俺は辺境伯の息子です!〜国王(父親)が苦手なので基本、王都以外のところで生活します。〜

さくや

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レイヴン辺境伯領の息子

#2

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「まったく、アトシュ様はやんちゃで行けません。
何度、勝手にこの森に入っては行けないと言ったことか。
聞いておりますか?  アトシュ様。」

「聞いてるよ。
というか、何度も耳にタコができるくらい聞いたから。」

「なら、おとなしくできませんかね?」

「ムリ!」

捕獲されたアトシュはおとなしく帰ることになった。
そもそも、この状況で逃走するのは不可能だ。
サーシャの説教を受けながら森の出口へ向かう。
まぁ、半分以上は聞き流しているが。

「だいたい、ルトが待ち伏せしてるのはズルイだろ!
あと、メアの魔力糸。」

「あら、ズルくないわ。
だって、アシュにもルージュとレインがいるように私にもメアがいるというだけだもの。
ねぇ、メア?」

『うん!』

リアが自身の肩に黒いクモを乗せ、話しかける。



★ナイトメアスパイダー
別名:闇蜘蛛
闇属性の蜘蛛型の魔物で成長すると大人1人を乗せることができるくらいのサイズになる。
魔力糸と呼ばれる糸を吐きだす。
魔力糸はその名の通り魔力が練りこまれた糸で他の属性の魔力も織り込むことができる。
基本は闇で糸に触れたものの魔力を吸収する特性を持つ。




魔物のなかには高位ゆえに言語を話すものやサイズを自由自在に変更できるものも存在する。

レインやルージュ、メア。そして、アトシュを捕まえた少年の連れている黒豹も高位の魔物に属する。

そんな魔物の契約。従魔の契約を幼いながらに結べている時点で彼らは規格外ともいえるのだ。

「アトシュ様。さっさと帰りますよ。
獲物に関してはクロスを先行させてるからたぶん人員を連れてきてくれるよ。
まぁ、森の入り口のところに一応、来てるけどね。
アトシュ様の親衛隊が。
だから、僕らは真っ直ぐ帰るよ。」

「まじかよ………、というかアレ俺の親衛隊じゃねぇし。
とりあえず、邸には一回帰る。」

アトシュは納得し、返事を返すが表情や態度からは不服さが現れていた。

「アトシュ様、いじけないでくださいよ。
そもそも、あなたが護衛たちを連れずに出歩くから僕もサーシャも怒っているんです。
あなたにもしものことがあったら一大事ですから。」

「あーー、もう、分かったからその様付けやめろ。
ルトにそう呼ばれるのはなんかやだ!」

「そうですか? 」

「そうだよ!
頼むからルト兄様は兄様らしくしててくれよ。」

「分かった。
だが、形式上はこれから様付けで呼ぶことが増えるんだから少しはおまえも慣れろよ、アシュ。
あと、『兄様』呼びが復活してるぞ?
それも気をつけろよ。」

「うっ………、善処する…………。」

「頼むぞ?」

アトシュとルト。
2人のこのやりとりを見ていた周りの反応は………

「さすがですね、アサルト様は。
アトシュ様が素直に言うことをお聞きになるのはなかなかないですからね。」

「ふふふ、そうね。
アシュが頭が上がらないのはココ叔母さまを除けばお父様とお兄さまくらいしかいないもの。」

「そうですね。
しかし、ルナリア様にもアトシュ様は素直なところがありますよ。」

「よっぽどのことじゃないとアシュは私の言うことは聞かないわよ。
ねぇ、メア?」

『うん。でも、リアを怒らせると怖いからアトシュはリアにも逆らわないようにしてるみたいよ。』

「そうなの? 私、そんなに怖いかしら?」

アトシュは過去にルナリアのお気に入りのティーセットを壊してしまったことがあり、その時の静かに怒りを露わにする様が恐ろしく、絶対にルナリアを怒らせないようにしようと心に誓っていたのだ。

『あの時のルナリアは本当に恐ろしかったな。』

『うん。ルナリア、とーーっても怖かった。』

ルナリア達の会話を聞いて当時のことをレインはしみじみとルージュはぶるぶる震えながら思い出していた。


そんな風にたわいもない会話をしながら歩いて行くとようやく黒月の森の出口付近へと到着する。


到着した黒月の森の出口。そこには………

「お帰りなさいませ、アトシュ様!」

赤みがかかった金髪の男を先頭にこちらに敬礼している一個小隊。
15人前後の黒い隊服をまとった集団がいた。

はっきり言って変な集団である。

「なぁ、あの集団に返事しなきゃダメか?」

「返事はしないとダメだろ。
だって、あの集団はアシュのなんだから。」

そう、黒い隊服の集団の主人はアトシュなのだ。
だが、アトシュはあの集団を与えられてからも自分が彼らの主人であることを頑なに認めない。

黒隊服の集団は全員がアトシュに忠誠を心から捧げており、周りからしたら『往生際が悪い』『さっさと認めてしまえ』と思っている。

「はぁ……、行ってくる。」

「行ってらっしゃい。
アシュ、何事も諦めが肝心だと僕は思うよ。」

アトシュはレインとルージュを連れ、黒隊服集団の先頭にいる男に話しかける。

「カインズ。
迎えに来るのはいいが隊員全員で来る必要性はないと何回も言ってるだろ!」

カインズと呼ばれた赤みがかかった金髪の男は主人であるアトシュに声をかけられ、顔を綻ばせる。

「アトシュ様。
あぁぁ、アトシュ様が私にお声をかけてくださる。
それだけでこのカインはとても嬉しく思います。
今日は何という恵まれた日なのでしょう!!」

「また……、始まった………」

「思えば、アトシュ様にお仕えしてお声をかけていただけた上に名まで呼んでいただける。
私はなんという至福の日々を過ごしているのだろう。
そもそも、アトシュ様に出会えたこと自体、奇跡だ!
あぁ、月の女神 ルナティール様 ありがとございます!!」

自分の目の前で恍惚とした表情で喋り続けるカインズにアトシュは冷めた眼差しを向ける。

「もう…、やだ……、こいつ。」

そんなアトシュをルージュが嘴でちょんちょんと突き、レインは前脚でペシペシとさっさと『止めろ』と抗議する。

残念なことにこの状態のカインズにはアトシュの声しか届かないためどんなに嫌でもアトシュ自身が止めるしかない。

「頼むから、そろそろ戻ってきてもらってもいいか?」

「はっ、大変、申し訳ありません。
アトシュ様にお声をかけていただき、感激のあまり我を失っておりました。」

「うん、これ毎度のやりとりだよね?
ほんと、いいかげんにしてもらいたいところなんだけど?」

「誠に申し訳ありません。
しかしながら、私めにとってにアトシュ様にお声をかけていただけるというのは大変、貴重で素晴らしいことなのです。
そもそも、アトシュ様の存在はとても尊く、お仕えできたこと自体、私の人生における運をすべて使い果たしたくらいのことなのですよ。
あぁ、本当に月の女神 ルナティール様と任務を与えてくださった陛下には感謝してもしたりません!!」

『アシュ、まだ止まっていないようだが?』

「そうみたい……。
今日もまた長くなりそうだな………。」

レインの問いにアトシュは遠い目をしながら答える。

暴走 カインズ
アトシュの声しか届かないが声をかけても止まるかどうかは五分五分なのだ。


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