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第七章、力の解放と新たな魔王の誕生
ハイエルフの能力の解放
しおりを挟む旅行から帰って来てからは、朝から晩まで双子もタナリサースもこの家に当たり前のようにいるようになっていたので首を傾げる。
「タナリサースと双子は店に行きましたよ」
「アイツらだけで大丈夫なのか?」
「大丈夫です。タナリサースは元々皇太子殿下だったのもあって、護身術を身につけていますのでそれなりに戦えますよ。それに双子は私が貴方の為に作った魔族なので、いざという時の小細工を仕掛けています。条件を満たせば魔族百体くらいなら倒せますよ」
「双子が?」
肯定するようにカプリスが笑んだ。勝手に魔族や魔獣を創ったとは聞かされていたが、まさか双子もそうだとは思わなかった。それとタナリサースに関してもだ。
解析班になったと言っていたので非戦闘員だとばかり思い込んでいた。あの筋肉は伊達じゃなかったらしい。
「ええ。アフェクシオンは甘い物が好きですからね。絶対に貴方を裏切らないおやつ担当として設定しています。あの二人が普段魔力を制限されているのは、貴方に害が及んだ時か本人たちが生命の危機に晒された時用に溜めているからです。これは本人たちも知りません。無意識下で発動しますので」
思わず食べるのを忘れてしまったくらいには唖然とした。この男の行動基準が全て己の為なのだと知り、どこか体がむず痒くなってくる。
「……」
沈黙で返した。
——重い……と思ってた筈なんだけどな……。
今は初めの頃とは違って、妙に気恥ずかしくて居心地が悪い。
返事も問い掛けもせずに、中断していた食事を済ませるなり獣を連れて寛ぎの間に移動した。
「タナリサースは無理やり追いやった……間違えました。双子と一緒に行かせたので、代わりに私が全部教えますね。昨日資料も文献も全て覚えておきましたので」
「構わん。アイツはハイエルフを見るとトチ狂うからな」
ウンザリするくらいに……。どうしてハイエルフにあそこまで執着しているのか理解ができない。
理解出来ない度数で言えば己に拘り続けるカプリスもだが。
「お前らは似たもん同士だな。理解に苦しむ」
「え、一緒にされるなんて心外なんですけど……」
カプリスの凹んだ顔を見るのは初めてかもしれない。底なしの虚無を抱えた顔か笑顔はよく見るだけに、少しだけ新鮮な気持ちになった。
「お前と対等に付き合おうとする奴なんざ、人族ではタナリサースくらいだろ」
対等な立場がいない孤独さは知っている。ずっと居なければならない立ち位置も決まっていて、そこには自由もない。誰かと軽く言葉を交わす事も無い。だからこそ同位置にいる者は、唯一孤独を分け合える、貴重で大切なものなのだと思う。
「このまま…………皆一緒に居られるといいのにな」
カプリスが食い入るように見つめてくる。言葉が返ってくる前に玄関に向かった。
「カプリス早くしろ。始めるぞ」
「それよりアフェクシオン、さっきのどういう意味ですか?」
「そのままだ。お前が永遠に暮らそうって言ったんだろが。これからも一緒に居るんだろ? ほら、行くぞ」
先に外に出るとカプリスが慌てて追いついてくる。
「昨日からまた推しからの供給過多で死にそうなんですけど……」
——お前はいつも死んでるだろ。
心の中ではそう思っていたが、遊び心が出てきてしまい、笑んでみせた。
「お前の飯が食べられなくなるのは困る」
カプリスがよろけて地面に両手と両膝をつく。本当に扱い方が分かってきた気がする。己の言動でカプリスで遊べるのが楽しくなってきた。
「食事だけですか!? 私に会えなくなるのが寂しいとか、もっと悲しんでください」
「ない。そもそもこれまでにそんな感情も感じた事がない。嫌になったか?」
「そういうとこも好きです!!」
はいはい、と受け流す。
「ほら、立て。早く始めるぞ」
「喜んで!」
前屈みになって笑いで喉を鳴らすと、立ち上がったばかりのカプリスが後ろ向きに倒れる。
「だから始めるって言ってるだろ! 人の話を聞け!!」
自動蘇生する前に心臓を叩いて強制的に生き返らせた。
「アフェクシオン、第二解放からいきますよ。これは第一解放だった連射を広範囲に渡らせた状態異常を解除する技になっています。言わば〝技の増殖〟ですね。弓を上に向けて打った後に唱えてみてください。呪文は〝λνκηδαΰνάοδκι〟です」
言われた通りに第一の呪文を唱えた後で頭上に向けて矢を放つ。
「λνκηδαΰνάοδκι」
第二の呪文を口をすると数本だった矢が見る間に増え始めて、幾千の細長い光のカケラとなり地に降り注いだ。これはこれで違う技とも組み合わせて使えるかもしれない。
「綺麗ですね」
カプリスがローブを頭から被っているのが気になりジッと見つめる。光の矢はカプリスには一本も当たらずに避けるようにして地へと落ちていた。
「お前何故身を隠している?」
——コイツもしかして……。
「私なんて色々な状態異常の塊みたいなものですからね。通常の弓の矢はピンポイントなので対策できますが、その矢はちょっと……」
——やっぱりか!
ここに来てカプリスの弱点が分かった。無言でカプリスを目掛けて矢を放つ。軽やかにかわされ、背後から抱きしめられる形で追撃は阻止された。
「まあまあ、お楽しみは最後に取っておいてください。ここで私を射ると能力の解放が出来なくなりますよ? 全力の私と戦ってみたくありませんか? 第九まで解放した貴方の魔力は私と拮抗していましたからね」
——人の足元を見やがって!
それを言われると選択肢など無いに等しい。もっと焦った顔が見たかったというのに忌々しい男だ。
舌打ちしながら「次は?」と問いかけるとカプリスが口を開いた。
「第三の解放は〝復元〟です。建物や大地などを元に戻す効果があります」
「俺には縁のない解放だな」
「そう言わずに一度試してみて下さい」
カプリスが剣を抜き、足場を破壊する。破壊……などと言うのは生温い。地響きと共に大地が割れ底の見えない割れ目が入ったからだ。
割れた地面と共にカプリスとの距離がどんどん離れていき、どこまでも黒い空洞が広がっていく。地殻変動で新しく大陸が出来たようになっている。
——本当にムカつく野郎だ。
現段階でも力の差は歴然としているのは分かっていたものの、改めて思い知らされると腹しか立たない。
「アフェクシオン! 地面に向けて矢を放ちながら〝νΰξοκνάίδκι〟と言ってみて下さい!」
声を張ったカプリスに倣って言葉を口にし矢を放つ。すると、割れた大地が揺れ動き、カプリスが斬った痕跡など何一つ残さず元に戻った。
些細な修繕程度なら魔法で何とかなるがここまで破壊された自然や大地の復元は不可能だ。これには驚きを隠せなかった。
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