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第四章、あたおか勇者ヤンデレ化するの巻&ドラゴン討伐
お前らは犠牲になっても良いのか?
しおりを挟む「だから浮気じゃないって言っただろが。妙な事を言うな」
「何だ痴話喧嘩で家を破壊したのか。激しい夫夫喧嘩だな」
「この勘違いバカ野郎共がっ。もう黙っていろ!」
二人揃って頭突きを喰らわせてやりたい。人の言い分を無視したカプリスに無理やり連れられて、転移魔法で揃って飛んだ。
先に獣を連れてきておいて良かったかもしれない。獣は言いつけ通りにしっかりと己の服にしがみついている。
それから誰かに見られる前に、カプリスに言って己の姿も容姿共に人族に化けさせて貰った。
もしこれから何人か合流していくのなら、魔王としての顔を知る者に会えば厄介だからだ。
タナリサースが若干残念そうにしている気がして視線をやると気まずそうに逸らされる。なのに、こちらが視線を逸らすとまた視線を感じた。何をしたいのかちっとも分からない。
「他にドラゴン討伐に行く奴らは居ないのか?」
随分と進んでいるのに誰とも合流しないのが不思議で問いかけた。
「いないでしょうね。これ以上犠牲者が出るのは好ましくないと判断しているでしょうし」
「は? お前とタナリサースは犠牲になっても良いのか?」
捨て駒扱いされているのが気に食わなかった。カプリスには破天荒なとこもあるがこれでも国を救った勇者の筈だ。タナリサースも然り。それが何だこの扱いは……。
空間を飛んで移動しながら、タナリサースが物珍しい物でも見るようにまたコチラを見ていた。
——さっきから一体何なんだ……。
「何か聞いてた魔王の噂と随分違うな。極悪非道の男をイメージしていたぞ」
「そう言えと指示していたからな」
「成程な」
今度はまるで値踏みをするかのようにタナリサースに頭からつま先まで見られ、不躾な視線が居心地悪くて眉根を寄せる。
「ちょっとタナリサース。アフェクシオンの新鮮さが減るので見ないでください。私のアフェクシオンです」
「婚姻契約は交わしたが、お前の物になった覚えはない」
——しかも強制的に。
「何だ、カプリスの片想いか」
「アフェクシオンに手を出さないでくださいね。貴方と言えど消しますよ?」
「オレは確かに男もいけるが、ハイエルフ以外に興味ないから心配するなって」
タナリサースが豪快に笑ってみせた。
「何故ハイエルフなんだ……?」
「あの見た目最高だろ? 何処かで密かに生きてるんなら攫ってでも嫁にするのに」
タナリサースが鼻歌混じりに頭の後ろで手を組む。やはりカプリスとは類友だ。先に口説いて相手の意思を尊重した上で連れて来るという選択肢はないらしい。
これ以上何かを口にするのも聞くのも嫌になってきた。
——この男には絶対バレないようにしよう。
何だかとてつもなく面倒くさい事になりそうな気がして、瞑目したまま心の中で誓った。
「もうそろそろじゃないですか?」
「そうだな」
二人が地に足をつける。そこは一面が雪で覆われ、どこもかしこも真っ白な空間だった。
どうやら大分北の方角に移動したらしい。行き先さえも伝えられずに連れてこられたので、到着して初めて知った。
「雪は初めて見た……」
ボソリと口走る。
「二人で雪国なんて新婚旅行みたいですね!」
「オレの存在を無視するな」
鳥肌が立ったので腕を擦ると、寒いと勘違いしたのかカプリスに上からローブを巻かれた。
これはこれで温かいので獣ごと包まる。
「で? そのドラゴンとやらは何処にいるんだ?」
タナリサースに話を振った。
「もう少し北に進んだとこにあるルティーク湖という湖だ。顔を出せるという事は、表面だけ凍っていて中はそうでもないんだろうな。被害は第三部隊合わせて死傷者数四百五十六名。近くにあった街が二つと村が三つ壊滅させられている」
「へえ」
「ちょっと骨が折れそうですね」
——良く言うわ……。
ため息をつく。
「カプリス、お前なら瞬殺出来るだろう?」
「どうでしょう? 私は魔力量も気まぐれと言いますか、その時の気分次第なので何とも言えませんね。それに今は牢屋を作った時に削られてますし」
——気分かよ。
浮遊魔法を使って湖に近づきながら会話していく。
ハイエルフの弓なら契約を解除してカプリスの魔力も元に戻せるが、ここにはタナリサースがいる。先程、攫いたいくらいにハイエルフに執着していると言われたばかりだ。極力知られたくは無い。
「タナリサース、陛下は何と仰っていたんですか?」
「ドラゴンの首を九本纏めて持ち帰るようにと言っていたな。相変わらず無茶振りしやがる。まあ、解析班のオレとしては研究材料が手に入ってウハウハだけどな」
タナリサースの言葉に驚く。
「解析班? お前そんな剣士というようなナリしといて解析班なのか!?」
筋肉量もカプリスと大差ないのに、まさかの非戦闘員だった事に驚きを隠せない。
「そうだぜ。解析なら任せろ。オレがドラゴンの弱点を魔法で解析してカプリスに教える。それが今回の任務だ。あと治癒も少し扱えるぞ」
それなら戦闘員は初めっからカプリス一人という事になる。こんな所に一人だけ? しかも正体不明のドラゴンを相手にするというのにか? 胃の中がムカムカしていて憤りを抑えきれそうにない。
——こんなの任務でも何でもないだろがっ!
この二人は死んでも良い存在として扱われている。国の為の生贄そのものだ。
「は? その陛下とやらは何でてめえらだけに責任を押し付けようとしてんだ……城ごと瓦礫の山に変えてやろうか?」
体に力を込めて拘束魔法を自力で解く。ブレスレットも引きちぎった。
「カプリス、俺も混ざるぞ。反論は聞かん。あと、ちょっとここに来い。悪いがタナリサース、そこで待っていてくれ」
場所を離れてからタナリサースとの間に幾つかの防御壁を作り、認識阻害魔法も重ね掛けしていく。
「アフェクシオン?」
こちらの様子を伺うように顔を覗き込まれた。カプリスの言葉を無視して呪文を唱える。
「διδξγδΰικγδζάνδ ξΰδιάνɋζκίκɋ ςάνΰβάίξɋζάξάίκνɋικγά γδζάνδικτά ξɋέΰίΰςκξΰδεκɋζάξΰτκ……」
「ちょ、ダメですよ。アフェクシオン!」
「うるせえ、黙れ。俺は今最高に機嫌が悪い」
弓矢でカプリスを射抜くと、カプリスにかかっていた契約による制限が外れて魔力が元に戻っていく。
カプリスが驚いたような、それでいて少し困惑しているみたいな妙な表情をしている。
それを無視して正常を確認次第すぐに魔族の姿に戻り、認識阻害魔法も全て解いた。次いで、カプリスのやる気を底上げする為に口を開く。
「カプリス、もし勝てたらお前の望みを一つだけ何でも叶えてやる」
「え? え? 連日連チャン記録更新した後に新婚旅行に行きたいって言っても叶えてくれますか?」
「構わんぞ」
固まったままのカプリスと視線も合わせずに先を急いだ。すぐに二人も追いついてきて、ルティーク湖へと到着した。
「タナリサース、悪いがコイツの面倒を見ていてくれ」
「分かった」
獣をタナリサースに預けてカプリスの隣に立った。
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