【完結/R15BL】人格が破綻したあたおか勇者の愛が重すぎるんだが……?(加筆修正版)

架月ひなた

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第八章、終焉の時とそれぞれが選ぶ道(了)

タナリサースが本気だった件……

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 タナリサースを連れて家に戻ると双子が食事の間にあるテーブル席について、紅茶を飲んでいた。

「「おかえりなさいませ!! ご無事で何よりです!」」
「お、なんか良い匂いすんな~」
「お夜食を作っておきました。召し上がられますか?」
「食う」

 返事をしてから双子が調理場に消えていくのを見送り、三人で席についた。

「とにかく時間がないのでアフェクシオンの力の解放を急いだ方がいいですね。私も力の制限を解かないと、今のあの人は私より強いと思いますので」

 カプリスの言葉に、タナリサースと共に思考回路が一瞬停止状態になる。

「「は??」」

「言っていませんでしたっけ? 私は今、自分の魔力量に制限をかけてるんですよ。アフェクシオンが第九まで能力解放しないと解除出来ないようにしています。手合わせした時に、嬉しさのあまりテンションが上がりすぎて、うっかり殺してしまいそうになった事があったので」

「おい……」

 このあたおかは戦闘狂でもあったらしい。冗談抜きで頭が痛くなってきた。
 これまでの実力が全開じゃなかったとか、信じた事もない神を呪いたくなるレベルだ。

 ——コイツは存在自体がバグじゃないのか?

 頭の中だけじゃない。性格も魔力量までもがぶっ壊れている。
 人族とか魔族とかの問題ではない。冗談抜きでカプリスは存在自体がおかしい。
 タナリサースがテーブルの上に上体を倒していく。

「カプリスは幽閉しといた方が世界の為だったのかもな。選択を誤った気がしてきたぜ」

「だから言ったじゃないですか。貴方たちにとって私が諸悪の根源だと思いますよって」

 またいつもの他愛無い会話のやり取りになってしまい辟易としてくる。ここはもう早く本題を進めてしまいたい。

「とりあえず飯食ったらやるぞ」
「良いですね。何回戦にします?」
「……」

 カプリスの表情が生き生きとしているのが分かり、会話が噛み合っていない事に気がついた。

「そうじゃない。ハイエルフの力の解放だ」
「至極ガッカリです……」
「時間がないって言ってるだろが。お前今の状況分かってるのか。んな事してる暇ねえよ」

 心の中のツッコミが思わず口をついて出ていく。

「夫婦漫才はいいからそろそろ本題に入ろうぜ」

 タナリサースが真面目な顔をしていると普通の人族みたいに見えるから不思議だ。ふざけていないとそれなりに良い男なのに勿体無い。

「お前、普通にしてたら良い男なのにな。遊んでいないでちゃんと妃を迎えろ」

 この容姿ならば女には不自由しないだろう。
 ハイエルフが絡むとカプリスと同じく、残念過ぎるくらいには頭と挙動がおかしい男になるが。

「お、やっと気が付いてくれたか? 婚約届は準備しているからあとはハイエルフ姿の魔王の判子待ちだ!」

「……」

 ——やっぱりバカだ、この男は。いい加減ハイエルフマニアは卒業しろっ。

 グッと親指を立てられたのを白い目で見つめる。次いで、突如出現した白い紙をテーブルの上に置かれた。得意げなその横っ面を引っ叩きたい。

 ——ダメだ。こっちも通常運転だった。思考回路がバグったままだ。

 城へ行ったあたりから少しまともになっていたと思っていたのに落胆を隠せない。

 何も言わずに無視したまま、調理場に消えていってまだ姿を見せない双子を探す。腹が減って仕方ない。その正面では、婚姻届の用紙がカプリスによって燃やされていた。

「タナリサース、やっぱり貴方は要りません。城に帰ってください」
「お前が連れてきたんだろ」

「それは数分前までの話です。ハイエルフに詳しいですし役立つかと思いましたが、気のせいだったようです」

「「お待たせしました」」

 己の存在を薄めていきどんどん空気に馴染ませていく。

 ——飯、食おう。

 二人は見えないフリを装い、双子が持ってきた食事に手を伸ばして口内に放り込んだ。






 もう夜も遅くなっているというのに、今日は珍しく眠くならなかった。
 ずっと気を張っていたのもあるのかもしれない。ちょうど良かった。これ幸いに家の外へと出る。

「これから第六の解放に移りますね」
「さっさとしろ」

 家から少し離れた所にある原っぱに出ると、カプリスが厳重過ぎる程に防御壁を重ね掛けしていった。

 少し離れた所で、タナリサースが解析パネルを浮き上がらせてこちらに向けていた。

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