装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

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第1章:「鋼鉄の要塞、異世界へ」

1-5:「予期せぬ開通」

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 事の起こりは、地球の――日本の観測時間で数ヵ月程遡る。


 日本の国土の中でもその中枢を担う土地、関東。その一行政区域たる千葉県の習志野市。
 その地を拠点、起点として存在する、ある特殊な鉄道線が存在する。
 それは、日本国の防衛組織の一端である陸上自衛隊が。より詳細にはその内に組織される、鉄道の建設運用を担う職種組織――〝建設科〟。その部隊に管理運用される鉄道路線だ。

 1960年初頭に、陸上自衛隊には鉄道運用を担う部隊として〝第101建設隊〟が設立。
 それに時を同じくして。日本軍時代に陸軍鉄道連隊が使用していた演習線の一部を、再利用して運用開始された事を始まりとする。

 時代が下るに合わせて、その鉄道路線は延長から各地域を網羅する範囲の拡大を見せ。
 現在にあっては、〝陸上自衛隊 防衛鉄道線〟と名を新たにして。日本の防衛の一角を担っていた。


 その防衛鉄道線にて。
 自衛隊にとって。いや日本、世界にとっての衝撃的な出来事は起こった。


 ――その日の明朝、まだ人々や街々が完全には目覚め切っていない早い時間。
 その最中で、防衛鉄道線の通る敷地内で、唐突な衝撃と振動。一種の爆発にも似た何かの現象が巻き起こった。
 付近で早朝からの業務に従事していた防衛鉄道線の管理担当の自衛隊員等。そして近隣地域の住民は軒並み飛び上がり飛び起き。
 そして地震災害、あるいは何らかの大きな事故の類をまず脳裏に過らせた。
 しかし、それらの事象の観測報告は無く。それに伴う被害者も幸い通報は無く。その街地域に変化は無かった。――〝その一つ〟を覗いては。

 最初にそれを見つけたのは、念のための臨時の保線パトロールに出動した、鉄道管理の陸上自衛官等。
 彼等が最初に見つけたのは、防衛鉄道線の一点よりポイント分岐で伸びる分岐路線。
 それに気づくことは容易であった。なぜならその分岐路線は――昨日の今日まで存在していなかった、存在するはずの無い路線であったから。
 そして訝しみながらその謎の路線を辿った自衛隊員等は、その先にさらに驚くべきものを見つける。
 それはその地域にある連峰の端。その麓から突き出し、そして山を貫く――トンネル。
 また、それはその場に存在しないはずの構造物。そして今先の謎の鉄道路線は、そのトンネルへと延びていた。

 トンネルは鉄道軌道が数条分余裕で通せる、小さな鉄道車両基地が収まる程の大きさと幅を持っていた。そして不可解な事に連峰に突き込むそのトンネルは、しかし連峰を挟んだ反対側にその出口は出現していなかった。
 その正体不明の路線とトンネルの発見から数刻。自衛隊の最寄り部隊や警察消防、役所行政機関から来れる者が集まり。トンネルの調査が開始される。
 反対に突き出ていない事から、地下に通じているか行き止まりの可能性は高いと推察されたが。どちらにせよ、危険物、危険物質の存在などがあれば事。
 その万が一を考慮に入れての、慎重を期しての対応行動であったが。誰も心の隅では、それが大げさ過ぎな気もする一念を浮かべ。そして杞憂の物に終わる事を微かに予測していた。

 ――しかし、それは衝撃の現実で塗り替えられる事となる。

 自衛隊と警察、専門家を組み込み組織された調査隊は。トンネルを進んだ先に、反対側に抜けると思われる開口部を発見。
 訝しまれたのは、その発見がトンネルに入ってわずかな時間。わずかな数百mの距離を進んだに過ぎない時点での発見で会った事。そして開口部から地下に潜ったような傾斜も、そこまでには無かった。
 しかし発見した出口と思しき開口部からは、太陽光のものと思しき光が煌々と差し込んで居た。
 一層訝しみ。そしてある種の不安、危機感を抱きながらも意を決し。調査隊のその内の一名であった幹部自衛官は、開口部を潜りその先へと繰り出て踏み出した。
 そしてその幹部自衛官の彼が見たもの、その眼に移ったもの。

 ――それは、雄大な美麗さを持ちながらも、どこか異なる感覚を覚えさせる大地と空の広がる世界。
 向こうに見える、城壁に囲われた古めかしくも趣ある町。
 地球のものでは無い植物小動物たち。
 そして――人を乗せ大空を飛び行く、〝空飛ぶ箒〟。

 ――それが地球、日本と。不思議な異世界の邂逅の瞬間であった――



 その世界を揺るがす衝撃的な邂逅に時を同じくして。
 その日、世間世の中の一部の人々は、ある共通の体験をしていた。
 その人々とは、政府要人から自衛隊警察など各機関の上層の者。かと思えば一部はあらゆる組織の末端の者、そして一個人まで様々。

 不思議な空間に導かれた。
 夢枕にその〝人物〟が立った。
 等々表現は個々によって違ったが、その体験の実態は一貫して同一のもの。

 その人々は異質な空間にて――作業服と白衣を纏った、異質な人物と相対。
 そしてその者より、こう告げられた――

「――異世界が強大で凶悪な存在達の手により、滅亡の危機にある。そしてその魔の手が次に伸びるはこの世界地球、そして日本だ。先手を打ちそれを防げ、異世界に赴き――戦え――」

 ――と。
 荒唐無稽な、文字通り夢の話に過ぎないと、誰もが思ったそれ。
 しかしそれは、同時に出現発生した異世界へのトンネルの出現。異世界との接続の事実を持って、まごう事無き現実となったのだ。



 それから世界は、特に日本は。衝撃と一種の混乱に渦巻かれながらも、手探りで行動を開始した。せざるを得なかった。

 トンネルを利用し通じ。
 自衛隊、警察、専門家は元より、あらゆる分野組織の人間が送り込まれ異世界の地を踏み。可能な限りの徹底的な調査が開始されたのだが――

 未知との世界との遭遇。
 その、ある種のSFやファンタジーの物語に夢見たそれ。それに一部の者は心躍らせていた状況の中で。しかし一点、異彩を放つある一つの要素があった。

 ――それが、鉄道。

 異世界とを繋いだトンネルへは鉄道が伸び入り、そしてそれは異世界側にも続き。そしてその異世界側の起点より、その異世界の各方へ放射状に延びていたのだ。

 そして先の、異質な空間にてメッセージを伝えた作業服と白衣の人物は。合わせてこんな言葉を告げていた。


「――導は用意しました、それを辿って――」


 その言葉の意味する所は、異世界に延びる鉄道の存在を見れば想像は容易。
 ――鉄路を行けと言うのだ。

 しかしそれに在っては、各方各所は大変に訝しみ、異論懸念の声を上げた。
 鉄道は確かに速やかな移動で大量の移送を可能とする、効率的で理想的な移動行動手段である。しかしそれは、鉄道路線が網羅する地の治安安全が確保されている事が前提条件だ。

 その先の作業服の人物からの通告から予想は容易であったが。この異世界の地の情勢は戦乱の中にあるようで、はっきり言って大変に危険を伴う事が、始められた調査の先に明確となった。
 鉄道移送は治安の悪い中で、いや敵勢勢力下では、極めて脆弱な一面を持つ。鉄路の一ヶ所でも破壊工作をされれば終わりだ。
 その事から。初動の調査派遣は自衛隊により地を行き、あるいは航空機を用いることで進められる計画が進んでいたが。

 その案件は、思いもせずあっさりと一つ解決した。
 きっかけはある一名の鉄道技師が、異世界の地に延ばされた軌道の異質さに気付いた事を発端とする。

 結論から言おう。この異世界の延ばされた軌道――異様なまでに頑丈であった。

 調査すれば軌道のレールは未発見物質、未知の鋼材により作られた異様な物。枕木に使用される木も地球上に生息するいずれとも合致せず、そしてどちらも破格の頑丈さを誇った。
 硬度試験として果てには高出力レーザーカッターが入れられ、爆破試験まで行われたが、この異質な軌道は破損どころか傷一つ突く事が無かったのだ。
 おそらく、その作業服と白衣の人物によって要された特殊な物。そしてご丁寧にその軌道幅規格も抜かりなく統一されていた。

 防衛鉄道線より直接接続してる関係上、鉄道車輛の搬入も容易い。
 これにより鉄道の脆弱性、問題点は面白いほどに一気に解決され、鉄道による異世界探索調査のプランは、一気に現実的な物へと引き上げられた。
 異世界の地は道路網が整備されておらず、そこへの利用できる整備された交通網の存在は、貴重どころの騒ぎでは無い。
この便利な手段を利用しない手は無い。

 その人物の思い描く通りに事が進んでいるようで。少なくない人々が不服や引っ掛かるものを覚えないでは無かったが。ともかく。

 先の別プランの、線路に頼らず地上を車輛で行き調査。及び航空機を運び込んでの調査方針も並行して進められるが。
 こうして日本は、異世界の地を鉄道で行く事となる。
 そして、その役割を担う事となったのが。


 陸上自衛隊、建設科職種の建設隊であった――
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