魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

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第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ19

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「ええ? そうなんですか?」
「あぁ、それに隣の部屋も勝手が悪いようであれば好きにして問題ないぞ」

 たっぷり間を空けて青年が魔王の言葉をオウム返しする。

「え……隣の部屋?」
「あぁ、この部屋で二人は狭いだろう?」

 狭いと魔王は言うが正直庶民からしてみれば赤ん坊と二人なら十分な広さだ。
 一部屋に大人用の寝台も赤ん坊の寝台もソファーも流しも棚もクローゼットもテーブルも全て収まっても大人五人は余裕で過ごせる。
 なんなら全員で横になって手足を広げて転げ回っても余るくらいだ。おまけにこの部屋で殆んどのことが完結出来る。

「それに一人の時間も必要だからな」

 魔王は立ち上がると出入口付近まで歩きだした。つられて青年もそのあとを追う。
 するとなんと言うことだろうか。部屋へ入って左手にイェンの部屋に繋がる扉があるとしたら、まさにその向かい、部屋に入って右手には別の扉があったのだ。
 それも結構分かりやすくデカデカと緑の扉が。
 魔王がその取っ手に手をかけて押すと、部屋には窓から光が射し込んでいた。
 先程の部屋よりも広く、けれどシンプルに部屋の隅におかれた天蓋つきの寝台に、壁際にはクローゼット。窓際には机があった。入って右手の廊下側にも扉があるので此方からも出入りが出来るようになっている。
 決してパステルカラーがふんだんに使われた先程の部屋とは違う。至ってシンプルな部屋。けれどどれも品のある造形の調度品だ。
 部屋の扉や取っ手もその一つである。繊細な模様が彫られており、腕の立つものが手掛けたのであろうと見てとれた。
 その部屋へ入るや否や青年の口からでたのは「ファンシーじゃない」の一言だ。

「ここが不満なら別の部屋を用意しても構わん」
「いやいいですここで!」

 食いぎみに言って部屋の中をパタパタと進み、人形がふわふわと浮くような部屋ではないと実感すると「まとも!」と思わず眼を輝かす。
 その様子に魔王もようやく気付いた。

「まさか、知らなかったのか?」

 きょとんとした顔で驚くのも無理もない、部屋を使わなかったとしても扉があることくらいはいくらなんでも気付けた筈だ。
 それが全く気付かないなどと……いや実はその存在はなんとなく気付いていた気はする。
 だが日常的にそれを使うという発想にいたらなかった。よってそれを気にするという発想にもいたらなかった。
 そもそもさっきの部屋にだけ結界がされているという潜在意識が邪魔をしてわざわざ他の部屋に入ろうなどと考えもしなかったのかも知れない。
 更に言うならイェンがそんなことを一度も青年に教えてはくれなかった。
 よってそれは〝あるけれどないもの〟となっていたのだ。

「ぜんっぜん気付きませんでした。説明もなかったし教えてくださいよ」
「そ、そうかすまん。てっきりイェンかハクイが伝えているものと思っていた」
「俺もその二人に教えて貰えるもんだと思ってましたよ。何せ勝手が分かりませんから」
「そうだろうな。すまん」

(とは言え、俺も俺で疑問にも思わなかったってのはちょっと良くないな。次から気を付けよう)

「とにかく好きに使っていい。もし何かあれば遠慮なく言ってくれ、私でも構わん」
「そうは言っても魔王さまは殆んど顔出してくれませんからね。伝えようがないですけど」
「それは、確かに……すまん」

 魔王は罰が悪そうな顔で謝る。先日の一件から一度も足を運ばなかった事は魔王自身も自覚はあるのだ。
 おまけについさっき城に戻る前にした口喧嘩で飛び出した軟禁と言う言葉、驚いたが言われてみればその通りであると、多少なりとも申し訳なく思う。

「……街中に興味はあるか?」
「はい?」
「お前もたまには気晴らしが必要だろう」

 その一言で青年は魔王が何を言わんとしているのか全て察した。

「いいんですか?」
「近い内に、お前が良ければな」
「え、行きたい行きたい」

 パッと機嫌が良くなった青年に魔王は胸を撫で下ろす。

「リーベには悪いが誰かに見て貰おう」
「えぇ、そうですね。その代わり今度リーベも一緒にお庭でも見て回りましょ」
「それもいいな」

 そして二人でふふっと笑った。


  ◇


 その日の晩。
 隣の部屋から物音が聞こえた。ようやくその部屋の主が帰って来たのだと青年はイェンの部屋に続く扉へ視線を向ける。
 するとその扉が開き、少し疲れ気味のイェンが顔を出した。

「お疲れさま大丈夫だったか?」

 青年が声をかけて近寄るとイェンはどうもこうもと話すのも面倒な顔で言う。

「疲れたよ。急遽あの子たちの部屋を用意してさ、あの問題児共のおもりだよ。途中で思ったね。あれ、これって僕の仕事だっけ? てさ、おかしいだろ。僕はアンタらの面倒見るのが仕事だった筈だアホらしい。あぁそうだ暫く懲罰房行ってくるから明日から誰か他の人が代わりにくるぜ。じゃあ」

 ちょっと待てと青年は閉じかけた扉に手をかけ強引に引き留めた。

「なに? 僕忙しいんだけど」
「いやいや何しれっと話流そうとしてんだよ! 懲罰房って、え、なんで? まさか今回の件の?」
「そうそう、だからちょっと物をとりに来たんだよ。着替えとか、まぁ遅くて一週間くらいしたら戻ってくるから、じゃ」
「待て待て待て、良くない良くない。俺がハクイ様に言ってなんとか」
「なに言ってんのさ、どうせ隔離部屋で一日中反省文を書かせられるだけなんだから、そんで二食昼寝付き、反省文なんて初日に纏めて大量に書いて、あとは誰か連れ込んで残りの日数をよろしくやるよ」

 その言葉に青年は唖然とする。

「懲罰房てそんな簡単に人連れ込めるのか……?」
「少なくとも僕は問題ないね」
「……いいのか?」
「まさか、あ、ハクイ様には黙っといてくれよ」
「おい」
「とにかく、この際だからゆっくり休ませて貰うよ」

 じゃあと言って、イェンは扉を閉めた。
 青年はその扉を見詰めながら

「……帰ったら、懲罰房のあり方、見直そう」

 思わず呟いた。


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