母がそういう映画や古いドラマを見るのが好きだったから、私も祖母の家で良く観ていた。
綺麗なイングリッシュガーデン、アンティークな家具で整えられた部屋で編み物をしながらちょっとした事件を解決する老婦人や、子供の目には少し変わったこだわりがある探偵等が繰り広げる話は全部内容が理解出来なくても自分とは違う世界にドキドキして印象的だった。
「お世辞抜きで似合っていますよ。……でも少し幼くなったかもしれませんね」
ふふふと笑いながら、紺さんは私に座布団を出してくれた後で手土産にと渡したタッパーを抱えてキッチンに消えた。
「おむすびと厚揚げの煮物と、こちらはひじき煮、あとはなんでしょう? お菓子、ですか?」
タッパーを一つずつ開けているのか、紺さんの声が台所から聞こえて来る。
「はい、今村さんと近田さんにお菓子をおすそ分けしたので、紺さんも食べて貰えたらなって」
今村さんのお店で大量に服を買った私は、まだ十和を預かってくれるという近田さんのご厚意に甘えて部屋に戻り服を片付けると、勢いに任せて自転車に乗りスーパーで一週間分の食料の買い出しをしてから明日のお弁当のおかずの下ごしらえをしつつご飯を炊いて焼き菓子を更に作った。
沢山のクッキーとチーズケーキとエッグタルト、ちょっと高いけど苺を買ってジャムも作ったし、カスタードクリームとヨーグルトムースも作ってから、さっき作ったどら焼きでちょっとだけあまった餡子を買ってきたコッペパンにマーガリンと一緒に挟んだものも作った。
このコッペパンは食べやすい大きさにカットしてラップに包んだものを、十和のお迎えに行った時に近田さんに渡した。焼き菓子を喜んでくれたから、甘いもの好きなのかと思って用意したのだけど、近田さんは私が恐縮しちゃうくらいに大袈裟に喜んでくれて、なんとその場で一つ食べてくれた。
まさか目の前で食べてくれるとは思わなくて、内心驚いたけれどそういう喜び方をされると、また作ってもいいのかなって単純だけど思ってしまう。
近田さんも今村さんも、喜び方がストレートだから、無理に貰ってくれたのかなって心配しなくていいので助かってしまう。
作ったお菓子は近田さんの分と今村さんの分をそれぞれ包んできたから、今村さんの分は渡して貰える様にお願いしてきた。
「お菓子、嬉しいです。こんなに沢山大変だったでしょう」
「良かったです。ジャムとカスタードクリームも作ったので、コッぺパンに塗って食べて下さい」
石油ストーブの前に丸くなって眠っている十和を見つめながら話すと、キッチンから出汁の匂いが漂ってきた。
「良い匂いですね。おもたせですが、温かいうちにどうぞ」
温めてお皿に盛ってくれた料理とお菓子、それにお酒をお盆に載せ紺さんがニコニコ笑顔で戻って来た。
「おむすびも温めて良かったですか」
「たらこと梅干なので、温かくても美味しいと思います」
当然の様に私はここで食べていくつもりになっていたのは図々しいだろうか、そんな私の戸惑いは紺さんがお猪口に注ぐ日本酒の香りに消えてしまった。
「どれも美味しそうでお腹が空いてしまいました。頂いていいですか由衣さん」
「……あの、呼び捨てでいいですよ」
「由衣?」
「はい、なんだかその方がしっくりします」
なんでだろう、昨日まで由衣さんと呼ばれていた筈なのに、紺さんにそう呼ばれるのがおかしいと感じた。
「じゃあ、由衣」
「うん」
出会ったばかりなのに、こんな風に気安く呼んでもらうことなんて、それを自分から言うなんて今まで無かったのに、私は紺さんにはそう呼んで欲しいと思ってしまうのは何故なんだろう。
「由衣の料理、食べていいのかな」
「うん、食べて。これ自信作だから」
昔から知っている友達の様に、私は紺さんに親しみを感じている。
その心のまま、親しい友達に使う様に言葉を崩してしまう。
「じゃあ、頂くね由衣。凄く美味しそうだ」
紺さんは、何かを無理矢理飲み込む様な、そんな苦しそうな顔を一瞬した後で私に微笑んでくれた。
夜、十和と一緒に神社に向かうと、紺さんが狐の像の辺りに立って出迎えてくれた。
急に髪型も服装も変わっていたから少し驚いた様な顔をして、でもとても似合うと褒めてくれたから私の頬が熱くなってしまった。
「似合ってますか? なんだかまだ慣れなくて」
服は今村さんのお店で買ったばかり、購入した中で一番気に入ったものをお店で着替えてそのまま帰った。
シンプルなベージュのハイネックのセーターと濃いグリーンの膝丈ボックスプリーツのスカート、コートはグリーンと赤のタータンチェックのテーラーコートだ。
ちょっとかっちり目のコートは、レトロな雰囲気があって、昔のイギリスのミステリー映画に出て来る女性みたいでウキウキしてしまう。
祖母がそういう映画や古いドラマを見るのが好きだったから、私も祖母の家で良く観ていた。
綺麗なイングリッシュガーデン、アンティークな家具で整えられた部屋で編み物をしながらちょっとした事件を解決する老婦人や、子供の目には少し変わったこだわりがある探偵等が繰り広げる話は全部内容が理解出来なくても自分とは違う世界にドキドキして印象的だった。
「お世辞抜きで似合っていますよ。……でも少し幼くなったかもしれませんね」
ふふふと笑いながら、紺さんは私に座布団を出してくれた後で手土産にと渡したタッパーを抱えてキッチンに消えた。
「おむすびと厚揚げの煮物と、こちらはひじき煮、あとはなんでしょう? お菓子、ですか?」
タッパーを一つずつ開けているのか、紺さんの声が台所から聞こえて来る。
「はい、今村さんと近田さんにお菓子をおすそ分けしたので、紺さんも食べて貰えたらなって」
今村さんのお店で大量に服を買った私は、まだ十和を預かってくれるという近田さんのご厚意に甘えて部屋に戻り服を片付けると、勢いに任せて自転車に乗りスーパーで一週間分の食料の買い出しをしてから明日のお弁当のおかずの下ごしらえをしつつご飯を炊いて焼き菓子を更に作った。
沢山のクッキーとチーズケーキとエッグタルト、ちょっと高いけど苺を買ってジャムも作ったし、カスタードクリームとヨーグルトムースも作ってから、さっき作ったどら焼きでちょっとだけあまった餡子を買ってきたコッペパンにマーガリンと一緒に挟んだものも作った。
このコッペパンは食べやすい大きさにカットしてラップに包んだものを、十和のお迎えに行った時に近田さんに渡した。焼き菓子を喜んでくれたから、甘いもの好きなのかと思って用意したのだけど、近田さんは私が恐縮しちゃうくらいに大袈裟に喜んでくれて、なんとその場で一つ食べてくれた。
まさか目の前で食べてくれるとは思わなくて、内心驚いたけれどそういう喜び方をされると、また作ってもいいのかなって単純だけど思ってしまう。
近田さんも今村さんも、喜び方がストレートだから、無理に貰ってくれたのかなって心配しなくていいので助かってしまう。
作ったお菓子は近田さんの分と今村さんの分をそれぞれ包んできたから、今村さんの分は渡して貰える様にお願いしてきた。
「お菓子、嬉しいです。こんなに沢山大変だったでしょう」
「良かったです。ジャムとカスタードクリームも作ったので、コッぺパンに塗って食べて下さい」
石油ストーブの前に丸くなって眠っている十和を見つめながら話すと、キッチンから出汁の匂いが漂ってきた。
「良い匂いですね。おもたせですが、温かいうちにどうぞ」
温めてお皿に盛ってくれた料理とお菓子、それにお酒をお盆に載せ紺さんがニコニコ笑顔で戻って来た。
「おむすびも温めて良かったですか」
「たらこと梅干なので、温かくても美味しいと思います」
当然の様に私はここで食べていくつもりになっていたのは図々しいだろうか、そんな私の戸惑いは紺さんがお猪口に注ぐ日本酒の香りに消えてしまった。
「どれも美味しそうでお腹が空いてしまいました。頂いていいですか由衣さん」
「……あの、呼び捨てでいいですよ」
「由衣?」
「はい、なんだかその方がしっくりします」
なんでだろう、昨日まで由衣さんと呼ばれていた筈なのに、紺さんにそう呼ばれるのがおかしいと感じた。
「じゃあ、由衣」
「うん」
出会ったばかりなのに、こんな風に気安く呼んでもらうことなんて、それを自分から言うなんて今まで無かったのに、私は紺さんにはそう呼んで欲しいと思ってしまうのは何故なんだろう。
「由衣の料理、食べていいのかな」
「うん、食べて。これ自信作だから」
昔から知っている友達の様に、私は紺さんに親しみを感じている。
その心のまま、親しい友達に使う様に言葉を崩してしまう。
「じゃあ、頂くね由衣。凄く美味しそうだ」
紺さんは、何かを無理矢理飲み込む様な、そんな苦しそうな顔を一瞬した後で私に微笑んでくれた。
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる