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第一章、あたおか勇者にお持ち帰りされて監禁された話
出会いという名のアフェクシオンの人生が詰んだ日
しおりを挟む「私のローブを羽織って下さい」
「ちっ」
仕方ないので手渡されたローブに身を包んだ。「さて、行きましょうか」と言われ、手を繋がれたのでカプリスに視線を向ける。
「せっかくなので、あそこに行きましょうよ」
「あそこ?」
「行けば分かると思います! じゃあ捕まっててくださいね」
俵担ぎにされて、転移魔法で空間を移動した。
着いたのは、遠くにしか木々がない、柔草だけがある丘。確か……。
「星屑の丘です」
カプリスが機嫌良さそうに笑いながら言った。
己は過去に数回通っただけなので感慨深いわけでもない。カプリスには何か思い入れ深い場所なのだろうか。
これといった思い出もない場所に連れてこられても困る。「帰るぞ」と言いかけてカプリスの横顔を見た瞬間、昔の記憶が脳裏を掠めた気がした。
——あれはいつだった?
魔王としてあのダンジョンに入ってからは数えるくらいしか外に出ていない。となると……。思考を巡らせる。
『人族の子がこんな所で何をしている? 今日だけは見逃してやるからさっさと村へ帰れ』
ダンジョンを抜け出して夜道を歩いていた時だった。
魔獣に襲われかけていた子供を助けて声をかけると、惚けたようにこちらを見上げられた事がある。帰れないというので近くまで送ってやった。
金糸の髪の毛、星屑を散らしたような大きな紺碧色の瞳をキラキラと輝かせて…………は? もしかしてあの子供って……まさか。
「カプリス、お前……昔ここにいなかったか?」
「あ、やっと思い出してくれましたか?」
「くそ、助けなければ良かったーー!!」
心底悔やんだ。
「ちょっと、人の大切な思い出を台無しにしないでください」
「ああああ、寧ろあの時迷わずに殺しておくべきだった!!」
カプリスの言葉を無視して、頭を抱えて叫んだ。
「酷いです。私の初恋だったのに。一目貴方を見た時から、私の意中の人はアフェクシオンだけです。このまま連れ帰って納屋に閉じ込めて、誰にもバレずにずっと監禁するにはどうしたらいいのかと、あの日頭をフル稼働させていたというのに……。癖に目覚めた瞬間の私の大切で綺麗な思い出を返して下さい。どうしてそんなに残念な仕上がりにするんですか!?」
「お前の頭の中の方がよっぽど酷くて残念だわ!」
——お前が魔王なんじゃねえのか!?
サイコパスは生まれた時からサイコパスらしい。
あの頃はカプリスの方が小さくて、人族の子でいうなら十二歳くらいの年頃の筈だ。あの頃から既に人として終わっていたとか両親が不憫でならない。
「アフェクシオン」
名を呼ばれて顔を向けると重なるだけの口付けが降ってくる。
「これからもずっと愛してます」
——諦めて欲しいんだが?
鳥肌しか立たなかった。
「いや……過度に遊んでも浮気してきてもいいぞ。俺も遊ぶ」
それを理由に出ていける。こちらとしては都合がいい。
「そんな事を言うんですね……。アフェクシオン、私どうやらすっかり回復したようなので今日からまた五日間部屋にこもりましょうか? それともまた外でします? 出会いの場所でって楽しそうですもんね」
カプリスの目が死んでいた。
ダメだ。これ以上この男に刺激を与えてはダメだ。本能が告げている。
「冗談だ…………帰るぞカプリス。俺はお前とあの家に行きたい」
「でもアフェクシオン……その家から逃げ出しちゃったじゃないですか……?」
「散歩に出掛けたかっただけだ」
永遠に、とは言葉にしなかった。
「そうだったんですね。では今度から私もご一緒しても良いですか?」
「え?」
「やはり気に入らな……「気に入っている!」……良かったです」
昔奪った甲斐がありました、という言葉は聞こえなかったフリをした。
コイツ何で勇者とか呼ばれているのだろう。闇の帝王とかじゃないのか? 疑問は尽きない。
またカプリスに担がれて転移魔法で空間を移動する。
「ほらアフェクシオン、私たちの家に帰って来ましたよ!!」
——ああ、牢獄に戻ってきてしまった……。
遠い目をしながら、またカプリスに魔力制御装置をかけられて風呂に連れ込まれたのだった。
【第一章、了】
→第二章へ続く
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