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第三章 学園・領主編

第二十二話 ドリントル四者会談

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 カインはドリントルの執務室に転移した。
 奴隷商に寄ったことにより、すでに夕食の時間になっていた。カインは制服のまま執務室の椅子に座る。領主の執務室なだけあり、それなりに立派な部屋となっている。
 カインが座った椅子も革貼りの高級品だ。部屋について数分も経たないうちに扉がノックされる。
 転移すると、すぐに執事のダルメシアに気づかれてしまう。いったいどうやって感知しているのだろうか。

「カイン様、食事の用意ができてございます。皆様お待ちになられております」

ダルメシアの声に返事をし、扉を開けてダイニングに向かう。すでに全員揃っていた。

「お待たせしたね」

カインは自分の席に座り食事が始まる。
さすがにダッシュ家族がいる前では、領地の話はすることはない。雑談をしながら食事をすすめていた。

「カイン様、今週末には宿の修繕が終わるとのことです」

 ダルメシアが後ろからそっと囁いてきた。

「そうか……。ダッシュさん、今週末には宿の修繕が終わるそうです。色々と迷惑をかけてしまってすまない」

 カインがダッシュ家族に向かって頭を軽く下げる。カインが泊まっていたということで、この街の闇ギルドに襲われたのだ。しかもカインが見つけるのが遅れれば命も危なかった。エナクについても今回の件で攫われて大怪我をしていた。

「カイン様、頭を上げてください。家族も無事でした。宿まで修繕していただき、その間、領主邸でお世話になりこちらこそ感謝しております」

「カインお兄ちゃん、また宿にも遊びにきてね」
 
 エナクが寂しそうにしているので、カインは笑顔を向ける。

「もちろんだよ。ダッシュさんの食事も食べたいしね。是非行かせてもらうよ」

 食事を済ませ、執務室にはカイン、アレク、レティア、ダルメシアの四人がいる。
 アレクがカインのいない間にあった出来事を説明していく。

「今日、王都から騎士団が着いたよ。一日衛兵詰所で休憩してから、明日、捕縛したエライブ達を王都に連行することになった」

 アレクの説明にカインは頷く。マグナ宰相に説明をした後に、すぐに手を打ってくれたみたいだ。四人を移送するために二十人ほどの騎士団が来たのは、闇ギルドのマスターを捕縛しているからだ。闇ギルドの残党が襲撃してくる可能性を考慮したからだろう。

「それと、帳簿や書類を調べたけど、街の運営が軌道にのれば数年で補助金を貰わなくても今後やっていけるね。そのためには色々とやらないといけないことはあるけど。この街の西にある森や奥にあるダンジョンでは魔物の素材が採れる。素材や製品化したものを流通させれば、この街は十分にやっていけると思うよ。ただ街の規模が小さいから出来れば拡張していきたい。スラム街についても闇ギルドのマスターを捕縛したことが響いて、表立った行動ができないはずだ」

 アレクがこの街について調べた結果だ。元々この街には冒険者が多い、素材の回収を行い冒険者ギルドに収めることで、冒険者の懐は潤っていく。同時にギルドから商会に素材を販売することにより、ギルドも潤い、その売上税を街に収めることにより街の財政も潤うという算段だ。さらに街道を整備することにより、商隊も増えることになる。また、スラム街を一度解体し区画整理をすることによって住民を増やすことも可能だ。

「わかりました。アレク兄様のほうは引き続きお願いします」

「次は私のほうね。調べていったら、ベティの下で二人ほど職員が不正をしていたから捕縛してあるわ。二人も明日、同時に王都へ連行する予定よ。王都のギルドでたっぷりと事情聴取されることになると思う。あと、カイン様が破壊した訓練場だけど、仮で復旧はしたわ。元々観客席など必要なかったからそのままにしてあるけど。ギルドマスターが私財を出してくれたお陰で、そこまでギルドの負担にはなっていないわ。それにしてもあそこまで破壊するなんて派手にやったわね……」

 レティアの説明に、カインは破壊したギルドの訓練場を思い浮かべる。学園の入学試験の時も修繕費が白金貨十枚かかったと聞いた。それ以上に破壊した訓練場はいったい、いくらしたのかと思いながらカインは冷や汗を流した。

「最後は私ですね。屋敷周りの他にスラム街の方を偵察しておりますが、明日の移送に伴っての襲撃予定はなさそうです。怪しい動きはしておりません。来週、ダッシュ様が戻られる宿についても私のほうで確認しておきますので、ご安心くださいませ」

 ダルメシアが報告したあとに優雅に一礼する。

「ダルメシア、そこまで広範囲を調査できるって……」

「私の特殊能力でございます。詳細については――」

 後ろで控えているダルメシアの足元が黒く染まっていく。ブラックホールのような黒い渦が出来上がり、次第にその中から音が聞こえてくる。

 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
 ブーンブーンブーン、ギギョギギョ、ゴソゴソゴソ

 色々な音が次第に大きくなってくる。その中でも一番大きい音は聞き覚えがある。
 前世でも戸建てに住んでいた時に、たまに出てくる“アレ”だ。アレは見せてはいけないモノだとカインはすぐにわかった。特にレティアさんには……。すぐにカインはダルメシアを止める。

「ダルメシア、わかった。それは出さないでくれ」

「わかりました。カイン様」

 次第にダルメシアを囲っていた黒い渦が消えてきて、音もしなくなった。アレク兄様やレティアは不思議そうな顔をしている。
 カインは音が収まったことで一息つくと話を続ける。

「この調子なら、大丈夫そうですね。週末はくる予定ですが、学園帰りには少し王都に残ろうと思います。テレスや、シルクから誘われているのを断っているので」

 テレスやシルクとは正式に婚約発表したわけではないが、学園の放課後も全てこの街のために時間を使っているため、二人の誘いを断っていた。カインが忙しいのをわかってくれているが、それでも相手をしないといけないと思っていた。

「確かにそうだね。テレスティア王女殿下やシルク嬢も学園で会うとは思うけど、放課後のデートもたまには必要だよ。愛想尽かされてしまうからね。平日は僕のほうでやっておくよ。週末には来てもらわないと困るけど」

 アレクの気遣いで、平日ドリントルに来るのは免除された。アレクとカインが納得したが、レティアが急に口を挟んできた。

「カイン様って、近衛騎士団長のティファーナ公爵令嬢と婚約していますよね。ギルドで会った時に「旦那様」と言っていましたし、何故、テレスティア王女殿下や、サンタナ公爵令嬢のシルク様の話が出てくるのでしょうか」

 アレクは婚約した時にガルムから説明を受けていたので、問題はなかったが、レティアが知らない事を二人はすっかり忘れていた。


「「あっ」」


 アレクとカインの二人は目を合わせて声が出てしまった。
 アレクは顔を横に振り、レティアに説明するように促す。

「――実は、まだ公表されていないけど、テレスティア王女殿下とシルク嬢とも、婚約することが決まっているんだ。この街の内政が落ち着いたら発表することになっている」


「えっ。えっ!? えぇぇぇぇぇえええええええええええええ!!!!」

 レティアの声が執務室に響いた。

「ちょっと待って下さいよ!? 王女殿下と公爵令嬢の二人とも結婚することになっているのですか!?」

 レティアがカインに詰め寄っていく。

「これには色々と事情が……。詳細は聞かないで欲しい」

 カインの説明に、レティアは落ち着きを取り戻し、ソファーに力なく座り込んだ。

「わたしなんて……もう二十過ぎているのに、誰とも何もないのに、カイン様は十歳ですでに婚約者三人もいるなんて……。しかも王女様と公爵令嬢……」

 レティアは遠い目をしながらボソボソと呟いている。
 別世界に行っているレティアを置いておいて、アレクとカインは話を続ける。

「明日はエライブ達の移送があるから、学園は休んで立ち会うことにします。騎士団にも挨拶しないといけませんからね」

 いくら学生とはいえ、領主なのだ。王都から代官達を引取りにきた騎士団に挨拶もしなければ失礼にあたる。

「うん、そうしてもらえるとありがたい。明日、一緒に衛兵詰所に行くことにしよう」

 打ち合わせが終わり、アレクは代官邸に戻っていった。レティアはブツブツと言いながら客間に戻っていく。
 カインはソファーに座り、ダルメシアが淹れてくれた紅茶を飲みながら一息つく。

「街の監視については、私にお任せください。至るところに目と耳がありますから」

 優秀なダルメシアだが、その監視しているのが”アレ”だと思うと、ぞっとする。

「……うん、わかった。引き続きよろしく頼むよ。やっぱりダルメシアの特殊能力って……」

「私の特殊能力は蟲使いでございます。ありとあらゆる蟲を従えることができるのです」

「”アレ”だけかと思ったけど、蟲全般だったのね。どれくらい従えてるの?」

「どれくらいと言われましても、私の異界で従えているのだけでしたら、数億はいくかと。申し訳ありませんが、あまり細かくは把握しておりません。呼びましょうか?」

「いや……絶対にやめてくれ」

 ダルメシアの言葉に少し疲れながら、夜が更けていった。

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 いつもお読みいただきありがとうございます。
 昨日の夜まで、全然執筆が進まず今日UPできないかとヒヤヒヤしました。
 少し短いですが、ご勘弁を。
 次の更新は12月20日(火)予定になります。

 ※Gのイメージが強過ぎたので、少し和らげるために加筆いたしました。え、変わらないって?
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