装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

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第1章:「鋼鉄の要塞、異世界へ」

1-8:「対話とその正体」

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「――大変に手狭で申し訳ありません。ご希望でしたらボックス席――対面の座席空間のある車両へ移動もできますが?」

 招き入れたミューヘルマとクユリフに、芭文はしかしまず非常に窮屈な指揮所空間内の事を鑑み、後続の寝台車に一部設けられるボックス席への移動を申し出る。

「ありがとうございます、ですが大丈夫です。この、えぇと鋼鉄の要塞?……の指揮官様の座乗の場がこちらと来ております。差し出がましいようですが、こちらがご都合利便がよろしいでしょう……?」
「ご配慮ありがとうございます、窮屈でしたらいつでもおっしゃってください」

 提案に対してだがミューヘルマは、そんな言葉をまた畏まりしかし遠慮がちに紡ぎ、この場で問題ない旨を返す。芭文はそれにしつこく食い下がる事はせず、促す言葉だけを述べた。
 そして指揮所空間内で作戦卓を傍に、芭文はミューヘルマとクユリフと対面相対。
 会生、寺院、祀にあっては芭文の背後にそれぞれ適当に位置取った。

「では、改めまして――私達は陸上自衛隊、日本国の防衛組織です。私はその内の、この第7建設群、第701編制隊の指揮を預かる芭文三等陸佐と申します」

 双方が対面した所で芭文は居ずまいを正し。まず最初にミューヘルマ達へ向けて改めて自身等の組織名と、それが帰する国の名を紡ぎ。合わせて自身の身分の名乗り伝える。

「ニホン――リクジョウジエイタイ……」

 それを改めて聞いたミューヘルマは、神妙なそしてまた微かな不安げな面持ちで、その言葉を繰り返す。

「……失礼を承知で事実を言えば、俺達はそのような国も組織もこれまで聞いたことが無い」

 そのミューヘルマの心情を代弁するように、次にクユリフがそんな言葉を芭文に向けて紡ぐ。

「――だが、俺達は同時に逃走の最中でこんな噂を聞いている。〝異界とを繋ぐ道が出現し、そして異界の者等がそこから現れた〟――なんで噂をね」

 しかし続け、クユリフはそう言葉を続けた。
 そしてそれを、最初は与太話も過ぎる話だと思い。身を潜めての逃走の中であったことから気にも掛けなかった事を付け加える。

「成程、お二方のそれも当然の事です――そしてしかし、それ等は全て事実でしょう」

 クユリフの言葉に芭文は、一言前置いてそれからそれらを肯定する言葉を紡いだ。
 そして合わせて。
 少し前に、この世界と芭文等の世界が異質なトンネルによって繋がった事実を。
 そして自分等の帰する国はその異なる世界に在り、自分等はその国の防衛組織である事が説明された。

「……今なお、にわかには信じ難いけど……」

 それを聞いたクユリフはそんな言葉を零しつつ。しかし芭文等各々の姿を見て、それからここまで見て来たものを思い返したのだろう、「信じるしかないようだ」と言うような表情を作って見せた。

「あ、あの……!ハフミ様方は、皆さまは、どうして私達を救ってくださったのですか……?異界の、貴方方の国の民でもない、なんの縁も繋がりも無い私達を……?」

 そこへ入れ替わりに発し上げたのはミューヘルマだ。

「――?」

 それは芭文等皆に向けられた言葉ながら、その視線は背後の会生に向けられている。ミューヘルマを直接危機より救った会生に、特に問いかけるものであるようだ。

「確かに……あなた方は非常に強力な力を持つようで、実際帝国の連中を退けて見せたが……それでも帝国の連中も軍団の域のもので、そこらのチンピラとはわけが違ったんだ。少なくない危険を冒してまで、どうしてそこへ介入しようと思ったんだい……?」

 そこへクユリフも先の戦いを振り返りつつ、続け尋ねる言葉を発する。

「――」

 引き続きミューヘルマより見つめられる会生は、しかしそれに自身で回答を紡ぐことは無く、前に立つ芭文にその視線を投げる。それは上官で指揮官たる芭文に回答を委ねる、というよりも投げるそれ。
 それを受けた芭文は「はいはい」とでも言うような様子でそれを受け、また言葉を続けた。

「――それにあっては、それが我々の矜持だから――などとは格好をつけ過ぎか。確かに言えるのは、それが我々の任務の一環だからです」
「任務……?」

 それに返された芭文の回答。それにミューヘルマはそれを反復して、微かに驚いたような言葉を零す。

「はい。この世界が動乱と混乱の中に在り、時に非道がまかり通る情勢である事は我々も掌握しています。我々は現在ある作戦行動中なのですが、その最中に罪なき人々――民間人が襲われている現場、略奪等の犯罪に値する行為の現場に遭遇した際は、それに介入し阻止排除するよう命令を受けております」
「……矜持と任務……」

 それを聞いたミューヘルマは、そこで少し俯き顔を何か真剣な色に変える。それは何か、重要な選択を前にしているかのような様子。

「……作戦と言ったね?あなた方は、どこを目指していて何が目的なんだい?」

 そのミューヘルマを横に見つつ、クユリフはさらにそんな尋ねる言葉を紡ぐ。そこ顔には少し駆け引きでもするような色が浮かんでいる。少し突き込んだ質問であることは理解しつつも、探るために発せられた言葉であるのだろう。

「安全上、作戦の根幹に関わる事は無暗にお話できませんが――目的地であれば、我々は軌道を辿り、〝ミュロンクフォング王国〟という国を目指しています」

 それに対しては芭文は回答に少し難しく、そして選ぶ色を顔に見せ。後に前置きと、それから自分等の目的地だけを回答して見せた。
 第701編制隊はある任務を帯びてその目的地たる国を目指す行程の最中であった。
 安全保安上その内容は今は伏せたが、目的地にあっては芭文明かす選択をした。
 これが自動車車輛や航空機などを用いた行程であれば、経路や到着地も重要な秘匿事項と成りえるが。列車を用いる第701編制隊においては、線路軌道を見て辿られればそれはすぐに分かってしまう事であり、秘匿も意味を大きくは成さないと判断しての開示であった。

「!」

 しかし、それを聞き受けたミューヘルマが、何か微かに目を剥いたのはその時であった。同時にクユリフも微かに顔色を変える。

「――我々からも、いくつかお尋ねさせていただいてもよろしいですか?」

 それに気づきつつ、芭文は今度は自分から質問の言葉を紡ぐ。

「まず、お二人のご身分などを教えていただけると助かります、それと目指されていた目的地も。どちらも決して強要するものではありません、差し支えなければで結構です」
「あ、あぁ。俺達は……」

 芭文の、それが強制では無い事を添えての尋ねる言葉。それにはクユリフが返答を紡ごうとした。

「――私は、ミューヘルマ・クォン・エルムエイン・ミュロンクフォングっ。ミュロンクフォング王国の第三王女です!」

 しかしそれを遮る様に、ミューヘルマが声を、名乗りのそれを張り上げたのはその時であった。

「っ!?ミューヘルマ!?」

 それにまず驚いたのはクユリフ。
 想定外といったその様子から、彼にあってはおそらく偽装の身分を名乗るつもりだったのであろう。

「ハフミ様、皆様!厚かましい発言とは承知の上で、お願い申し上げます!我が国は今、帝国の魔の手に堕ちつつありますっ。それを防ぎ止めるべく、どうか、どうか皆様のお力添えを頂きたいのですっ!」

 しかし構わないと言った様子で、ミューヘルマは言葉を発し紡ぎ切り、そして芭文等を見つめる。そこには、決意と覚悟の色が見て取れた。
 その側ではクユリフが、「あぁバラしてしまった……」とでも言うように額に片手を当てている。

「……ミューヘルマさん。落ち着いて、一つ一つ確認させてください」

 ミューヘルマのそれに少し面食らった芭文だったが、次には芭文もまた真剣な色をそこに見せ、そして促す言葉をまず発する。

「まず、あなたはミュロンクフォング王国の王女、王族のご身分の方なんですね?」
「はい……」

 そして続けての芭文のまず尋ねる言葉。それにミューヘルマは静かに頷いて紡ぎ、肯定を示す。

「ガリバンデュルという国の存在は、我々のほうでも確認しています。あなたの国は、現在その国から侵略行為を受けているとの解釈で相違ありませんね?」
「はい……」

 さらにの質問にも、ミューヘルマはまた肯定。

「詳しく、お伺いしたいです――」

 二点の確認が取れた後、芭文はミューヘルマに向けてそう要請の言葉を紡いだ。



 ミューヘルマの口からは紡がれ説明されたのは、この異世界。この現在自衛隊が活動中の大陸を取り巻く情勢だ。
 ガリバンデュル大帝国という国は、この大陸の北東の広大な土地を領地として持つ大国であるという。そして、元々より領土的、他各要素における野心の非常に強い軍事大国であったそうだが。
 そのガリバンデュル大帝国が大陸の各地へ突如として侵攻を開始。その事の起こりが数ヵ月前だと言う。
 元より不穏な野心を匂わせる大国であったため、近隣周辺国の警戒が無かった訳では無い。しかしその侵攻開始はそれを持っても兆候掴めぬ唐突過ぎるものであったらしく。侵攻を真っ先に受けた周辺各国は大混乱に陥り、碌な抵抗もできぬまま次々に陥落して行ったと言う。
 近隣諸国をまず占領支配下に置いた大帝国は、さらに広域へ破竹の勢いで侵攻。その先にある国々を飲み込むように占領していった。
 そしてその魔の手の伸びた国の一つが、大陸の中南部よりやや東寄りに領地を構える、クォース・ダークエルフの種族が治め営む小さな国。ミューヘルマの国であるミュロンクフォング王国であったという。

「――……王都が攻められ陥落間近という所で、私は母様の手配によりクユリフ達に連れられ脱出させられました」
「王都を一度逃れてしばらくは、身を潜めながらの逃走で距離を稼げたんだけど……連中を予想以上の手配の速さで、すぐに追いつかれてしまったんだ」

 ミューヘルマとクユリフにより大筋が説明され、それを締めくくる様に、自衛隊との邂逅時に繋がる顛末が語られる。

「ハフミ様、皆様!皆様は比類なき力を持つお方のご様子……!この旅路の目的の地が我が王国であるのならば、どうか王国を救うためにお力添えを頂けないでしょう!」

 そしてミューヘルマは語るにあたり暗く落としていた顔を再び起こし、そして懇願の言葉を発して訴えた。

「先も申しました通り、厚かましいお願いである事は承知しております!謝礼は……王国の後ろ盾無き今、正式なものは献上できませんが、路銀に持たされた貨幣宝石などがいくらかあります……!後は……ご、ご満足いただけるかはわかりませんが、私の体も献上して……っ」

 そこから切迫した様子で一気に捲し立てるミューヘルマ。そして最後に救いを求める対価に言及し、その整った青肌の顔を目に見えて赤らめ歪め、そんな言葉まで紡ぐ彼女。

「ちょっ……!」

 それに戸惑い微かに慌てる色を見せたのは女幹部の祀。

「落ち着くんだ。一人で話を急ぎ過ぎだ」

 そこへ発せられ飛んだのは、他でもない会生の言葉。淡々としながらも制する色を込めての、ミューヘルマを落ち着かせ抑えるそれ。
 少し威圧的にも感じられる、普段であれば咎める者が出そうなそれ。しかし流石に今のミューヘルマのそれを抑えるには適当だろうと。咎める者は今は出なかった。

「ぁっ……も、申し訳ありません……」

 それを受けてハッとした顔を作り、己の狼狽からのそれに気づいたのか、次には先とは別の意味で顔を赤らめ謝罪の言葉を紡ぐ彼女。
 その隣では、彼女のこのような暴走は初めてではないのか。クユリフが困った顔でまた肩を竦めていた。

「ミューヘルマさん、誤解なさらぬよう。我々は卑しくも国家の名を掲げ、代表としてこの地に活動のために赴いています。救護保護した人から対価を求め、まして欲にかまけ人の体を要求することなどありえません」

 一度場が落ち着いた事を見止め、芭文は再び言葉を紡ぎ、毅然とした態度でその旨をミューヘルマに告げる。

「っ!……ご無礼を申しました……」

 それに、己が申し出こそ相手に対する無礼であった事を察し。ミューヘルマはその顔をまた暗くして落とす。

「そして――そのような様相に至るまでに、追い詰められたあなたを放ってはおけません。何の因果か我々の辿る導はあなたの国へ通じている」

「え……?」

 しかし続け芭文の発した言葉に、ミューヘルマはその顔をまた起こす。

「先も申しましたが、人々の救護保護は我々の任務の一環です。我々でよければ、お力をお貸ししましょう」

 そのミューヘルマに、芭文は彼女の要請を受け入れる言葉を紡いで見せた。

「……!ほ、本当に!?……あっ……ご、ごめんなさい……本当なのですか……!?」

 それに少なからずの驚きがあったのだろう。一度畏まった姿勢を忘れて素の反応をしてしまったミューヘルマは、慌てて改まってそれが真かを尋ねる言葉を紡ぐ。

「はい――しかし、国を救うとなると大きな作戦となります。如何せん我々は組織ですので、司令部に一報し調整の必要があります。少しお時間を頂きたいです」

 それに芭文は補足のそんな言葉を。ミューヘルマを安心させるための笑みをその質実剛健な顔に浮かべながら、紡いで見せた。
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