【完結/R15BL】人格が破綻したあたおか勇者の愛が重すぎるんだが……?(加筆修正版)

架月ひなた

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第二章、家の中に部下が閉じ込められていた件

部下が閉じ込められていたんだが……?

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「えー、そんなつれない事言わないで下さい。アフェクシオンの体力なら大丈夫ですよ。初めての時、ぶっ通しでも出来たじゃないですか。その内慣れます。それに最中も治癒をかけてありますので、体もそこまで辛くないでしょう? 私は一途なのでアフェクシオン以外に勃ちません」

 ぶーぶーと不満げに文句を垂れてくるカプリスを振り返った。

「さっき無差別に襲って再起不能にすると言ってただろうが! その前にも魔族一人再起不能にしてる癖に息を吐くように白々しい嘘をつくのはやめろ!」

「そこは気付かなくていいとこです」
「お前俺を監禁するまで、今までどうやって性処理してたんだ?」

「そこ聞いちゃいますか? 気にしちゃダメですよ……。私はアフェクシオンの下半身事情も知ってますけどね」

「何でだよ!?」

 ここまで来ると怖さも通り越す。カプリスは何でもありだ。
 最近は何を言われても「ああ、カプリスだからな……」で納得出来るようになってきた己の方が怖い。

「それは……「いや、いい。やっぱりいい」……えええー!?」

 己で問いかけておきながら、理由を聞くのは嫌だ。言葉を被せて言い分をかき消した。きっと精神衛生上宜しくない。

「私はある意味アフェクシオンの好みだと思いますけど?」
「どこが?」

 聞き捨てならないセリフが聞こえて、背後を振り返る。

「金髪、巨乳、引き締まった肉体と腰。ムチムチの太腿。でしょう?」

 ——何故知っている。というか、お前の胸も太腿もゴツゴツの筋肉だろうが……。

 カプリスの体は引き締まっているというより、至る所がバキバキに割れているだけである。好みなんて誰にも語っていないというのに網羅されているのが恐ろしい。

 ——コイツを殺さなければ、本当に俺の日常に平穏は訪れないかもしれない。

 ラスボスだろ、と毒づく。
 真剣にカプリスを葬り去る為の時期や作戦を逡巡していると、泡だらけの体を抱きしめられる。

「今度は何を考えていたんですか?」
「どさくさに紛れて触るな」

 性的な手付きで触れられ、身を捩って逃げた。

 ——コイツ本当に人族かよ。

 どう考えても異常過ぎる。色魔の類ならまだ話は分かるが、人族でこのポテンシャルの高さは冗談抜きでおかしい。

「お前……本当は人族じゃねえだろ」

 嫌味を込めた単なる質問だったのに、カプリスが「え?」と言葉を発したまま数秒の間があいた。

「は?」
「え?」
「……」
「…………」
「待て、今のその間は何だ!? お前本当に人族じゃないのか?」
「ほらアフェクシオン。早く上がらないとのぼせちゃいますよ。私は食事の用意をしてきますね!」

 あからさまに話題を逸らしたカプリスに、湯をかけられ仕上げのオイルまでしっかりと丁寧に塗られた。



 ***



 食事が済んで暇を持て余していたらそのままソファーで寝ていたのか、気がつけばベッドの上で横になっていた。
 辺りもシンと静まり返って何の音もしなければ気配もしない。まるで一人しかいない空間がやたら気持ち悪く感じられた。

「カプリス?」

 返事もない。

 ——近くに居ないのか?

 うつ伏せのままボンヤリと窓の外を見ていたが、夜という割には明るい気がして窓に近付こうと身を起こす。

「っ!!」

 体が思ったように動いてくれず、ベッドから落ちた。

 ——は? 何でだ……?

 腰と股関節があり得ない程に機能しておらず、立ち上がろうとすると膝がカクカク震えて再度床に転がる羽目となる。

 かけられていた治癒をわざと外されたのか、魔法で状態の時間だけ逆行させられたのか分からないがカプリスに殺意が湧いた。屈辱的すぎる。
 今日は何かがあるのだと考えるべきか? 
 感じ取れる圏内にカプリスの気配が無い。

 ——予定があったから、俺を動けないようにしたかった……とかか? いや、アイツの事だ。罠かもしれん。

 這って寝室から出て、調理場を覗いてみてもカプリスの姿はなかった。

 ——居ない……だと?

 これはまた逃げ出すチャンスかも知れない。とは言え、体がこんな状態では行ける範囲が限られてくる。
 とりあえず魔力制御装置のブレスレットだけ引きちぎった。

 残念ながら己には治癒能力は備わっていない。体の回復は諦め、浮遊魔法で家の中を行き来して本当にカプリスが居ないかどうかを調べる。
 最後にまた調理場を覗いて、奥の食糧庫も覗いてみた。

 ——よし、居ない!

 逃げ出そうと食糧庫を出ようとした時だった。

『ーーさま!?』
『アフェ……シオ……ま!』

 ——声?

 何処からか己の名前を呼ぶ声がして周りを見渡す。が、誰の姿も見当たらない。
 気のせいかと食糧庫を後にしようとすると、また『ア……ェク……オンさま! こ……です!』と声が聞こえてきた。

 棚に隙間なく並べられている調味料もの瓶の中から聞こえてきた気がして、一つずつ瓶を退かして確認していく。

「お前らこんなところで何をしている?」

 透明な瓶に『時が来るまでキープ』と書かれたラベルが貼られている。その瓶の中には、かつて小間使いだった魔族が縮小化された状態で二人揃って入れられていた。

 瓶の蓋を開けて外に出すと見る間に体が元の大きさに戻っていく。瓶の中だけで効果を発する魔法だったようだ。

「「うわーん! ありがとうございます、アフェクシオン様ーーー!!」」

「暑苦しいわ!」

 身長は百五十センチしかないが、ドワーフと単眼族のハーフなのもあり、筋肉質で圧が強い。しかも双子とくる。暑苦しくてむさ苦しい以外の何者でもなかった。
 突進して来た二人からの抱擁を避けると、二人は見事なまでに床に転がっていた。

「忽然と姿を見かけなくなったとは思ってはいたが、まさかずっと捕らえられていたのか?」

 この二人は側近の中でも主におやつ担当だった。これがまた美味い。
 いつの日か姿を見かけなくなり、人族に捕らえられたか討伐されたのだろうと噂され、その内小間使い自体がすげ替わっていた。

 二人が持ってくる菓子が一番好みの味だったのもあり、かなり残念に思っていたというのにまさかこんなところに居たとは……。

「悪魔にこの家を奪われて瓶に閉じ込められてしまったんですーー!」

 滝のように涙を流して訴えかけてきた二人の話をやや引き気味に聞く。

 ——ん? 家?

『昔奪った甲斐がありました』

 星屑の丘でカプリスが言っていたのを思い出し顔が引き攣った。
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