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番外編:娘の選択
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「垣根が下がったのよ」
「分かってるけど」
「モテるって勘違いしちゃダメよ」
「分かったってば」
ポンポンうるさい2つ下の妹。
「これ、派手すぎ。やめて」
「似合うからいいの」
「似合うけど立場を考えて。半分出戻りなんだから」
「……あのねぇ」
「なに?間違えてる?」
小さな胸を張って偉そうにするから私も腕を組んで睨み返す。
背が変わらないのが腹立つ。
でも胸は勝った。
ふっくらした高台をチラッと見て怯んでる。
「言っていいことと悪いことの区別もつかないわけ?」
「こっちは自覚してって言ってるの」
「しおらしく泣いとけっての?」
「違う。子供っぽいのを選ぶなって言ってるの。あっちが有責の婚約破棄だからってこんなはっちゃけたの選ぶとか馬鹿じゃない?」
あと年齢的に若すぎと言われてカチンと来た。
「好きな服を選んで何が悪いのよ!」
「この体型と年齢!子供っぽいのは視界の暴力よ!」
「はぁああ?!そこまで言う?!」
「もう17よ!15のデビュー向けなの着ないで!」
下手したら結婚して一人くらい子供がいる年齢だとぉ。
「派手で子供っぽいのはダメ。空気を掴むって大事なんだからね。まだ半年よ」
「やっとあの呪いから解放されたのに」
化粧禁止、流行りの服は禁止。
色は指定の黒か茶色。
毎日お葬式の気分だった。
「ブスくれないでよ。似合うのと場面に合わせた服装は別物なんだから。私がお姉様の歯止めをしてあげてるの。感謝してよね」
「悪目立ちしたら自分の婚約に差し障りがあるんでしょ」
「そうよ。噂の影響は私達にも来るんだから。少しは気を使ってよ」
「……わかったぁ」
私は長子。
下には妹に弟勢揃い。
この子は幼馴染みの男の子と婚約が決まったばかり。
小さい頃から仲良しこよし。
恨めしい。
「いいわよ、あなたは相手がいるし自分のことだけ考えれば」
「そんなつもりないわよ。で、でも、うちの中でファッションショーするのはいいから。付き合うし。時間がたてばもっと好きにできるからっ」
優しく言わないでよ。
怒りのやり場が迷子になる。
妹に八つ当たりしてカッコ悪い。
怒るより落ち込んできた。
「外に着ていけないならつまんない」
「……気持ちは分かるわよ」
私達はお洒落が命。
「半年たってやっと大きい社交場に行けるのに」
「私だって同じよ」
巻き添えで同じように引きこもりだった。
それは悪いと思ってる。
お父様とお母様は行っていいと言うけど陰口の的だもの。
わざわざネタになりに行きたくはない。
友達と手紙をやり取りして分かったのは、思ったより私の婚約破棄が有名になってたということ。
そんな中でもいつも通り社交をこなすうちのお父様とお母様はタフ。
話題にのぼったら鼻で笑うか息子の処分と引き換えに許したのでお宅も同じようになさいと答えてるって。
二度めを許すほど寛容ではないと脅し付き。
強気で対応してる。
しても許される権力があるもの。
あちらの国で知名度のなさと地位の低さは身に染みた。
そのくらい私は大丈夫と甘く見たのは反省だわ。
のしあがる気でいた。
絵姿ひとつで婚約を決めちゃったくらいダメ。
年配の貴族は多少関わりがあったけど若い世代に我が家は馴染みがなかった。
本当に無名。
ぽっと出の男爵令嬢扱い。
うちは老舗の男爵家よ。
家名を預かって参加した席でさえ若い女がひとりで何しに来たんだって好奇の的になるし。
しかもあんな格好を強制されて舐められまくり。
エスコート役のひとつも出来ないあいつが悪い。
馬鹿すぎたおかげで慰謝料たんまりで婚約破棄出来たけどさ。
モテすぎるのも考えもの。
冷静に考えれば華やかさを消した顔と平らにした胸元、首から手首まで隠す古くさいスタイルの女が社交界いちのモテ男の婚約者なんて反感買うわ。
面白おかしく変な噂を練り上げてあの馬鹿も率先して参加してたからどう足掻いても無理だった。
今まで親の庇護にいたんだと再確認。
築いた立場を自分の才覚と誤解してた。
仕方ないわね。
今の状況を受け入れるしかない。
次は変える努力。
以前からお勤めで懇意にしている方々や友人達の交流はさっさと再開して今はもと通り。
中途半端な関係の人たちを片付けないと。
そろそろ噂の払拭にかかるの。
イメージ変えなきゃ。
引きこもってたって若さが腐るだけ。
せっかく自由なのよ。
自由。
最高の響き。
「ちょっと。浮かれないでよ」
「浮かれてなんかないわよ」
「こっちは分かるのよ!派手なの選ぶなってば!見てみなさいよ!」
「はっ!?」
気分に合わせて派手になってた。
諦めて妹に任せた。
妹プロデュースでしっとり系。
悪くない。
着てみれば最高に似合う。
婚約前と比べて丸みの大きな体つきになったのもよし。
自分が思ってたより大人びてたんだわ。
妹の手腕に感謝。
「姉妹なのにお姉様の方が顔立ちがシャープでうらやましい」
そっくりなんだけど私と同じ頃より童顔。
「次の成長期が来たら顔立ちがまた変化するわよ」
「まさか横に?」
両手に頬を挟むからおかしくて小さく吹き出した。
「縦に」
おでことか鼻や口の辺りが伸びる。
「本当に?」
「私は伸びたわよ」
「信じるからね」
あ、でも伸びしろが……
私はもとから長かったとは言わない。
逆に私は楕円形に長い顔立ちが恥ずかしかったんだ。
デビューの時は目立たないように前髪をおろして隠してた。
でも似合うからおでこを出せと言われて今は出してる。
妹の助言。
顔のこともチクチク言われてイヤだったと思い出してムッとした。
でももう妹に八つ当たりはしない。
それはつまらなすぎる。
「分かってるけど」
「モテるって勘違いしちゃダメよ」
「分かったってば」
ポンポンうるさい2つ下の妹。
「これ、派手すぎ。やめて」
「似合うからいいの」
「似合うけど立場を考えて。半分出戻りなんだから」
「……あのねぇ」
「なに?間違えてる?」
小さな胸を張って偉そうにするから私も腕を組んで睨み返す。
背が変わらないのが腹立つ。
でも胸は勝った。
ふっくらした高台をチラッと見て怯んでる。
「言っていいことと悪いことの区別もつかないわけ?」
「こっちは自覚してって言ってるの」
「しおらしく泣いとけっての?」
「違う。子供っぽいのを選ぶなって言ってるの。あっちが有責の婚約破棄だからってこんなはっちゃけたの選ぶとか馬鹿じゃない?」
あと年齢的に若すぎと言われてカチンと来た。
「好きな服を選んで何が悪いのよ!」
「この体型と年齢!子供っぽいのは視界の暴力よ!」
「はぁああ?!そこまで言う?!」
「もう17よ!15のデビュー向けなの着ないで!」
下手したら結婚して一人くらい子供がいる年齢だとぉ。
「派手で子供っぽいのはダメ。空気を掴むって大事なんだからね。まだ半年よ」
「やっとあの呪いから解放されたのに」
化粧禁止、流行りの服は禁止。
色は指定の黒か茶色。
毎日お葬式の気分だった。
「ブスくれないでよ。似合うのと場面に合わせた服装は別物なんだから。私がお姉様の歯止めをしてあげてるの。感謝してよね」
「悪目立ちしたら自分の婚約に差し障りがあるんでしょ」
「そうよ。噂の影響は私達にも来るんだから。少しは気を使ってよ」
「……わかったぁ」
私は長子。
下には妹に弟勢揃い。
この子は幼馴染みの男の子と婚約が決まったばかり。
小さい頃から仲良しこよし。
恨めしい。
「いいわよ、あなたは相手がいるし自分のことだけ考えれば」
「そんなつもりないわよ。で、でも、うちの中でファッションショーするのはいいから。付き合うし。時間がたてばもっと好きにできるからっ」
優しく言わないでよ。
怒りのやり場が迷子になる。
妹に八つ当たりしてカッコ悪い。
怒るより落ち込んできた。
「外に着ていけないならつまんない」
「……気持ちは分かるわよ」
私達はお洒落が命。
「半年たってやっと大きい社交場に行けるのに」
「私だって同じよ」
巻き添えで同じように引きこもりだった。
それは悪いと思ってる。
お父様とお母様は行っていいと言うけど陰口の的だもの。
わざわざネタになりに行きたくはない。
友達と手紙をやり取りして分かったのは、思ったより私の婚約破棄が有名になってたということ。
そんな中でもいつも通り社交をこなすうちのお父様とお母様はタフ。
話題にのぼったら鼻で笑うか息子の処分と引き換えに許したのでお宅も同じようになさいと答えてるって。
二度めを許すほど寛容ではないと脅し付き。
強気で対応してる。
しても許される権力があるもの。
あちらの国で知名度のなさと地位の低さは身に染みた。
そのくらい私は大丈夫と甘く見たのは反省だわ。
のしあがる気でいた。
絵姿ひとつで婚約を決めちゃったくらいダメ。
年配の貴族は多少関わりがあったけど若い世代に我が家は馴染みがなかった。
本当に無名。
ぽっと出の男爵令嬢扱い。
うちは老舗の男爵家よ。
家名を預かって参加した席でさえ若い女がひとりで何しに来たんだって好奇の的になるし。
しかもあんな格好を強制されて舐められまくり。
エスコート役のひとつも出来ないあいつが悪い。
馬鹿すぎたおかげで慰謝料たんまりで婚約破棄出来たけどさ。
モテすぎるのも考えもの。
冷静に考えれば華やかさを消した顔と平らにした胸元、首から手首まで隠す古くさいスタイルの女が社交界いちのモテ男の婚約者なんて反感買うわ。
面白おかしく変な噂を練り上げてあの馬鹿も率先して参加してたからどう足掻いても無理だった。
今まで親の庇護にいたんだと再確認。
築いた立場を自分の才覚と誤解してた。
仕方ないわね。
今の状況を受け入れるしかない。
次は変える努力。
以前からお勤めで懇意にしている方々や友人達の交流はさっさと再開して今はもと通り。
中途半端な関係の人たちを片付けないと。
そろそろ噂の払拭にかかるの。
イメージ変えなきゃ。
引きこもってたって若さが腐るだけ。
せっかく自由なのよ。
自由。
最高の響き。
「ちょっと。浮かれないでよ」
「浮かれてなんかないわよ」
「こっちは分かるのよ!派手なの選ぶなってば!見てみなさいよ!」
「はっ!?」
気分に合わせて派手になってた。
諦めて妹に任せた。
妹プロデュースでしっとり系。
悪くない。
着てみれば最高に似合う。
婚約前と比べて丸みの大きな体つきになったのもよし。
自分が思ってたより大人びてたんだわ。
妹の手腕に感謝。
「姉妹なのにお姉様の方が顔立ちがシャープでうらやましい」
そっくりなんだけど私と同じ頃より童顔。
「次の成長期が来たら顔立ちがまた変化するわよ」
「まさか横に?」
両手に頬を挟むからおかしくて小さく吹き出した。
「縦に」
おでことか鼻や口の辺りが伸びる。
「本当に?」
「私は伸びたわよ」
「信じるからね」
あ、でも伸びしろが……
私はもとから長かったとは言わない。
逆に私は楕円形に長い顔立ちが恥ずかしかったんだ。
デビューの時は目立たないように前髪をおろして隠してた。
でも似合うからおでこを出せと言われて今は出してる。
妹の助言。
顔のこともチクチク言われてイヤだったと思い出してムッとした。
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