【完結/R15BL】人格が破綻したあたおか勇者の愛が重すぎるんだが……?(加筆修正版)

架月ひなた

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第四章、あたおか勇者ヤンデレ化するの巻&ドラゴン討伐

やる気はログアウトした。ドラゴン……俺のせいじゃないぞ?

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「アフェクシオン、ちゃんと約束守ってくださいね?」

「分かってる。だから——」

 死ぬな、と続けた言葉はドラゴンの咆哮にかき消される。

「ふふふ……っ、ははははは。テンション爆上がりしてきましたぁああ!!」

「……」

 カプリスが完全にゲス顔をしていた。これではどっちが悪者か分かったもんじゃない。

 ——マズい。やり過ぎだったかもしれん……。

 半目になる。
 カプリスの魔力量が前回以上に跳ね上がっていく。それを直に真横で感じ取り、本当にカプリス一人で良かったんじゃないかという気がしてきた。

 湖の中から上がってきた九頭竜が動く前にカプリスが動く。速いなんてものじゃなかった。
 九本の頭を首の根本から全て凍らせ、カプリスが唱えた呪文の後に、空を裂いてアルマゲドンが落ち天と地を繋ぐ。その柱が三本も現れた。

 ——アルマゲドンを三本も同時に落とすのはカプリスくらいだ……。バカだなアイツ……。

 超高難易度の魔法だ。桁違いの魔力量を消費する。それでも余力があり過ぎるのが怖い。

 閃光で前が見えないが、水柱やら雪やらが魔法攻撃で舞い上がり、空に散っているのが気配で伝わってきた。

「ははは、ははははっ!!」

 カプリスが追い討ちをかけるように更なる魔法攻撃の連打を浴びせている。なのにカプリスからは魔力が減っていく様子がうかがえなかった。

 ——こんなの聞いていない……。

 何だかドラゴンが可哀想になってきて、目頭を揉みながら瞑目した。

 きっとカプリスが相手だったのが運の尽きだったのだ。決して己のせいでは無い。断じて違う。そうに違いない。カプリスが勝手にハイになっているだけだ。

 響いていた地響きとドラゴンの咆哮が止み、巨体が横向きに倒れていく。その後は空間に静寂が落ちた。

「「…………」」

 ちゃんと解析は出来たのだろうか。圧倒的なパワーと速さで九頭竜は倒されたので、目で追えなかった可能性が高い。

「アフェクシオン! アフェクシオン! 何処へ行きたいですか!? 今回北に来ちゃったんで南にでも行きますか? 新婚旅行楽しみですね!!」

 カプリスだけは嬉々として、九頭竜の首を無邪気に切り離しながら問いかけてくる。視覚的には中々のグロさがあった。

「ああ……そうだな」

 ソッと横に視線を流す。

 ——コイツは世界が生んだバグか何かだろ、絶対。

 カプリスだけが異質でおかしい。本当におかしい。頭がおかしいのは元々だが、存在自体がおかしい。

「この首、陛下のとこに送っておきますね!」

 カプリスが言った瞬間、首が消えた。

「タナリサース、解析……」

 黙り込んだままのタナリサースが気になって視線を向けると、その顔面には怖がりまくって叫び声を上げている獣が張り付いていた。

 ——これ絶対解析出来てねえわ。

 悟った。
 討伐するのに組まれていた予定は一か月。それをほんの一瞬で終わらせたカプリスがスキップしそうな勢いで寄ってくる。

 ——本当に一人で瞬殺しやがった……。

 討伐に加わろうと思っていただけに、肩すかしを喰らってしまいこっちとしては不完全燃焼だ。
 己の言葉だけであんなに豹変するなんて誰が予想する? カプリスを焚き付け過ぎた感が否めない。

「キュケーー!!」
「こら、顔に張り付くな! 爪っ、爪痛えっての!」
「獣、終わったぞ。こっちに来い」

 タナリサースの顔から獣を引き剥がして腕の中に抱き込む。

「おいカプリス。全然解析出来なかっただろうが! もう一度やり直せ!」

 タナリサースが逆ギレし始めたのを見つめ、カプリスが両手を肘の高さに掲げて面倒臭そうに言った。

「首は城に送りましたのでそっちから分けて貰うか、そこにある胴体を持ち帰ればいいでしょう?」

「オレは討伐期間の一か月の間に生きたままのドラゴンを解析したかったんだよ!」

「知りませんよ。そっちの都合に合わせてたらアフェクシオンとの時間が一か月も減るじゃないですか。これ以上貴重な時間を奪わないで下さい。任務は完了しましたので、私たちはもう戻らせて貰います」

 腕を引かれて獣ごと抱き込まれる。先程までのカプリスの魔力量と暴れ具合を見ても突っ込まないという事は、タナリサースも知っていたらしい。

 無言のまま視線を向けていると、言わんとしているのが伝わったのかタナリサースが頷いた。

「コイツの桁外れた魔力量の事は今んとこオレしか知らねえぞ。アンタの討伐の時にも疑われていたが、今回のドラゴンの件でやはりおかしいと気がつくだろうけどな」

「そうか」

 今回はカプリスの魔力量を押し測る目的もあったのかもしれない。この事実を前にして王がどう出るか……。味方にいる分にはカプリスの存在は良いのだろうが、この先敵に回るかもしれないとなれば生かしておくのは危険だろう。

 カプリスが魔王という名の己を倒し、その上でドラゴンまでも一人で討伐したとなると、今後も危険人物として歯牙にかけられ共倒れを狙った無茶な依頼も増えそうだ。

 ため息をつく。それこそ己には関係ない。寧ろカプリスからの異常な愛情と監禁生活から逃げられそうで良いじゃないか……。

 願ったり叶ったりだとは思いつつも、自分以外に命を狙われる可能性があるのは素直に喜べなかった。どうせならこの手で亡き者にしてやりたい所だ。カプリスが誰かの手にかけられるのは、獲物を奪われた気がして何となく面白くない。

「今度から……俺も連れていけ」
「討伐依頼にですか?」
「そうだ」

 無理やり同行させられたドラゴン討伐だったが、得る物はあった。
 ドラゴンの胴体に縮小魔法をかけて袋に詰め込んだタナリサースが戻ってくる。

「なあ、その白い獣を解析させてくれないか? その子ドラゴンだろ。喉の下にドラゴン特有の逆鱗があった。でもこのタイプのドラゴンもオレは見た事がないんだよなー。お前ら旅行に行くんだろ? その間預からせてくれ」

 バレている……が、このまま預けて良いものか悩む。双子がやらかした時みたいに凶暴化してしまっては目も当てられない。己が居ない時に暴走してしまえば、全員殺されてしまう危険性が高い。それと今回の討伐依頼と同じように獣も討伐対象となってしまうだろう。

「獣はダメだ。連れて行く」

「じゃあオレも旅行について行こうかな」

「は……? 何で貴方が来るんですか」

「何でって、どうして未確認ドラゴンや魔族と暮らしているのかとか、何で魔王の中にハイエルフの気配があるのかとかも気になるとこだし。魔王のその特徴的な耳の形、以前から気になっていたんだよな」

 見られたのかとも思ったが、そうではないみたいだ。恐らく此処へ来る前からずっと観察されていたのだろう。見た目に反して根っからの解析班気質な男だ。

 ニッコリと微笑んだタナリサースに向けて、カプリスが無言で剣を抜いた。

「おいおい、オレに剣向けるなよ。友達だろ? 誰にも言う気はないから安心しろって。オレが興味あるのは研究のみ。そりゃハイエルフは攫ってでも喰ってみたいけど、人の嫁に手を出すほど落ちぶれちゃいねえよ」

「私は芽が出る前に刈り取る主義なんですよね」

 無表情で構えたカプリスを見て、タナリサースが後退る。

「待て待て。この小型ドラゴンは調べておいた方が後々扱い方が分かって良いんじゃねえのか?」

 それは一理ある。タナリサースを嫌がる素振りがあるかどうか、獣に視線を落とした。

「そんな事言って、単にすぐ帰省して陛下に小言を言われるのが嫌なだけでしょう? どうせ貴方の今回の役目は私の監視だったんでしょうし。心配しなくてもアフェクシオンがいる限り私は大人しくしていますよ。貴方たちと違って私は王族でも貴族の出でもない平民ですし、反乱も起こす気はありません」

「じゃあ魔王が居なくなるとしたら?」

「そんな世界に興味ありませんね。消してやり直します」

 ——やり直す?

 やれやれと言わんばかりにタナリサースが首をすくめて見せる。

「お前がそうやって陛下を脅して男と結婚しちまったから余計に危険因子として警戒されたんだろうが。元々素行が良いとも言えなかったのにだぜ?」

「私には私の目的とやりたい事があるんですよ。例え陛下であろうと邪魔はさせません」

 ——成程な。

 このまま極寒の中でする話でもなく、一先ずは帰ってからにしようと意見が纏まった。来た時同様、転移魔法で空間を飛びながらカプリスと住んでいる家へと向かった。

 カプリスが外観と内装を元に戻している間は双子の家で過ごす。双子は家具を作っていた。

「アフェクシオン様の玉座をソファー型にして、カプリス様と一緒に伸び伸びと座れるようにしときました!」

 ——心底いらん……。

 余計な気遣いだ。タナリサースの姿が消えているのに気が付き、家を出た。

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