乙女ゲーム無関係ヒロイン、転生悪役公爵令嬢の死亡フラグを破壊する。

うめまつ

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学園に入学して、比較的平和だ。

オーリスと婚約者はそれなりに会話が弾むようになった。

付き物が落ちたように大人しくなったオーリスに戸惑っていたが、今のオーリスはバカでお人好しだ。

公爵令嬢らしくと言ったのにおどおどしてダメだ。

「…背筋伸ばせ。」

「あ、うん!」

こそっと言ったのに返事をするな。

王子は頼りない性格が可愛いらしく大事に扱う。

それでいい。

そうしておけ。

もうこのまま問題ないと思ったのに。

今は騎士団長の息子カリフに突っかかられている。

学園で何かとじろじろ睨んできて気に入らない。

何度か話すタイミングを探ってたので逃げた。

そういう奴はこいつだけじゃない。

宰相の息子もだ。

面倒で学園で顔を隠すようにしてる。

指先から首もとまで覆ってベールや帽子を目深に被せる。

逆に目立つとオーリスに嫌がられたが、シナリオと違う装いだからいいじゃないかと答えると黙る。

本当ならもっと柔らかい色を着て、華奢で清楚な装いらしい。

ベールの隙間から偉そうに腕を組むカリフを見る。

昔、雇っていた使用人を気まぐれに傷つけて放り出した話を蒸し返す。

どうやら、そいつを拾って雇ってるらしい。

正義感で文句を言いに来た。

だが今さら遅い。

もう反省して償いをしてる。

日曜日には毎週協会に教会に行って罪を告白し、祈りを捧げて慈善活動を始めた。

こちらの話を聞く気はないらしく、一方的になじってる。

話をしようとがんばっていたが、とうとうオーリスが泣いた。

「泣けば済むと思ってるのか。」

涙ぐんでぐずぐず言うのを自分の背中に押しやる。

「ならどうしろと仰るのですか?」

「引っ込んでろ。」

「いいえ、あなたも代理でございましょう?そう仰るなら本人を連れてきたらいかが?」

口で負けるつもりはない。

腕力は無理だ。

なんだよ、筋肉の塊。

女は半年から一年間。

男はだいたい三年通うのが通例だ。

だが、騎士団希望の入学なら体が出来上がった時点で入団出来る。

お前、体が出来上がってんじゃん。

なんでまだ学園にいるわけ?

「うるさい。黙ってろ。」

黙ってやると今度は喋れと言い出す。

アホか。

「この話し合いで何を決めたいのですか?」

「あ?だから、オーリス嬢の行いを反省させるべきだ。」

「今は、行動を改めて教会に通い、慈善活動に尽力されてます。鞭は処分致しました。ここ半年ほどそのようなことはしておりません。」

「しん、」

「信じられないのでしたら教会や孤児院をお調べなさい!話はそれからです!」

やかましいわ。

その下りは無駄だ。

「今は、オーリスお嬢様は辞めた使用人を追って保証をしております。その使用人への保証も改めて提示いたしますので悪しからず。ああ、お名前をお知らせ頂けますなら手続きが早まります。それでは失礼。」

畳みに畳んで話をぶった切る。

話にならん。

「待て、この、」

さっさとオーリスを連れてその場を離れようとしたら、後ろから腕を捕まれ、振り向き様に渾身の力で横っ面を張った。

ぱーんとでかい音をたてて弾いた。

「きゃぁぁ!」

オーリスの悲鳴があがる。

「王子の婚約者であらせられる公爵令嬢を泣かせた上に侍女の体に触りますか?騎士の行いとして恥ずべきでしょうね。」

ついでに手袋を片方投げつける。

「あなたのやり方にお付き合いいたしましょう。決闘で構いませんよ。」

紅葉の残る頬を押さえて目を丸くしている。

「ここまでお嬢様に侮辱をしたのです。女だとしても主人を守るのに剣を取りますよ。」

ポカンとしてる隙にカリフが帯刀している剣を引き抜いて肩に当てる。

手癖の悪い女は初めてらしいな。

取られてやっと我に返りやがった。

命の次に大事な剣なんだろ。

簡単に盗られてるんじゃねーよ。

「私は下がる気ありません。意地がございますので。さあ、決めてください。決闘するかあなたが譲るか。」

女相手に勝っても負けても不名誉。

バカでない限り乗らない勝負。

こっちはただのハッタリだ。

だけど、もし決闘になったら頭突きか石で殴るか隙をついて一矢報いる覚悟はある。

なんでここまでするかと言うと、死んでくれと騒がなくなったと思ったら今度は死ぬと騒ぐようになったからだ。

やめろ。

せっかく高給取りになったのに。

お母さんみたいなぼろぼろの見かけもやっと。

この娘と一蓮托生なら死ぬ気で守ってやる。

「…わかった。肩から下げてくれ。」

目に戦意がないのを見極める。

でもまだ気が抜けない。

剣を返して後ろからバッサリは嫌だからね。

「…信用出来ません。…ああ、先程のあなたもそうでしたね。」

「…ああ。…確かにそうだ。」

「や、やめて!アゼリア!アゼリア!」

睨み合ってると後ろからしがみついて。

バカ。

動けん。

私を足止めしてどうする。

「カリフ様、ごめんなさい、私が悪いから!ごめんなさい!アゼリア!ごめんなさい!やめて!」

「おわ、と。あぶないから、」

剣をどかそうと手を伸ばすので、慌ててオーリスを捕まえて剣を落とした。

「私がひどいことをしたから!ごめんなさい!うわああ!」

地面に伏して泣くのを抱き止める。

「お嬢様、お召し物が汚れます。」

カリフはわんわん泣くのを呆然見つめる。

「驚かせて申し訳ありません。泣き止んでください。」

頭を撫でて声をかけるがなかなか落ち着かない。

耳に口を寄せていつも通りの低い声で言葉をかける。

「うるさいから泣き止め。」

ぴくりと反応し声が小さくなった。

「いい子だから。」

少し体を離してこくこくと頭を揺らす。

「ごめんなさい。」

「公爵令嬢は取り乱しませんよ。」

「…はい。ぐすん、」

ふらつく体を支えて立ち上がらせる。

カリフが手助けしようと伸ばした手を叩き落とす。

「触らないでください。あなたのせいです。」

「ちがうよ、私が悪いことしたから。」

「ええ、悪いことを反省して償う努力をされてます。立派です。ですが、今後もこういう輩は出てきます。気をしっかり持ってくださいませ。そのたびにこうやって泣くんですか?」

「う、うう、うええん。」

「泣きません。」

「はいぃ。うう、ひっく!」

ぴしゃりと叱ると静かに泣いた。

「あなたも、」

振り替えってカリフを見ると、ビクッと体が揺れる。

「もっとやり方がなかったんですか?」

「決闘を始めたのは。」

「違います。使用人の件です。」

こいつはアホだ。

「文句を言うだけなら犬でも出来ますよ。」

「な!この!」

「まだ文句を言うつもりですか?」

「う!ぐ、うう!」

これでやっと多少は静かになった。

「使用人の件は、こちらから人をやります。それでよろしいですか?」

「…ああ。」

「たったそれだけのことを。女性を泣かせる程なじる必要がどこにあったのか理解に苦しみます。趣味ですか?」

「ぐ、」

「もう、やめて。怖い。怒らせないで。」

「分かりました。お優しいお嬢様に感謝されてください。」

「この、減らず口め。」

「口は女の武器ですよ。ご存知ありません?」

見える口許を歪ませて嘲笑ってやる。

これで安心だ。

オーリスの言っていた、こいつ好みの虐げられた可哀想な女はいない。

殺気混じりの目に違う達成感を得る。
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