【完結/R15BL】人格が破綻したあたおか勇者の愛が重すぎるんだが……?(加筆修正版)

架月ひなた

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第八章、終焉の時とそれぞれが選ぶ道(了)

ハイエルフの事

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 ***


 目を覚ますとまたしても珍しくカプリスが寝ていた。

 一切衣服を身に纏っていない事に気が付いて己の体に視線を落とす。いたる所に鬱血痕が散らばっているのが分かり、イラッとしてカプリスの頭に手刀を落とした。

「おはようございます。体の調子はどうですか?」

「ニヤニヤするな。てめえから見た通りだ。ドン引くほど体調良いわ。人が動けないのを良い事に好き勝手しやがって……」

「ふふ、可愛かったです」

 この男の〝可愛い〟の基準は相変わらず意味が分からない。怒る気も失せる。

 着替えさせられ、自らも服を着たカプリスに「食事の用意をしてくるので待っていてください」と言われて寛ぎの間まで移動された。

 ソファーの上に降ろされたのでそのまま上向きに転がっていると、双子とタナリサースが家の中に入ってくる。

「獣……なのか?」

 タナリサースに抱えられている獣が昨夜見た時よりも二周りは大きくなっているのが分かり、大きく瞬きしてジッと見つめた。

「キュケー!」

 名を呼ぶと嬉しそうに胸の上に飛び乗ってきたのを抱き止める。大きくなった分体重も増していて、尻尾も長くなっていた。

「どうやらこの子は魔王と連動しているみたいだな。カプリスに家に飛ばされたら何故かオレんとこにいて、その時にはもう大きくなっていたからずっと解析してた。マジで聖獣だったぞ」

「そういえば昨日俺の矢に電撃を加えて攻撃系統の技に変えていた。数千もの軍隊を気絶させるくらいの威力はあったぞ。にしても、ハイエルフの技は何故こんなにも雷を連想させる?」

 獣といい、些か不可解だった。

「やっぱりか!! 見たかった……。ああ、魔王は知らなかったのか。雷って〝神鳴り〟とも〝神成り〟とも記すんだよ。こう書く。オレらからすれば神の化身だ」

 タナリサースが魔力を使って空中に文字を書いていくのを視線で追う。

「人族は災害を含めた自然現象を神と崇める風習があるからだろうな。だからこそ、雷を扱うハイエルフは王族間で神聖なる象徴として伝承されては崇められてきた。けど、魔王も知っている通り、第五解放までは雷に触れられてもいなかった。第六からは絡んでくると睨んでいたんだけど、今までハイエルフの言葉を訳せる奴が居なかった。それだけに昨日の時間は貴重過ぎたわ! 予想通りだったぜ。獣の分も合わせて貴重なデータがとれたし、オレとしては大満足だ! ハイエルフの力に合わせて変化させたとなると、この子は本当にアンタの為に存在していると証明されたも同然だしな!」

 ——成程な……。というか、朝から元気な奴だ。

 ハイエルフが大好きな根っからの解析男が大らかに笑ってみせる。

「アフェクシオン出来ましたよ」
「お、待ってたぜ!」
「「いただきます」」
「貴方たちの為に作ったわけじゃありません」
「細かい事は気にするなって!」

 作ったにしては早過ぎたのもあって「またコイツ寝てないのか?」という意味合いを込めてカプリスを見上げた。

「仕込みをした後はちゃんと寝ましたよ。私は元々短時間の睡眠くらいの方が体の調子も良いので」

「ふーん……」

 意思疎通出来ているのが怖い。綺麗に切り分けられて料理を並べられる。

「カプリスお前もたまには一緒に食べろ」
「私はアフェクシオンに食べさせてからでいいです」
「うるさい、黙れ。冷めない内に食べろと俺が言っている」

 己の皿に乗せられていた肉をカプリスの口内に無理やり押し込む。派手な音を響かせて、カプリスが椅子ごと倒れたのを無言で見つめた。

「何でまた死んだ?」
「魔王にお口アーンされたのは初めてだったんじゃないのか?」

 ——自分は恥ずかしげもなくやる癖にやられるのはダメなのか……。

 放っておこう。それからは久しぶりに始めっから最後まで一人で食を取れた。

「おい、そろそろ起きろ」

 カプリスがいつまで経っても起き上がって来ないので、胸を叩いて強制的に生き返らせる。

「河の向こう側で知らないお爺さんとお婆さんとかたくさんの人が小手招いていました」

「へえ。逝っちまえば良かったんじゃないか?」

 背後からカプリスに抱きしめられているのを放置し、双子が出してくれたデザートを口に頬張りながら言った。

「反対側でアフェクシオンが手を振りながら笑顔で私の名を呼んでいたので、ゼロコンマでアフェクシオン以外は斬り捨てて引き返しました。もう一度あの笑顔で私を呼んでください」

 ——何で斬り捨てた!?

「それは全てがお前の妄想だ。いい加減目を覚まして現実を見て飯を食え」

 鳥肌が立った。そんな己など想像もしたくない。何よりも迷いもなく斬り捨てるこのサイコパス男が怖い。

 双子が作った美味しいデザートの味も台無しになってしまうくらいの精神的ダメージがあった。

 その前に離して欲しい。食べにくい事この上ないからだ。

 頬擦りされてまた肌が栗毛立ち、頬肉まで引き攣ってきた。

「てめえ……マジでいい加減にし……っ、んんう!」

 振り返って睨んだのが間違いだった。口付けられ、深々と口内を蹂躙される。いくら押し返そうとしても離して貰えずにもがく。

 尻目に三人に見つめられているのが映り込んできて、咄嗟に転移魔法を使って全員家から追い出した。

「二人っきりになりたかったんですか。大歓迎です」

 ——そうじゃない!

 意味深に笑みを浮かべられた後でまた唇が重なる。そこからは毎度の事ながらなし崩しだった。








 ソファーの上でカプリスの膝枕で転がされ、頭を撫でられている。魔力量の底上げどうのこうのの話は嘘だろと言いたくなるくらいには貪られてしまった。

 ——朝っぱらから酷い目を見た。

 あの黒いカプリスには精力のお裾分けはしなかったのか? 解せない。

「あー、やっと終わったのか。お前らちゃんと寝室行けよ。その為の防音魔法だろ。前ん時もそうだったけど、寝室以外だと声ダダ漏れだって知ってたか? 獣の情操教育上よろしくないだろ」

「…………」

「てか魔王、顔死んでるけど大丈夫か?」

「あ゛……?」

 一言だけ発して睨みつけると、タナリサースに腹を抱えて笑われる。

 ——大丈夫なわけないがないだろ。死んでるわ……俺の精神が。

 ここまでくると段々どうでも良くなってきた。
 一人だけ幸せそうな表情を浮かべ、飽きもせずに頭を撫でてくるカプリスの手を大人しく受け入れると目を瞑った。

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