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第八章、終焉の時とそれぞれが選ぶ道(了)
お前と一緒に居たい
しおりを挟む「俺がてめえら纏めて愛してやるって言ってんだよ! 一緒にいると言っただろ! 約束を違えるな!!」
激昂しつつもカプリスの背にトンっと額を預ける。
「…………俺はお前と一緒に居たい」
腰に両腕を巻きつけて、治癒をかけていく。
「私が……っ、貴方に何をしたか……話したでしょう?」
「聞いた。だったらどうした? 俺は贖罪など求めていない。それにお前はそこで諦めなかっただろが。俺も諦めたくない。勝手に終わらせようとするな。責任を取ると言ったのは嘘か?」
「アフェク……シオン?」
こんなに迷って混乱しかけているカプリスを見るのは初めてだった。
「カプリス、俺の側にいろ。頼むから……居なくなるな。元の状態に戻れ。俺の望みは叶えてくれるんじゃなかったのか? 俺はこれからもずっとお前と一緒に居たい」
「っ!」
小さく息を呑んだカプリスの体が大きく揺れ動いた途端に男の姿が消えてカプリスの中に吸い込まれていく。
同化が始まったらしい。カプリスの金髪の左側だけ黒髪に変色していった。
こんな状態に陥りながらも、国を覆うように空から落ちてこようとしている炎をカプリスが凍らせていく。それでも火の勢いが強く、氷を溶かし始めようとしていた。
「λνκηδαΰνάοδκι!!」
合わせて矢を放ちカプリスの氷を次々に増殖させる。世界が焼け野原になる前に氷点下で包み込み全てを防いだ。
火が完全に消えたのを確認して、構築効果のある復元の文言を口にするなり天と地それぞれに向けて矢を射る。
「νΰξοκνάίδκι」
地震と共に天も地も元通りの世界へと変わっていき、いつも目にする抜けるような青空へと変わった。
「アフェクシオン、ありがとうございます。私は……」
喋っている途中で、カプリスの体躯のいい体が弛緩して地に倒れていく。
「カプリス!」
慌てて浮遊魔法で体を起こして胸に耳を当てて、鼻下にも手をかざした。呼吸もある。心音も停止していない。
——ちゃんと生きている。良かった。
肝が冷えた。そのまま眠りこけたカプリスを浮かせて、復元の能力によって元通りになった家へと入る。寝室へと運んでベッドの上に寝かせた。
「魔王、カプリスは相変わらずか?」
「ああ。まだ目を覚まさない」
カプリスが眠り込んだまま目を覚まさなくなって、一週間が経過しようとしていた。
表面上の体の傷も全て消えているので、本当にただ寝ているだけのようにしか見えない。なのにどれだけ経っても意識が戻らない。
己はもう睡眠も食事も摂取せずとも平気な体になっているのもあって、定期的に治癒効果のある弓を打ち込んでやりながら、ずっとカプリスの面倒を見ている。
——まさかお前の世話をする日が来るとはな……。
自嘲めいた笑いが込み上げてきた。
「また様子を見てくる」
双子とタナリサースに後ろ手に手を振って寝室へと向かう。カプリスが寝込んでからは獣がカプリスの側を離れたがらないので、ベッドの上で獣に魔力補給させた。
獣もカプリスと同じようにまた寝てしまった。更に大きさを増した体を撫でる。
「居なくなるなとは確かに言ったが、寝たままでいろと言った覚えはないぞ」
カプリスの髪の毛が徐々に金糸へと戻りつつある。柔らかな毛質をしている髪に指を絡めて後ろに流してやった。
「щάδήȵδιδ γκπεκπςɀ……
ξάθδιδ……θΰβπθδςκ
άιάοάιδςά δικνδικποάςκ
γδβγ ΰηα έηΰξξδιβ……
ξάξάβΰθάξγκπ」
小さな声で子守り唄を紡ぐ。
『アフェクシオン、歌をうたってあげる』
遠い遠い記憶の中で母がそう言った。子守り唄だとばかり思っていたがカプリスの話を聞いて違うのかもしれないと疑問を抱くようになった。
カプリスが二つに分かれて死に戻りした理由がこの歌ならば、己も同じ事が出来る可能性がある。
もっと詳細な情報が知りたくて、歌の前後に会話していた内容も合わせて朧げな記憶を辿っていく。
『ハイエルフに伝わるまじないの言葉よ』
歌をうたう時は、額や胸に手を翳されていた気がする。そこから徐々に温かくなっていったから、体に残る感覚が手のひらの温もりや優しさを覚えていた。
10
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