とある情景 短編集

落ちこぼれ

濡れたアスファルトの匂いが梅雨の気配を感じさせる中、僕はうつむき加減で帰路についていた。
やけになっていた僕は傘もささず、降りしきる雨の中歩いていた。

右手に、閉じた傘をもったままずぶ濡れになっている様は、傍からみれば異様な光景だっただろう。
すれ違う人達の視線が痛かったが、僕は気にする余裕もなく、そして傘もさす余裕がないほど絶望していた。

やがて雨は止み、雲の切れ間から光が指し始めていた。
けれど俯いていた僕はそんな事にも気づかない。

気がついたのは、水溜りに映る自分の姿を見たときだ。
そこにはずぶ濡れになり、弱々しい表情の自分の姿があった。

なんて情けない姿なんだろう。
僕は誰にも必要とされていない。

何があったのか、それは想像におまかせするが、自分が必要のない人間だと思わせるだけの出来事にあったのだ。

僕は立ち止まり、水溜りに映る自分を眺めていた。
いや、その背後に映る幻に見とれていた。

憔悴した表情の後ろには大きな虹が出ていた。