装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

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第3章:「奪還の咆哮」

3-4:「異には異を、怪物には怪物を」

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 王宮の上層階各所よりヘリボーンにて乗り込んだ各チームは、城内へと踏み込み。そして傲岸不遜なまでの勢いで内部を押し進み、クリアリングしていった。
 時折、銃撃の音声が激しく響き届いては、鳴りを潜めるというスパンを繰り返す。それはその度、接触した帝国軍親衛隊が屠られた証であった。

「ッ」

 そんな音を聞きながら、守屋は城内の廊下を駆け抜けている。
 すでに先発チームが押し通った後であり、そこかしこに帝国軍親衛隊の亡骸が転がっている。

「――デカブツだぞッ!」
「脅威接敵ッ!」

 廊下通路の向こうより、張り上げる声が届いたのはその時。それが先行のチームからのものである事はすぐに判別が付いた。

「要火力!重火器を寄越すんだッ!」
「ヒップホッパー!出番だッ!」

 さらに立て続け声が聞こえ。
 そして守屋の少し先を言っていた特戦の二尉が、守屋に振り返りそう促す。

「了!」

 それに答え、守屋は廊下を駆けるその速さを上げる。

「機関銃だ!機関銃を通せッ!」
「火力支援到着ッ!」

 先行のチームの各員が張り上げる中を、守屋は抜けて通り。
 廊下通路の奥にある両開きの扉の付近で、カバー配置して戦闘を行っていた特戦隊員や空挺隊員の元へ。しかし遠慮は無用と割り入る。

「向こう通路にデカブツ数体、沈めろッ!」
「了!」

 自身もカバー配置に付き。間髪入れずにその場の指揮官の特戦三佐から指示が寄越される。
 そして自身の隣背後に居る空挺の陸曹が、守屋の補佐のための彼の肩を掴む。

 そして一瞬、ひと呼吸の後に。
 守屋はその構えるM240Gを、立ち構えた姿勢のままその銃口を突き出し。狙いの間も惜しみ、その引き金を引いた。

 ――響き出した、重鈍ながらもけたたましい連続音。

 凶悪な7.62mm弾が、怒涛の勢いで向こうの通路に撃ち注がれ始めた。

「ッ」

 引き金を引き、火蓋を切ってから。
 守屋が僅かに覗かせる視線で廊下通路の奥に見たのは、廊下通路を阻むように布陣した数体の巨体。オークなど亜人兵の姿。
 しかし脅威たるその巨体の数々を見止めたのも暇。
 すでに叩き込まれた銃火に薙ぐように撃たれ、その亜人の兵達はその身を砕かれ儚く地面に沈む様子を見せていた。

「ッゥ!」

 さらに我武者羅に引き金を引き、向こうに銃火を注ぐ守屋。

「――!」

 しかしその守屋の眼が、ある「光景」を見たのは瞬間。
 それは廊下通路の向こうより現れ。床に、壁に、天井の全てを這い寄る――影。
 まるで広がる液体の浸食のそれで、影が――いや、それとしても歪な漆黒のそれが。こちらへと不気味に迫り来る光景だ。

「――脅威現象ォッ!!」

 瞬間、守屋は張り上げた。

 脅威現象――それは、それこそ。ガリバンデュル大帝国が見つけ触れた、禁じられた力――〝邪法〟。その一つ。

 今に迫る不気味な影は。生きとし生けるものがそれに触れ飲まれれば、その身は喰らわれ蝕まれ。そして精神は耐え難い恐怖を植え付けられ崩壊。
 朽ち果ててしまう、恐るべきものであった。

 守屋のそれは、脅威たるそれを見止め、知らせ張り上げる声。

「さがれェッ!」

 次には指揮官の特戦三佐が張り上げ、そして空挺の陸曹に身を引っ張られ。守屋の身は強引にカバー状態へと戻される。

「お出ましだァ――〝反特性ユニット〟をッ!!」

 そして次に、身も凍るべき邪法たるそれの迫る状況を前に。しかし特戦三佐が張り上げたのはニヒルな色でのそんな言葉。

「了ォ解ッ」

 それに答えたのは、背後で待機していた富士普通科戦闘団の陸士。
 そしてその陸士は、後ろ腰に下げていた何らかの装備品を繰り出し。それを手中に何らかの操作手順を見せ始める。
 陸士の手中に在るは、何か50cm程の全長のボンベ状の装備――今に、反特性ユニットと呼ばれたそれ。

「起動ッ、準備ヨシッ」

 陸士はそれのノズル・レバー類を少しいじると、そう伝える声を発し上げる。

「ユニットヨシッ!」
「ユニット投入行くぞォ!」

 そしてその場の各員が立て続け、知らせ伝える声を連ねて行き。
 今の陸士は、補佐の隊員に背中を支え押されながら。扉の前に踏み出てスタンバイ。

「ヨシッ――投入ッッ!!」

 そして位置取りからの一呼吸もそこそこに。陸士はその手に控えていたボンベ状のユニットを、下振りのスイングから思いっきり投げ放ち。
 「邪法」の影の迫る廊下通路の向こうへと飛ばし叩き込んだ。

 ゴガ、と鈍い音を立ててそのユニット装置が床に落ちたのは直後。しかしそれも束の間だった。
 直後に発生したのは――

 ――異質な衝撃派と衝撃音であった。

 一種の爆音と爆圧か、しかし火薬類の爆破よりも電子的な音に近い。
 そして廊下空間中に広がったのは、例えるなら可視化された電子の波、あるいは膜。青白い色合いの、幻想的なまでのそんな現象。

 そして同時に、その電子の波膜に触れた「邪法」の影が――消滅する光景であった。


 これは件の、日本と異世界を繋いだ作業服と白衣の人物からの、自衛隊へのまた一つの贈り物だ。

 現在、建設科の各編成隊が『聖堂』を目指し運んでいる、この世界を蝕む『邪法』を完全に無力化するという特殊装置。
 今に使用された反特性モジュールは、それと同時に現れ与えられたもの。その正体効果は、その特殊装置のいわば局地・戦術版。

 『邪法』を扱う大帝国に正面よりぶつかる自衛隊に与えられた、それに抗う力であった。


 一種の炸裂投射兵器の要領で使用、投入された反特性ユニットは。その役目を十二分に果たした。
 廊下通路より不気味な姿で迫っていた『邪法』の影は、しかしユニットの〝炸裂〟から帯びた電子の波紋によって、浚えられる如きのそれで消失。
 その効果によって皇城への侵入者を蝕むことは、しかし叶わず。脅威としては完全に無力化された。

「――消失――脅威無効化ッ!」

 扉の端でカバー配置に付き、効果状況を観測していた隊員が。その効果を見止め脅威が無力化された事実を知らせ発し上げる。

「脅威排除ォ!」
「排除ッ――踏み込む、押し上げるぞォ!」

 確認の言葉が連ねられ。そして特戦三佐が命じる声を発し上げる。
 そこからは、また守屋の出番であった。

「ッ!」

 また空挺陸曹の補佐の元、守屋は扉より廊下の向こうへと踏み入り。
 そしてその強靭な腕に構えたM240Gの引き金を引き、唸り声を響かせた。

 死の雨が廊下の向こう奥に注ぎ、叩き込まれる。
 それの犠牲となるは残る帝国軍親衛隊の兵。
 頼みの綱でありそしてその効力を疑うことの無かった『邪法』が、しかし得体の知れぬ効果現象を前に消え去った現実に、狼狽えるよりも呆ける事しかできなかった兵達。

 その兵達を一切の差別なく、機関銃掃射の暴力が襲い砕いた。

「押せェェェッ!!」

 特戦三佐の発し上げる声が廊下中に響く。

「ッォォ!」

 守屋はその巨体をもって、重戦車の如き在り方で正面に立ち。そして機関銃を唸らせ、押し進む。
 その側方を特戦二尉を始め数名が位置取り。的確な射撃で撃ち零しを仕留め、援護しながら。
 火力の暴力に物を言わせて、踏み、押し進む。

「――ヌぉぉッ!!」

 その最中、守屋の側方前方にヌっと大きな姿が出現。
 亜人、オーク・キング。帝国軍親衛隊の指揮官クラスの兵。その腕には振り上げられた巨大なハルバード。

「――異界の不届き者が、皇帝陛下のおわす場所にィッ!」

 その指揮官クラスのオーク・キングは、目に見えて傷つきながらも。皇帝の在るべき場所を護る使命を全うすべく。
 侵入者を退けるべく捨て身を突撃攻撃を仕掛けて来たのだ。
 肉薄したオーク・キングのハルバードの軌道は、守屋を断つそれ。

 ――ゲヂャ゛ッ、と。

 しかしそのハルバードが降り降ろされるよりも前に、肉がぶつかり拉げるような。いやまさにそれである音が響いた。

「ゴ゜――」

 上がる、奇妙な音。いや声。

 これが、驚かずにいられようか。
 なんと、守屋の繰り出した凶器の如き拳骨が。オーク・キングの顔面横面を〝突き刺し〟、拉げ砕いていた。

 機関銃を向ける時間は無いと――殴ったが早いと判断した守屋は。
 その異世界の亜人にも引けを取らぬ巨体体躯で。そして何より信じがたい殺傷力を宿した拳骨で、オーク・キングの顔面を砕いて見せたのだ。

「ぁ゜……」

 次には意識を失し、ドザリと床に崩れ沈んだオーク・キング。そしてその巨体がそれ以上動く事は無かった。

「マジか――!」

 それに、守屋の側方を護っていた特戦二尉が小さく驚愕の言葉を零す。

「ッァ――沈黙ッッ!!」

 しかし、それを成した守屋当人にあっては。唐突な襲撃があった事に微かに目を剥き、心拍数をあげつつも。
 直後にはその拳骨を解いて下げ、そしてただ端的に報告の声を張り上げた。

「一士、無事か!」
「ナシッ!戦闘進行継続可能ッ!」

 事態から、後方より特戦三佐よりその安否を確認する声が飛ぶが。守屋はそれにも端的に支障ない旨を返す。

「続行しますッ!」

 そして、愛用のM240Gを構え直し、さらに奥へと踏み込むべく進行行動を再開する守屋。
 守屋の一撃の姿に、意識を持っていかれていた特戦や空挺の隊員が。それに気づき気を取り直し、少し慌てて隊形を作り直して追いかける。

「――怪物かよ……ッ」

 そして特戦の二尉は、今に見た守屋の姿にそんな声を零し。
 そこに、徹底的に鍛えてきた自分等(特戦団)とはまったく異なる〝強さ〟を感じ。

 その体に、心に何か〝アガる〟ものを感じ。

 尖る笑顔を浮かべながら、また守屋に続くべく追いかけた。
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