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第三章、モフモフとよく死ぬ勇者とアフェクシオンの秘密
カプリスの友人
しおりを挟む——コイツ!!
ダンジョンの時は加減どころじゃなかった。赤子の手を捻るような優しさだったに違いない。
それどころか人族が有していい魔力量を遥かに凌駕している。
——コイツ本当に何なんだ!?
思わず背後に飛んで距離を取った……筈が、吐息が届きそうなくらいの近距離にカプリスがいた。
——早いっ。
「アフェクシオン、約束ですよ?」
胴体を真っ二つにされたイメージを与えられ喉を嚥下させる。実際には何処も怪我をしていないしどうもなっていない。
圧倒的な実力差故に魔力を浴びせられただけで避けられない〝死〟のイメージをもたらされる。数秒間呼吸を止めた。
「マジで……っ、ムカつく野郎だなてめえは!!」
ここで引く程大人しい性格はしていない。巨人と子供ほどの実力差があるのは分かっていても心が躍って仕方なかった。
跳躍してカプリスの首筋を狙い足を振り下ろす。
「さすが魔王ですね。好戦的な貴方も心から愛しています」
当たる前に足ごと掴まれて空に放り投げられる。空中で体を回転させて攻撃態勢に入ろうとした時に背後から抱きしめられた。
「はい、チェックメイトです」
「クソッ」
片手で顎を持ち上げられて剣の刃を軽く当てられている。弾き飛ばした剣をいつ拾ったのかも視認出来なかった。
負けたのは事実だが、不思議と悪い気はしない。それどころか楽しくなってきた。これからの退屈凌ぎにちょうど良い。
ゴツゴツの膝枕で頭をヨシヨシされる地獄に比べたらこっちの方が何万倍も楽しめる。
「アフェクシオン! アフェクシオン! 今日ですか? 今日口でしてくれるんですか!?」
「…………まあ……な」
目を爛々に輝かせているカプリスをジト目で見つめた。
「さあ行きましょう! 今すぐ寝室へ行きましょう!!」
「早いだろ!」
「ダメです。待てません! テンション爆上がりしました!」
——余計な事をした……。
引き摺られるように家の中に入ろうとすると、双子がパイを持って走って来るのが視界に入り込む。
「アフェクシオン様ー! 今日はレモンパイを焼いてみました!!」
「食う」
心の中で「お前ら良くやった!」と褒め称える。それに双子の作る菓子は美味い。即答するとカプリスに不服そうにみつめられた。
「俺は菓子が食いたい。夜までコレで我慢しろ」
浮遊魔法で浮いて触れるだけの口付けを落とすと、カプリスの体がバグってまた地に倒れていく。
——やはりチョロいなコイツ。
カプリスの扱い方が少し分かってきた気がした。
双子がパイを切り分ける。テーブルの上に紅茶と共に並べられ時に、やっとカプリスが家の中に戻ってきた。
「ダメです、アフェクシオン! 食べやすいように私が切り分けます!」
「いつも思うが、俺はガキじゃない」
「私がやりたいだけです」
フォークとナイフを使って綺麗に一口サイズにされる。
「はい、あーん」
「……」
——いや、無理なんだが?
カプリスに白い目を向けたが、無理やり唇に押し当てられた。
仕方なく口を開けるとパイを舌の上に乗せられたので咀嚼する。カプリスからは、別の意味が籠った視線を向けられている気がしたが安定のスルーを決め込む。
口内に広がる酸味と甘味がちょうど良い。
「美味い……」
「「ありがとうございます」」
また次の一口を口内に含む。
「夜になればこの舌が私のモノに絡みつくんですよね……ヤバい……鼻血が出そうです」
——そのまま出血多量で死ねば良いのに。
おやつを堪能していると、扉のノック音が響いた。客が来るのは初めてだ。人畜無害そうな顔をして、極度の人格破綻者だったカプリスの知り合いというのが気になる。
「カプリス、客だぞ」
「おかしいですね。誰にも会う約束なんてしていないんですけど……」
立ち上がったカプリスが玄関に向かったのを幸いに、切り分けられた残りのパイを次々に口内に放り込んで新しく皿に盛った。
「おーカプリス、久しぶりだな。結婚したんだって? 何でオレらに言わないんだよ。魔王討伐で同じパーティーだっただろ! みずくさいな! オレは相手が男でも全然気にならねえって言ったろ?」
——その元魔王はそこの勇者とやらに拉致られて今ここに居るんだがな……。
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