71 / 80
長く長く続くその先に5 (透視点)
しおりを挟む
「駄目だ、何も見えないのに」
拳を見えない壁に何度叩きつけても駄目だった。叩き過ぎてジンジンと痛む両手を摩りながら、忌々しい見えない壁を睨む。
「ちっ! ひっ」
忌々しさに舌打ちをした瞬間、コロコロと石が転がる気配がして身を竦める。
見えない壁は消える気配が無いのに、俺がちょっと声を荒げるだけで足元が崩れ始める。
それなりの広さがあったその場所は段々と狭くなり、うっかりすると本当に落ちてしまいそうになっている。
「……綺麗にすればいいんだろ。綺麗に」
しゃがみ込み両手で落ち葉をかき集め、籠に入れる。
「冷たいし、湿ってるのが気持ち悪い。最悪だ」
最悪だと言った途端、またコロコロと石が落ちていく。
その気配に、ほんの少しの愚痴も駄目なんだと思い知らされる。
「腹減った」
落ち葉は湿っていて冷たい。それを両手でかき集めているだけで、指先から全身に冷えが伝わっていく。
「これ、籠に全部入るのか? 入りきらなくなったらどうすればいいんだよ」
とにかく落ち葉とゴミを籠に押し込んで綺麗にしなければ、いつまでもこんなところにいられない。
その思いだけで必死に湿った感触を我慢しながら落ち葉をかき集め籠に入れていくと、大きいと思っていた籠いっぱいに落ち葉とゴミが溜まっていた。
「押し込むか……消えた?」
やっと一段分のゴミを拾い終えて、こんもりと籠に山盛りになったそれを押し込もうとした瞬間、籠の中の落ち葉が消えてしまった。
「落ち葉だけ? ゴミは残ったまま?」
なぜ落ち葉だけ消えてしまったのか、その理由が分からないまま視線を上に向けると透明な壁が消えているように見えた。
見えないものが見えるってなんなんだ。
でも、なぜかそう見えて俺は見えない壁に向かい手を伸ばすと、俺の手は壁があった筈の場所を通り抜けていた。
「消えた」
どれだけ叩いても消えなかった見えない壁が、拍子抜けするくらいあっさりと消えていた。
「これで上に行ける」
普通の階段よりかなり高いが上れないわけじゃない、とっとと上にあがって出口に行こう。
一段上り、もう一段進もうとしたのにまた見えない壁に阻まれてしまった。
「嘘だろ、ここも綺麗にしろっていうのか?」
籠は下の段に置いたままだっていうのに、舌打ちしかけて慌てて思いとどまる。
また崩れてしまったら困る。
「なんでこんなことしなきゃならないんだよ、根田のやろ……嫌、今のは嘘だ、そんなこと思ってないからっ! 根田の言う通り綺麗にしなきゃな!」
根田への愚痴を言おうとした瞬間、下の段が全て崩れ始め、慌てて訂正しながら籠を持ち上げる。
「落ちた」
俺は上の段に上がっていて、ギリギリのところで籠も持ち上げられたけれど、今までいた場所が無くなってしまった衝撃に、心臓がバクバクし始める。
「籠、落ちたらどうなる?」
枯れ葉を下に落としても無くならなかった。
籠に全て入れなきゃ綺麗にしたことにならないっていうのに、もし籠が下に落ちてしまったら?
「一生ここに? こんな場所に?」
カランコロンと石が落ちる音、その音が俺の疑問を肯定している様に聞こえてブルリと体が震える。
一生、こんな暗く不気味な場所にいなきゃいけなくなるのか? 寒くて喉が渇いて腹が減ってるし疲れからなのか体が重くなってきた。
それなのに、こんな少し油断したら下に落ちてしまいそうな場所にずっと居なきゃいけないのか?
「早く綺麗にしなきゃ。籠は背中に背負って」
これを落としたら最後だと、今気がついて本当に良かった。
籠を落としたと叫んでも、きっと根田はもうここには来ないだろう。
籠を落としたら、俺は終わりだ。
「綺麗に、早く綺麗に」
籠を背負い、両手で落ち葉をかき集めるとそのまま持ち上げ背中の籠に入れる。
入れ損ねたものがパラパラと落ちてくるのが気持ち悪いけれど、そんなの今更だ。
両手は土に汚れているし、服も汚くなっている。
「綺麗に、早く、もっと綺麗に」
何度も何度も落ち葉とゴミをかき集めては籠に入れるのを繰り返すと、二段目はすぐに綺麗になって次の段に進めた。
「なんだ、簡単じゃないか」
あっさりと次に進めたことに安堵して、三段目四段目と進んでいく。
そうやって数十段進んだ俺は、すっかり油断していたんだと思う。
油断と疲れと空腹で、気が抜けていたんだ。
上にあがっても、下の段は消えずに残っていて一番下の段は既に見えなくなっていた。
それだけ俺は上にあがっていて、だからうっかり気を抜いてしまったんだ。
「こんなのいつまでさせるつもりだよ、いいかげん俺を外に出してくれよなぁ。根田の野郎性格悪すぎだろっ。あんなどこ見てるのか分からない細目のくせによぉ。せめて何か食わせてくれよ」
腹が空いて仕方がない。
疲れたし眠いし、もうこんなことするの嫌だ。
「なんで俺がこんな目にあわなきゃ……うわっ」
そう呟いた途端、俺がいる段から下が突然崩れ出し全て消えてしまったのだ。
「嘘だろ」
ガラゴロと石と鳥居が転がり落ちる音だけが響いて、全て無くなって暗闇だけになった。
俺がいる段から下が、全部消えてしまった。
「上にはまだ行けない。まだまだ上が、出口……」
どれだけ段を上ったのか、十段を過ぎた辺りで数えるのは止めてしまった。
かなり上ったのに、まだ階段は続く。鳥居が続いている。
「まだ続くのか、終わりなんてあるのか?」
途方に暮れながら俺は、落ち葉をかき集め続けるしか無かったんだ。
拳を見えない壁に何度叩きつけても駄目だった。叩き過ぎてジンジンと痛む両手を摩りながら、忌々しい見えない壁を睨む。
「ちっ! ひっ」
忌々しさに舌打ちをした瞬間、コロコロと石が転がる気配がして身を竦める。
見えない壁は消える気配が無いのに、俺がちょっと声を荒げるだけで足元が崩れ始める。
それなりの広さがあったその場所は段々と狭くなり、うっかりすると本当に落ちてしまいそうになっている。
「……綺麗にすればいいんだろ。綺麗に」
しゃがみ込み両手で落ち葉をかき集め、籠に入れる。
「冷たいし、湿ってるのが気持ち悪い。最悪だ」
最悪だと言った途端、またコロコロと石が落ちていく。
その気配に、ほんの少しの愚痴も駄目なんだと思い知らされる。
「腹減った」
落ち葉は湿っていて冷たい。それを両手でかき集めているだけで、指先から全身に冷えが伝わっていく。
「これ、籠に全部入るのか? 入りきらなくなったらどうすればいいんだよ」
とにかく落ち葉とゴミを籠に押し込んで綺麗にしなければ、いつまでもこんなところにいられない。
その思いだけで必死に湿った感触を我慢しながら落ち葉をかき集め籠に入れていくと、大きいと思っていた籠いっぱいに落ち葉とゴミが溜まっていた。
「押し込むか……消えた?」
やっと一段分のゴミを拾い終えて、こんもりと籠に山盛りになったそれを押し込もうとした瞬間、籠の中の落ち葉が消えてしまった。
「落ち葉だけ? ゴミは残ったまま?」
なぜ落ち葉だけ消えてしまったのか、その理由が分からないまま視線を上に向けると透明な壁が消えているように見えた。
見えないものが見えるってなんなんだ。
でも、なぜかそう見えて俺は見えない壁に向かい手を伸ばすと、俺の手は壁があった筈の場所を通り抜けていた。
「消えた」
どれだけ叩いても消えなかった見えない壁が、拍子抜けするくらいあっさりと消えていた。
「これで上に行ける」
普通の階段よりかなり高いが上れないわけじゃない、とっとと上にあがって出口に行こう。
一段上り、もう一段進もうとしたのにまた見えない壁に阻まれてしまった。
「嘘だろ、ここも綺麗にしろっていうのか?」
籠は下の段に置いたままだっていうのに、舌打ちしかけて慌てて思いとどまる。
また崩れてしまったら困る。
「なんでこんなことしなきゃならないんだよ、根田のやろ……嫌、今のは嘘だ、そんなこと思ってないからっ! 根田の言う通り綺麗にしなきゃな!」
根田への愚痴を言おうとした瞬間、下の段が全て崩れ始め、慌てて訂正しながら籠を持ち上げる。
「落ちた」
俺は上の段に上がっていて、ギリギリのところで籠も持ち上げられたけれど、今までいた場所が無くなってしまった衝撃に、心臓がバクバクし始める。
「籠、落ちたらどうなる?」
枯れ葉を下に落としても無くならなかった。
籠に全て入れなきゃ綺麗にしたことにならないっていうのに、もし籠が下に落ちてしまったら?
「一生ここに? こんな場所に?」
カランコロンと石が落ちる音、その音が俺の疑問を肯定している様に聞こえてブルリと体が震える。
一生、こんな暗く不気味な場所にいなきゃいけなくなるのか? 寒くて喉が渇いて腹が減ってるし疲れからなのか体が重くなってきた。
それなのに、こんな少し油断したら下に落ちてしまいそうな場所にずっと居なきゃいけないのか?
「早く綺麗にしなきゃ。籠は背中に背負って」
これを落としたら最後だと、今気がついて本当に良かった。
籠を落としたと叫んでも、きっと根田はもうここには来ないだろう。
籠を落としたら、俺は終わりだ。
「綺麗に、早く綺麗に」
籠を背負い、両手で落ち葉をかき集めるとそのまま持ち上げ背中の籠に入れる。
入れ損ねたものがパラパラと落ちてくるのが気持ち悪いけれど、そんなの今更だ。
両手は土に汚れているし、服も汚くなっている。
「綺麗に、早く、もっと綺麗に」
何度も何度も落ち葉とゴミをかき集めては籠に入れるのを繰り返すと、二段目はすぐに綺麗になって次の段に進めた。
「なんだ、簡単じゃないか」
あっさりと次に進めたことに安堵して、三段目四段目と進んでいく。
そうやって数十段進んだ俺は、すっかり油断していたんだと思う。
油断と疲れと空腹で、気が抜けていたんだ。
上にあがっても、下の段は消えずに残っていて一番下の段は既に見えなくなっていた。
それだけ俺は上にあがっていて、だからうっかり気を抜いてしまったんだ。
「こんなのいつまでさせるつもりだよ、いいかげん俺を外に出してくれよなぁ。根田の野郎性格悪すぎだろっ。あんなどこ見てるのか分からない細目のくせによぉ。せめて何か食わせてくれよ」
腹が空いて仕方がない。
疲れたし眠いし、もうこんなことするの嫌だ。
「なんで俺がこんな目にあわなきゃ……うわっ」
そう呟いた途端、俺がいる段から下が突然崩れ出し全て消えてしまったのだ。
「嘘だろ」
ガラゴロと石と鳥居が転がり落ちる音だけが響いて、全て無くなって暗闇だけになった。
俺がいる段から下が、全部消えてしまった。
「上にはまだ行けない。まだまだ上が、出口……」
どれだけ段を上ったのか、十段を過ぎた辺りで数えるのは止めてしまった。
かなり上ったのに、まだ階段は続く。鳥居が続いている。
「まだ続くのか、終わりなんてあるのか?」
途方に暮れながら俺は、落ち葉をかき集め続けるしか無かったんだ。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる