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第二章、家の中に部下が閉じ込められていた件
残念な勇者、奇行に走る
しおりを挟む——金はどうする?
討伐された時に財産も宝石も全て奪われている。宝石でも掘りに行って換金するか?
「「アフェクシオン様ー!!」」
「ぐおっ!」
逡巡している時に後ろから体当たりされ前のめりに倒れ込む。今は二人を支えられる体力も無ければ、体幹の状態も整ってはいなかった。
上半身を思いっきり地面に擦り付け両手をつく。四つん這いで腰だけ掲げた格好になっている。
この服装でその体勢だと、まあ……言わずもがな腰から下は丸出しで、恥ずかしい箇所は全て曝け出した状態である。
「お前らな!!」
「アフェクシオン様、なんて美味しそうな……」
「ふっくらと熟していてそこから蜜も溢れております。なんて美味しそうな……突っ込んでみても良いですか?」
「良いわけあるか!」
体を起こすなり左右それぞれの手で思いっきり殴った。直後、身に覚えのあり過ぎる魔力を感知して身構える。あまりにも大きくて禍々しい魔力が空気を揺るがした。
「あーなーたーたーちー、誰がアフェクシオンのラッキースケベに肖っていいと言いました? その特等席は私だけのものです!!」
「てめえも黙れ……」
「「う、うぎゃぁあああああ!! 悪魔ーーー!!!」」
思いがけないカプリスの登場に場は混乱している。それどころかさっきのカプリスの魔力で、森中の魔獣や普通の獣までもが危機を察して逃げていき、魔族の気配も一つまた一つと消えていく。……カオスだ。
——くそ、もう見つかったのかよ。
いくら何でも早過ぎだ。防御壁に何かしらの細工が施されていて、カプリスにも知らせが行くようになっていたとしか考えられない。
「カプリスてめえコイツらが俺の部下だと知ってたな?」
「何の事ですか?」
涼しい顔で返され、怒る気も失せた。
「まあ、いい。コイツらにあの家を返してやれ。俺は人の家は嫌だ。お前が本当に俺と居たくて、俺の事を思って俺だけの為にちゃんと家を建てるなら、今度こそは逃げずにお前と一緒に住んでもいい。引っ越さないなら約束は反故にする。それと外出くらいはさせろ。息が詰まる。服も普通のが良い。さっきみたいに、お前以外の前で全部曝け出していいのなら構わねえけどな。誰かさんのお陰で見られ慣れたから、誰に見られようが突っ込まれようがもう同じだ。体も改造されたしちょうど良い機会だ、男娼でもするか。どうする?」
カプリスが己の周りを利用しようとするなら、こっちもカプリスの気持ちを利用してやろうと、嘘も交えつつあえて強気な案に出た。男娼をする気はない。
「そしたらアフェクシオンは私を好きになってくれますか?」
「俺は他人を好きになった事がないから保証はしない。俺を愛しているというお前の気持ちも理解出来ん。だが、側に居る事は可能だ。これから先、お前と一緒にいるだけじゃダメなのか?」
昔娼館にいた女の癖を真似てみる。
小首を傾げつつも口角を上げて、ゆっくりと視線も持ち上げた。
カプリスが瞬きもせずに近くの木までフラフラと歩み寄って行き、額をガンガンとぶつけるという奇行に走り始める。
——お前、どうした!?
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。推し尊い。最高。監禁したい。私とアフェクシオン以外みんな滅びてしまえばいい。どうしよう可愛い可愛い可愛い可愛い」
「……」
本格的に頭がおかしくなったらしい。大木はそろそろへし折れそうだ。
呪文のように何度も同じ事を言い続けるカプリスに掛ける言葉も失い、三人……否、二人は失神している。アフェクシオンは現実逃避するようにソッと視線を逸らした。
「アフェクシオン!!!」
森中に聞こえそうな大声で呼ばれた為、思わず身を竦ませる。
「ど、どうした?」
——額から大量に血が出てるけど大丈夫か?
これ以上頭がおかしくなったらもう手に負えない。
「もう一度小首を傾げながら私が好きだから結婚したいって言って下さい」
「そんな事は一言も言っていない。現実に帰ってこい」
事実を歪曲しまくっているカプリスからまた視線を逸らした。
ダメだ。相手にしてはいけない。こっちまで頭がおかしくなりそうだ。
「今すぐ帰って家を建てます! 婚姻届も取ってきます! 受理して貰えるように陛下を脅して法も変えさせます。転移するのでつかまってて下さい!!」
ドン引く程にやる気満々だった。
「お……おう。掴まるのは無理だ。悪いが腹の下に腕を回してくれ」
「えっ、チラ見せですか?? それともモロ見せですか!? 私もラッキースケベに肖りたいです。そこからずっと見つめたままとか最高過ぎですよね?」
「黙れ変態。俺に同意を求めるな」
失神している二人の首根っこを掴んだところでカプリスに俵担ぎにされる。そして転移魔法で家まで飛んだ。
家に着いてからのカプリスの行動力は凄まじいものがあった。
外観をデザインしたかと思えば内部の設計図まで作り出し、魔法で必要なレンガや木材を集めてあっという間に一軒家を作り上げたのだ。
また外壁に沿ってあのアイビーとかという蔓性の植物があったので燃やす。
「ちょっとアフェクシオン! 私の変わらない愛を込めた結晶を燃やさないでください。生まれ変わってからの生もずっと一緒に居たいだけなのに酷いです」
「お前との関係は今世だけでいい。いくら俺でも病むわ! 泣き真似やめろ。あざとい」
カプリスが空中で指を動かすと、燃やした筈の植物が復活して、あっという間に家を覆った。
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