え? 婚約破棄ですか? もちろんそんなもの認めませんわ!

白桃

文字の大きさ
3 / 5

また婚約破棄?

しおりを挟む
「マリア=アナベル。貴方との婚約を、こんどこそ破棄させて貰う!!」
「お断りします」

 私は少し呆れたような声音でそう答えました。
 いったい今度はどうしたというのでしょうか。

「俺はエリーザ連邦に留学する!」
「また突然どうしてそんなことを?」

 北方の国エリーザ連邦。
 様々な民族の納める小国群が、いつしか連邦国家となり力を増した新しい国でしたわね。

「先日、王宮に正式に俺を留学生として招きたいという使者がやって来てな。お前から逃げ……いや、新しい国の技術を学んでこようとおもったのだ」
「今、私から逃げると言いましたか?」
「言ってない! 断じて言ってないぞ!」

 相変わらず嘘をつくときに目が泳ぎまくっていますね。

「それで、何故留学するのに私との婚約破棄が必要なのですか? 別に婚約したままでも何の問題もございませんでしょう?」

 私がそう尋ねると、ガート様はここぞとばかり、その理由をまくし立て始めました。

 彼が言うには、留学がどれほどの期間かはわかってない。
 現地で学ぶ内容によってはもしかすると十年以上もこの国を離れる可能性もある。
 なので、私をその間ずっと婚約者として縛っておく訳にはいかない。
 そこで、婚約を解消する事で私が他の者の所に嫁ぐことが出来るだろう。
 心苦しいが、私のことを思って決断したことだから、婚約解消を受諾して欲しい。

 どうやらガート様は、私に対する言い訳を必死に考えたようですが、相変わらずその内容は穴だらけで呆れるしかありません。
 私は笑いをこらえるのに必死で眉根を寄せてうつむきました。

「泣いてるのか……?」

 どうやらガード様は私が苦しそうな表情を浮かべているのを見て、泣いているのだと勘違いしたようでした。
 その声音は私を心底心配しているようで。
 相変わらず本当は優しいお方です。

「いいえ、突然のことに少し驚いてしまって」

 私はそう答えると顔を上げて微笑みます。
 そして、私はこう答えました。

「ガート様が私のことを心から心配してくれていることを理解しましたわ」
「で、では婚約を解――」

 私が素直に婚約解消に応じると思ったのか、ガート様が嬉しそうな声を上げます。
 ですが、私が彼を逃がすわけがありません。

「ですので少しの間考えさせてくださいませ」
「少し……とはどのくらいだ?」

 今までは速攻でお断りし続けていたので、今回のように「考える」という返答に希望を見いだしたのでしょう。
 ガート様は嬉しそうな顔を隠せないままそう尋ねます。
 それに対して私は少しだけ考えるそぶりを見せると、こう答えました。

「十日ほどでいいのです。それで決心が付くと思いますので」

 私は態とらしく悲しそうな、か弱そうな表情を浮かべガート様を涙で潤んだ目で見つめかえします。
 もちろんこの涙は演技です。
 私は自由自在に涙を流すことが出来ましてよ。

「……わかった。では先方にもそう伝えておこう」

 ガート様はさすがにそんな表情の私に対して罪悪感を覚えたのか、目線をそらしながらそう答えたのです。

「ありがとうございます。それでは失礼させていただきますわ」

 私は最後までしおらしい演技を崩さないまま部屋を後にしました。
 さて、これから忙しくなりそうですわね。

 私は部屋を出た途端にいつもの不敵な表情に戻すとアナベル家の屋敷へ急ぎ戻るのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄先手切らせていただきます!

荷居人(にいと)
恋愛
「お前とはこん………」 「私貴方とは婚約破棄させていただきます!」 女が男の都合で一方的に婚約破棄される時代は終わりです! 自惚れも大概になさい! 荷居人による婚約破棄シリーズ第五弾。 楽しんでいただければと思います! 第四弾までは(番外編除く)すでに完結済み。

婚約者がいるのに他の女性といちゃつくのはどうかと思いますが……。

四季
恋愛
領地持ちとしてそこそこ長い歴史を持つベベル家の娘イレイナ・ベベルは、新興領地持ちであるババラ家の息子セイン・ババラと婚約することとなった。ババラ家から頼まれてのことだった。 しかしセインは同じ新興領地持ちの家の娘ミレニア・メメルと親しくなっていて……。

悪役令嬢が腹黒ヒロインと手を組んだら?

真理亜
恋愛
公爵令嬢のライラは婚約者である第2王子のルドルフのことが大嫌いだった。さっさと婚約破棄したくて堪らなかった。なにせとにかく女癖が悪い上に生来の悪党だからである。婚約破棄に向けて今日も着々とルドルフがやらかした悪事の証拠集めに勤しむ彼女だったが、ある日聞き捨てならない情報を入手する。どうやらルドルフの方もライラとの婚約破棄に向けて何やら企んでいるというものだ。イリナという男爵令嬢を利用してライラを追い詰めようと画策しているらしい。しかもイリナを使い捨てにするつもりらしい。そこでライラはイリナの元を訪れこう言った。 「ねぇ、私と手を組まない?」 ☆こちらは別タイトルで投稿していた物を、タイトルと構成をやや変えて投稿し直したものになります。

婚約破棄された令嬢の再婚相手はわけありの隣国王子~愛が重たいけれど一生懸命がんばります!~

岡暁舟
恋愛
「レイチェル。突然で申し訳ないのだが、私は君との婚約を破棄しようと思うんだ……」 王子レオンハルトに婚約破棄された令嬢レイチェル……その理由はいまいち釈然としなかった。だが、その運命を受け入れるしかなかった。 そこに現れたのは隣国の王子で?

王子、婚約破棄してくださいね《完結》

アーエル
恋愛
望まぬ王子との婚約 色々と我慢してきたけどもはや限界です 「……何が理由だ。私が直せることなら」 まだやり直せると思っているのだろうか? 「王子。…………もう何もかも手遅れです」 7話完結 他社でも同時公開します

第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!

黒うさぎ
恋愛
公爵令嬢であるレイシアは、第一王子であるロイスの婚約者である。 しかし、ロイスはレイシアを邪険に扱うだけでなく、男爵令嬢であるメリーに入れ込んでいた。 レイシアにとって心安らぐのは、王城の庭園で第二王子であるリンドと語らう時間だけだった。 そんなある日、ついにロイスとの関係が終わりを迎える。 「レイシア、貴様との婚約を破棄する!」 第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください! 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

婚約破棄された令嬢の父親は最強?

岡暁舟
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢マリアの父親であるフレンツェルは世界最強と謳われた兵士だった。そんな彼が、不義理である婚約破棄に激怒して元婚約者である第一王子スミスに復讐する物語。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

処理中です...