【完結/R15BL】人格が破綻したあたおか勇者の愛が重すぎるんだが……?(加筆修正版)

架月ひなた

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第八章、終焉の時とそれぞれが選ぶ道(了)

国王陛下

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「獣、お前……」
「キュケケ~」

 ——タナリサースが言っていた面白い物ってコレの事か……!

 まさか連携プレイをしてくれるとは露ほどにも思っていなかったのもあり驚きを隠せない。柔らかな毛で頬擦りされたので頭を撫でてやった。

「賢いなお前。さすが俺の愛獣だ」

 放出すると腹が減るらしい。グルルと喉を鳴らして魔力をおねだりされたので、褒美として魔力をたんまりと食わせてやった。

 カプリスも驚きを隠せない様子でこちらを見て目を瞠っているのが分かって「さっさとそいつを始末しろ」という意味を込めてヒラリと手を振る。

「アフェクシオンに応援されると気合い入りますね!」
「誰が応援なんざするか!!」

 勘違いも甚だしい。こんな時でさえ脳内お花畑仕様のカプリスが、こっちに向けて満面な笑顔で手を振りかえしてきた。

「だから、ちげえよバカ! さっさとやるべき事をやれっ!!」

 言った直後に悪寒が走る。獣も臨戦態勢に入り全身を剣山のように変えて威嚇していた。

「ちっ!」

 ——あの、バカ!

 カプリスの前に居た男が転移魔法で飛んでくる。男との間に割り入るように獣がトグロを巻くが、その体が真っ二つに引き裂かれた。

「獣っ!!」

 弓を変える暇もなく、距離を詰めてくる男を瞬きもせずに見つめ返す。

 剣の切先が心臓に食い込んだかと思った時だった。剣を持つ男の腕ごと斬り飛ばしたカプリスに左腕で抱き止められる。

「私のアフェクシオンに触らないで下さい」
「本当に邪魔だなお前は……っ」
「この間のお返しをしただけですよ」

 カプリスの剣が今度は男の心臓を深々と突き刺した。

 動きを止めた男に向けてカプリスが手をかざすと、そこから直径二メートルを超える白い魔法陣が浮かび上がった。

「ɇȵȶɆɀȼȶ ȵȶȼǮɆȶ ȿȶ ɇȢȶȿǮɆɋ ʯǮȶǶǮ ȼȢȶщɀ 1218 ȶщɀ 2564 ȼɀȿɀȾɀȿɀɏɀȥɋɋйȶɆɋ」

 耳慣れない言葉で紡いだカプリスの呪文の後で魔法陣が男の体に絡まり、そのまま東のダンジョンの方角に向けてもの凄い勢いで飛んでいく。

「一先ずはこれで良いですね」

 初めて聞いた呪文だったのもあり、カプリスを見上げた。

「今のは何だ?」
「私の世界で使われていた聖なる力を司る白魔術というものです。それを用いて一時的に東のダンジョンに封印しました」

 ——お前、魔の者じゃなかったのか……。

 何故聖なる力を使えるのか……疑問しか出てこない。口に出すのを我慢しつつも胡散臭げな表情で見つめると口付けが降ってきた。

 カプリスを押し返して、弓の形状を変えるなり獣に打ち込む。大きなドラゴンだった体が小さくなっていき、見る間に元の大きさに戻っていく。

「獣……」

 腕の中に抱き上げて胸に耳を当てる。意識はなくグッタリとしており動きはしないが、心音は聞こえてきた。

 ——良かった……。

 ホッと息をついた所で以前に一度だけ見た国王陛下が近衛兵団を引き連れてタナリサースと共に歩いてくる。

「カプリス、そなたに聞きたい。元魔王がそなたの妻というのは事実なのか?」

「そうです。私がダンジョンから連れ出しました」

「そうか……。それでその魔王はそこにいるハイエルフと同一人物なのだな?」

「ええ」

 神妙な面持ちをしている国王陛下はどこかひりつくような雰囲気を醸し出していた。

「カプリス、そなたを謀反者として捕える」

 近衛兵団がカプリスの周りを取り囲んでいく。

「別に構いませんが、さっきのあの男は一週間も経たずにまた出てきますよ。それでもよろしければお好きになさってください。その場合私はこの国は見捨て、タナリサースを含む自分の身内だけを連れて国外に逃亡します。先に言っておきますが、あの男は私と同格の魔力を有しております。国どころか世界ごと斬り捨てられるかと……。私の魔力量の事はもうご存知なのでしょう? ここで提案ですが、捕えるより私を有効利用してみてはいかがでしょうか?」

「そなたはまたそのような事を……」

 頭痛がするというように国王陛下が左側のこめかみを手で押さえていた。己としてもカプリスの存在は頭痛がするくらいだ。人族からすれば相当なものだろう。

「事実ですので。あの人と私をぶつけて潰し合わせる方が賢明だと思っただけです。それに私はタナリサースにも言った通り、この国も世界もどうこうしようという気はありません。アフェクシオンと共に静かに暮らせるのならそれ以上は何も要りませんので。手柄も国のものにするなりお好きになさればいい」

 カプリスからの提案に国王陛下が逡巡するように額に手を当てている。

「元魔王はどうなんだ?」

 国王陛下の視線が己を向けられる。

「俺は元々世界征服になど興味はない。これまでに何百年もの間、父であった魔王の時代からも、単なる噂だけで実際には人族に侵略もしていなかった筈だ。野良の魔族や魔獣は省かせてもらうが。なのにいつも何かと理由をつけて勝手に攻撃を仕掛けてくるのはお前ら人族だろうに……。俺たちは攻撃されれば迎え撃つだけだ。だが、あの新魔王とやらだけは違う。あの男は人族も魔族も見境なく殺すぞ」

「成程な…………承知した。ならばあの男の討伐をカプリスそなたに命ずる。無事果たせたのなら、そなたらには今後一切干渉せんと約束しよう」

「感謝いたします。タナリサースはこっちに貰ってもいいでしょうか?」

「コイツは既に継承権を放棄している。皇子としての任務すら果たしておらん。好きにするがいい」

 国王陛下が左手を挙げると近衛兵団も構えていた剣を下ろす。そして国王陛下共々そのまままた城の中に戻っていった。

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