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第四章、あたおか勇者ヤンデレ化するの巻&ドラゴン討伐
第二の新種のドラゴンとその討伐依頼
しおりを挟む——何だこれは。
痛みの正体から目を背けたくない。せめて正直な思いを言葉にしたかった。
「俺は……」
言いかけた時、夜だというのに外を歩く誰かの足音がした。息を潜めて視線を向ける。
「おーい、カプリスー。うわ、新居めちゃくちゃじゃねえか。何だこれ! て、何で牢屋!? 馬鹿かっ、カプリスお前暴走し過ぎだろ! ちゃんと魔王生きてるか!?」
「「……」」
空気を読まずに現れたのはタナリサースだった。
無遠慮に牢屋を開けて入ってきたタナリサースに腕を掴まれそうになった所で、カプリスがタナリサースの腕を弾く。
「アフェクシオンに触らないで下さい」
「あのな、お前のその独占欲の激しさは少し異常だぞカプリス。何があったのか分からないが、ここまで家を破壊しなくても良いだろ。頭を冷やせ。オレは魔王には興味ないから取りゃしねえよ」
——少し? これが少しだとっ?
この家を破壊したのがカプリスだと勘違いしているにしても、この残状は「少し」という生優しいものじゃない。そんなタナリサースにもびっくりだ。
数日かけて抱き潰されるフラグから解放して貰えたのはありがたいけれども、どこか釈然としない。
カプリスを上から退けて一緒にベッドの上に腰掛け直した。
「確かにカプリスは契約違反はしたが、この家を壊したのはコイツじゃないぞ。獣だ」
そこで気がつく。
「獣……どこ行った?」
「そういえば見かけていませんね」
足枷を壊すなり、ベッドから飛び降りて双子の家へと向かう。応急処置的に直されていた扉を開くと、双子が獣の耳と尻尾をそれぞれ持って引っ張っていた。
「もっと金塊を出してください!」
「はい! もっとー!」
——コイツらはまた……。
「キュケエエ!!」
「やめろ」
「「おぐぅ!」」
手加減なしで双子に拳骨を落として、気絶したのを放置したまま獣を抱き上げる。
「遅くなって悪かった。帰るぞ獣。お前、俺から離れるな」
「キュケ」
獣が涙目で頷く。歩きながら魔力を分け与えてベッドのあるとこまで戻れば、カプリスが不機嫌そうに顔を顰めていた。
「どうした? 何かあったのか?」
タナリサースに視線を向ける。
「国王陛下から討伐依頼があってな。これから一か月くらいカプリスを借りるためにきた」
「ふーん。頑張れよ」
淡々とした口調で告げた。
「嫌です。一か月もアフェクシオンと離れる気はありません。騎士団も第一から第三まで部隊があるんですから、ドラゴン討伐なんてそっちでやればいいでしょう」
「それが新種のドラゴンみたいでな。対抗策がまるで無いんだわ。因みに先に出陣した第三部隊は全滅したそうだ。通信で短い映像のみ送られてきて、それで確認出来たらしい。だからこそオレらのとこに話が回ってきたんだけどな」
「「新種?」」
思いがけずカプリスと言葉が重なった。魔力を食べている最中の獣に視線を落とす。
——まさかな。
新種のドラゴンの幼獣である獣がここにいるのだ。成体である親や仲間がいてもおかしくない。
「そのドラゴンの情報は本当に何もないのか? 色や形など何でも良い」
確認したくて問いかける。
「頭が九個あるって事は確かなんだよな」
「九個」
——なら獣とは別種か。
安堵の吐息を漏らす。
「またですか……」
カプリスが神妙な面持ちで舌打ちした。
「また?」
「ああ、いえ。こちらの話です」
獣を見た時も「創った覚えがない」と言っていたのを鑑みるに、今回も同じ意見なのだろうというのは容易に想像出来る。
カプリスの表情を盗み見ると、また何を考えているのか良く分からない表情をしていた。
「第三部隊が全滅となると、相当な魔力量を有しているんでしょうね」
「そうだろうな」
カプリスは牢屋を構築した時に契約違反の代償として魔力を削られている。その状態で戦えるレベルなのだろうか。
——まあ、俺には関係ないが……。
食事が終わった獣を肩に乗せようとすると体が動かない事に気がついた。
「おい……カプリスてめえ……」
体がフワリと浮いて、立ち上がったカプリスの背中におんぶの形で張り付けられる。
「じゃあ、行きましょうか」
「行きましょうかじゃねえよ。俺は行かねえぞ。置いて行け」
どれだけ力を込めても拘束魔法は解けなかった。
「アフェクシオンと一か月も会えないなんて私に死ねと言ってるようなものです。なので連れて行きます!」
「知るかよ!」
「それに私がいない間にまた浮気されたら、ドラゴンどころかこの世界を消滅させてしまいそうです。本当に私とアフェクシオン以外みんな死ねば良いのに」
——あああああ、重すぎる……。
胃の辺りが痛みを発した。
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