魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

文字の大きさ
80 / 184
第四章

塞翁が馬06

しおりを挟む

木陰に座ると、隣に少女も座ってにこりと微笑む。
どうやらまだ帰る気はないようだ。

「私ね。もうすぐ結婚するのよ」


唐突に切り出された。

「……あぁ、だから来たばかりと言っていたのか」
「そう、私の国ってとても小さくてね。戦争に巻き込まれたらとっても困るの、そしたらね。私のこの髪が、この国の尊い方の目に留まったのよ」
「……そうか」
「別に嫌じゃないのよ。これは私の義務だし、少し歳は離れているけど、とっても優しくて強くて立派で素敵な人だわ。ちょっと不器用だけど、私の事を大事にしてくれる」

国の為の結婚。と言う事は、この少女は思っていた以上に……。
本来ならこんな所にいるべきではない。それも自分のような者に軽々しく身分をあかすべきでもない。
もし自分と会っているのがバレたなら、不敬を働いたとみなされてもおかしくないのではないか。
そう思って隣を見るが、人差し指をたて『ナイショよ』と、悪戯っぽく笑う姿は、ただの普通の少女に見えた。

「さぁ私の事は話したわ。今度は貴方の番よ。……どうしてあんな姿でここに?」

今はだいぶよくなったとは言え、彼女が彼を見付けた時、本当に酷く弱りきった状態だったのだ。
連れて帰るにも、どう見ても訳有りの若者を、下手に誰かを呼んで連れ帰っては逆に殺されかねないかも知れない。そうなったら、彼を守りきる自信が、今の彼女にはまだ、なかった。
せめて彼をなるべく見付からないように隠して、ただ目が覚めるのを待つしかない。
本当はお医者さまを連れてきたい。つきっきりで看病したい。出来る事なら連れて帰りたいと何度も思い、どうかまだ生きていてと強く強く願っては眠れぬ夜を過ごして、ここに来た。
だから知りたかったのだ。いったい何があったのか。

若者は暫し水面みなもをただ見詰める。
言うか言わぬか悩んだが、言ったところでこれ以上良くも悪くもならないだろうと、やがてその重い口をおもむろに開いた。

「俺には父がいたんだ。人間の父親が……」


 ある時、一人の人間の男が、森の泉に迷いこんだ。
その男は妻と息子、いっぺんに亡くしたばかりで、死に場所を探し途方にくれていた。
そんな時、声が聞こえたのだ。赤ん坊が泣く声を。
導かれるようにその赤ん坊に近付き抱き上げる。
すると赤ん坊はピタリと泣き止み、すやすやと寝息をたてだした。
その姿をみて男は思ったのだ。
これはきっと、神が授けてくださったに違いないと。哀れな男に与えられた慈悲なのだと。

生きる気力を取り戻した男は、さっそくその赤ん坊を連れ帰り、名を『ユミト』とつけた。


「その赤ん坊が、俺だ」


静かに水面も見詰めながら、彼は更に続ける。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 1000 Thank_You!!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...