【完結/R15BL】人格が破綻したあたおか勇者の愛が重すぎるんだが……?(加筆修正版)

架月ひなた

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第一章、あたおか勇者にお持ち帰りされて監禁された話

心が死にそうだ……

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 己よりよっぽど魔王らしい勇者に向けて心の中で悪態をつく。

 闇の森とは、魔族や魔物の中でも極めて獰猛で極悪非道な性質を持つ者たちだけが集う森の事だ。同族だろうと人族だろうと構わずに襲う危険な輩が隔離されている。この男ならばそこですら淘汰し、君主として降臨しそうだが……。遠い目をした。

 言われた言葉の意味なんて理解したくもない。鳥肌も立ちっぱなしなのもあって、精神衛生上聞き流した。理解しない、を選択するに限る。

 振り返るとキラキラと輝く笑みを浮かべながら、カプリスは楽しそうに人の頭にお湯をかけていく。
 全身綺麗に洗われ、オイルまで丁寧に塗られた。大切にされているというよりは下味をつけられている気分だ。

 ——隙をみてさっさと逃げよう……。

 ここに居ると危険……否この男は危険だと本能が告げている。
 食される……食べさせられるの間違いかもしれないが。
 残念ながら己は自分から食う側だ。男に食われる趣味は持ち合わせていない。
 シャワーを出るともう一度丁寧に体を拭かれて、女が身にまとうような上下一体型の服を着せられた。

 下履きはない。股の間がスースーして気持ち悪かった。いつでもどこでも行為に及べます、といった格好に死ぬ程イラッとした。

 ソファーまで横抱きで移動させられる。そこに腰掛けるとカプリスが背後に回ってきた。

「この黒曜石のような黒髪も、手に吸い付くような褐色の肌も最高に綺麗ですね。おいしそ……とてもとても愛おしいです」
「……」

 ——そろそろ心が死にそうだ。

 髪まで丁寧にブラシを入れられた後は、移動してきたカプリスの膝枕で横向きに転がされた。

 ——本当に心が死にそうだ。

 こんなゴツゴツした筋肉質の膝枕なんてしたくもなかった。
 拘束は解かれていないので動けないのが最悪だ。
 勇者が魔王の頭をヨシヨシしながら微笑みを浮かべているなんて、他人から見ればシュール以外のなにものでもないだろう。
 こうして愛でられているというのに寒気がするというよく分からない現象に見舞われている。全身どころか魂までもが拒絶していた。

 ——心が死にそうだ。

「……」

 表情筋はとっくに死んだ。この際もう元に戻らなくてもいい。

 ——それよりもどうやってこの男の元から逃げる?

 頭をフル回転させた。
 ずっと冒険の旅をしていたのなら、ここにも帰ってきて居なかっただろう。食材関係の在庫はゼロなんじゃないか? と考える。

「おい、お前」
「カプリス」
「お前な」
「カプリス」

 呪いを込めて、長い長い大きなため息を吐き出した。

「カプリス……」
「どうかしましたか? アフェクシオン。早くベッドに行きたいんですか? 積極的ですね」

 ——ちげえよ! つか、俺の事も呼び捨てかよ!!

 勘違いも甚だしい。鬼畜なのに脳内はお花畑仕様らしい。
 その前に己の名前を知っている事にまた恐怖した。ダンジョンの最下層付近にいる部下くらいしか知らないからだ。
 この男から拷問めいたものを受けたのかと思うと不憫でならない。聞きたいのをグッと堪え、カプリスに別の質問を投げかけた。

「買い物とかに行かなくて良いのか? 冒険の旅に出ていたのなら何もないだろう?」

 心の中とは裏腹に、気遣うふりを装って声をかければ、カプリスが何度か大きく瞬きを繰り返した。

「大丈夫ですよ。アフェクシオンを長期間監禁してもいいように、半年分くらいの食材は保管して保存魔法もしっかりとかけておきましたので。弱みを握って脅した協力者もいまして、足りない分はその人たちが持ってきてくれます」

 ——ヤバいヤバいヤバいヤバい。コイツもう隠さなくなってきた。

「へ……へぇ」

 立っていた鳥肌を超える勢いの鳥肌全開でそれだけ言うのが精一杯だった。こんな訳の分からない恐怖を味わうのは初めてだ。

「アフェクシオンは安心して快楽だけに溺れて私に愛されてくださいね」

 ——死ね。

 その前にどうしてこの男はここまで己に執着しているのか理解が出来ない。
 覚えている限りでは、出会ったのはダンジョンの最終決戦の時だけだ。それなのに、初めっから己を入手した後の事まで計算して下準備も全て用意周到にしている。ここまで来ると以前に何処かで出会ったのだと考えるべきだろう。

 ——何処で会った?

 こんなマジで頭がイかれた奴ならば、一度会えば忘れる筈がないというのに全くもって記憶にない。

「ではそろそろベッドへ行きましょうか」

 ——早いだろ!

 外は明るくまだ日も傾きかけているわけじゃない。
 ダンジョンに居た頃ならば、己の手下が作った物か人族からせしめてきたケーキを持ってくる時間だ。その証拠に窓の外からは、太陽の日差しが差し込んでいる。

「待て」
「大丈夫ですよ。癖になるくらい良くしてあげますから」

 ——全然大丈夫じゃねえ!

 心の奥底からの叫びだが、顔に出すのも返答するのも気が向かない。

「俺は腹が減った」

 大して腹も減ってなかったがベッドへ行くのを阻止しようと思いそう言った。

「まあ、そうですね。では軽い運動をしてから食事にしましょうか。食事の後に運動すると吐くかもしれませんし。あ、もしかしてここでシたいんですか? もう仕方のない人ですね」

 ——それは軽い運動じゃねえよ! 鼻息荒くするな! 今すぐ俺を解放しろ!!

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