装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

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第1章:「鋼鉄の要塞、異世界へ」

1-3:「鋼鉄の怪物 その身より吐くは衝撃」

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 時間はわずかだが遡り、女オーガ率いる一団が矢撃や魔法や投石の数多を。正体不明の怪物――装甲列車編制に向けて放った直後。

「――ッ」

 会生は。襲い来たそれに、自身の真上を飛び越えて装甲列車編制を襲ったそれに。少しその印象の良くない顔を険しくした。
 飛び抜けて行った攻撃のそれらは装甲列車車列の、歓迎し難いことに左側面各所に注がれ落ちる。
 しかし――心配懸念にあっては無用であった。
 矢がその側面を叩く音が響き。火球や風の魔法がその装甲を焼き削る音こそ響くが、それが収まった先にあったのは、悠々たる姿で鎮座健在の装甲列車車列の姿であった。

「――コマンド、〝ヴァルブ〟チーフだ。被害の有無を知りたい」

 その様子を確認しつつ、しかし一応の被害確認を取るために。会生は身に着けていたヘッドセットを用い通信上に呼びかける。呼び出すは装甲列車の指揮所、そして合わせて告げたのは、会生自身に割り当てられた無線識別だ。

《――会生か。確認中だ、少し待て》

 その呼びかけに帰って来たのは、透る凛とした、しかし切れのあるまでに端的な女の声。指揮で通信情報統制を預かる隊員のものだ。

《――上がって来た。各所各隊、敵方より投射を受けるも損害軽微。死傷者は無しだ》

 そしてさほどかからず。その女隊員の声で、装甲列車側の各所各隊に被害無しの確認が取れた旨が返されてくる。

「了、観測報告は必要か」

 それに答え、会生はさらに続く問いかけで返す。
 装甲列車は数多多数の直接、及び間接曲射火力装備を有する。そして新手の敵性の大規模な軍勢の出現から、それらので出番が今訪れた事は予想に易い。
 会生の問いかけは、それに伴う観測。座標報告の役割が必要かを尋ねるもの。会生はその任務役割の一つにそれを持つ隊員であったのだ。

《すでに直接の視認域だ、観測座標報告は不要とのこと。余裕が在れば、そちらからも照明弾の投射は有用だろう。なお、戦闘群も展開をそのまま継続するとのこと、行動は中止変更無しで続行方向》

 その問いかけにまた女隊員の切れのある声で、観測座標報告にあっては不要との事。加えて他隊各所の行動にもまた変更無しの旨や、補足の言葉が少し捲し立てるそれで寄こされる。

「了解、こちらも続ける」
《油断はするな》

 必要な事項を聞き受け。会生は最後に了解の旨と、自身も戦闘行動を引き続き続ける旨を端的に返す。
 それに、女隊員からはまた端的な忠告の言葉が返され、通信は終了。
 そして会生がまた視線を流し、装甲列車車列を一度見れば。まさにそのタイミングで。

 編成の先頭部の70式直接火力車が、その主砲たる90㎜高射砲M1を収める砲塔を旋回させ。
 その砲口を敵軍勢に向け、そして――甲高い咆哮と衝撃上げた――



 70式直接火力車は、その前方側に90㎜高射砲M1を汎用砲とする砲塔を備える。
 過去の諸外国に存在した装甲列車の砲車砲塔を比べ、その装甲傾斜処理は比較的シンプルなもの。
 その砲塔主砲が今まさに上げた一撃。打ち出された90㎜砲弾は空を切る音を立ててその先へ飛び込み、そしてそこに居たトリケラトプス似の騎乗獣に吸い込まれるように直撃。
 爆煙炸裂を、暗闇の中でしかし明確に上げた。

「――直撃ッ」

 砲塔上の砲長――指揮官用コマンドキューポラで。上半身を出して、身を晒す危険を承知で肉眼での観測を行っていた砲長の陸曹が。その一射目の直撃を見止め、声を張り上げた。
 その砲長の足元、砲塔内では急かしい動きが見える。
 装填手の陸士が急く荒い動きで、90㎜高射砲の尾栓を解放して空薬莢を排出。流れる動作で砲弾ラックより新たな90㎜砲弾を取り抱え、それを砲室へと差し叩き込む勢いで装填。尾栓を封じて再装填作業を完了させる。

「装填ッ!」

 その旨を張り上げる装填手。
 その装填作業の間にも同時に砲塔は、砲手の陸曹の操りによって微細な旋回行動を行い、そして砲の再照準は次には完了される。

「照準――ヨシ」

 覗く照準スコープに次なる獲物、大型陸竜獣を捕まえ。砲手は静かに砲長の向けて伝える声を上げる。

「撃ェァッ!」

 直後、張り上げられた砲長の声が響き、瞬間には砲手はそれに反応呼応。焦れ揺らしていた足先で、足元の砲塔バスケット床に備わるトリガーペダルを、思い切り踏み込んだ。
 ――上がる咆哮。伝わる鈍い衝撃。
 撃ち放たれた二撃目、その90㎜砲弾はまた吸い込まれるように飛び――大型陸竜獣に直撃炸裂。
 雄々しいその巨体を、また千切り血肉の飛沫へと変えせしめた。

「撃破、二体目撃破ッ――次、右方2時ッ」

 その撃破確認の言葉を張り上げ、しかし砲長は間髪入れずに次なる目標の位置を示し命じる。
 また砲塔内では急く荒々しい再装填作業が進み。砲の照準はさらなる獲物を捉えるために、モーター音を唸らせ回る――



 新手の敵の軍勢をしかし襲い、巻き上がる砲火炸裂は、90㎜高射砲M1からのもの一種に留まらない。
 各隊各所より撃ち上げられた数発の照明弾が、あるべき夜闇を冒涜的なまでに照らす元で。多数の火砲が砲火を上げている。

 70式直接火力車の後続に隣接連結する、71式間接火力車。その車輛からもまた咆哮が上がっている。
 71式間接火力車の前方側には、被弾傾斜をあまり優先していない箱形の大きな砲塔が備わる。そしてその砲塔の収まるは、105㎜りゅう弾砲 M2A1。今に在っては左方へ旋回してその砲の仰角を高く取る砲塔からは、次にはまた砲弾を撃ち放つ音が轟く。
 合わせて。間接火力車の後方側には天板を解放した砲室が設けられ、その内には重迫撃砲たる107mm迫撃砲M2が据えられている。ターンテーブルにより旋回照準態勢に在る迫撃砲は、次にはトン――と言う独特の射撃音を響かせる
 そして、それぞれの火砲が狙いを定めた先。混乱に陥り隊形を乱す敵軍勢の中で――大きな爆発炸裂が立て続けに上がった。
 もちろんそれは今まさに砲撃投射を行った各砲が成したもの。叩き込まれ上がった砲撃炸裂は、多種多数の敵兵を差別無くまとめて巻き込み巻き上げ、千切り消し飛ばして見せた。

 さらには。直接火力車に搭載される40㎜高射機関砲M1、DD14の隣後続に連結される指揮通信車輛に備わる12.7mm機関銃M2などの搭載火器。
 各火力車に備わる銃座やガンポート。機関車に客車の窓々から突き出された、あるいは降車して列車編制周りに配置した、乗車隊員各員の個人装備火器。
 後方に連結される貨車の積載される、戦車や装甲車の搭載火器。
 等々――装甲列車編制の備えるあらゆる火器が、敵の軍勢横隊へと向けられ唸りを上げ。壮観なまでに並んでいた敵軍勢は、しかし各所で巻き上げられ四散し、あるいは撃ち薙がれて端から端まで弾かれ倒れ、まるで射的の的の如く有様までに陥れられていた。

 極めつけに。装甲列車編成の最前部と最後部にそれぞれ連結されていた、専用の積載車より。即応展開を担う16式機動戦闘車と87式偵察警戒車が降ろされ、そのエンジンを唸らせて行動を開始。
 両車は装甲列車編制の左側方へそれぞれ進み出ると。先んじて装甲列車より降車し展開戦闘を始めていた普通科の各小隊各分隊へ、その車体装甲をもって遮蔽箇所を提供を、そして搭載火砲装備をもっての火力支援を開始。
 戦闘車輛による支援の到着を。それによる敵軍勢の一層の混乱瓦解を機と見て。展開した普通科隊各隊は、押し上げ切り込むための前進――突撃を開始。
 16式機動戦闘車はそれに徐行速度で随伴し、その中で砲塔を旋回させてその砲口で敵を見る。そして砲塔上で半身を見せる車長が号令を張り上げた瞬間。
 その備える52口径105mmライフル砲が、唸りを上げた――



「っぅ!?――……何が……何だってんだいヤツらはッ!?」

 己のすぐ側。そこで正体も仕組みもまるで不明の爆炎が上がり、配下の兵達が巻き上げられ焼かれ散る光景を、その剥いた眼の端に見ながら。
 女オーガの将軍は、絶叫に近い声を上げた。
 つい先ほどまで疑う事など微塵も無かった、己が指揮する軍勢部隊による得体も知れぬ敵の蹂躙の結果。
 しかしだ。今その描いた光景は現実になく、真逆――己達が蹂躙される有様が広がっているではないか。
 異質な風を切る音が絶え間なく響き、その度に上がる爆炎爆煙が兵を巻き上げ。
 いくつもの甲高い響く音に合わせて、雨霰のように無数に飛び来る鏃のようなものが、兵達を片端から貫き屠っていく光景。
 そして目の前の一帯には、正体不明の異形の怪物等が動き迫る姿。
 女オーガにそんな声を上げさせるには、十分過ぎた。

「うわぁっ!うわぁっ!?まただ、また炎に包まれたぞ!?」
「怪物だ!怪物だァっ!」
「誰か……助けて……っ!」

 周囲一帯では、最早組織立っての戦いなど望めもしない混乱狼狽の有様を見せ。配下の人間や魔物の兵達の泣き叫ぶ声や悲痛の声、傷つき助けを求める声が飛び交っている。

「こ、殺される……に、逃げろぉっ!」

 そしてついにそんな声を上げ、武器を捨てて背を向ける兵が現れた。その一言が皮切となり、その恐怖は、逃走の意思は兵達へ面白いまでの早さで伝播。
 二人、三人、果てには集団となり。兵達は次々に武器を捨てて背を向けて、その恐怖と暴力の注ぐ地獄の一帯より、逃走を開始したのだ。

「ッ!?逃げるなッ!逃げるんじゃないよッ、臆病者どもォ!!」

 それを見止め気付き。女オーガは慌て命ずる怒鳴り声を上げ、逃走を始めた配下達を引き留めようとする。しかし恐怖と伝播した逃走の意思に捕らわれる兵達に対して、それはまるで無意味であり。兵達は女オーガの怒鳴り声など聞こえてすらいない様子で、我先にと逃げ去っていく。

「ッ……ふっざけんじゃないよォッ!!」

 その様子に怒り、しかし女オーガは配下達に見切りを付けた色で張り上げる。そして前方を睨み、その大きな体に背負っていた、巨大な両刃の剣を抜き、大きく荒々しく振って構えた。
 卑しくも強者の筆頭足るオーガ種族。そして将軍の立場を頂く身。配下のような臆し逃走する無様を晒す事など、何よりも己が許さずあってはならない。
 一矢報い、憎き相手を一人でも道連れにする。
 そう意思を固め、覚悟を決めての声と姿。
 そしてその憎き敵の渦中に踏み込むべく、跨る大型陸竜獣の腹を蹴り、愛竜獣と共に彼女は飛び出した。
 そして真っ先に目に留め、最初の相手として選んだのは。鼻かそれとも嘴が、そんなようあ長大な物を身に生やす異質な巨獣。
 それを睨みつけ、大剣を突き出し。その口から雄叫びを上げ、彼女は相まみえるべく突っ込む――

「――ぁ」

 しかし――次に彼女が見たのは、その巨獣の嘴の先が何か一瞬光瞬く光景。そして、パゥッ――というような劈く音。
 ――それが、女オーガの見聞きした最後と光景と、音になった。


 直後に彼女の身は、到来した衝撃と炸裂――16式機動戦闘車より撃ち込まれた105㎜砲撃の直撃を受け。
 彼女のその身を引き裂き千切り、血肉の霧へと化し。
 彼女の意識は、魂は。永遠の無へと帰した――
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