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【彼視点】静かな毒
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君を完全に手に入れるための、僕の本当の戦いが始まった。
まずは、君が気晴らしに選んだ男を、盤上から取り除く必要があった。
僕は、後輩がよく通うカフェを静かに調べ、そこへ通い詰めた。彼が僕の顔を「常連」として認識するまで。そして、ある日、偶然を装って彼に声をかけた。
人懐っこいが単純な彼は、僕のことをすぐに「偶然出会った、格好良くて親切な年上の友人」として慕うようになった。もちろん、僕が君の元カレだとは、夢にも思っていない。
案の定、一ヶ月もすると、彼の顔には明らかに陰りが見え始めた。僕は、その瞬間を逃さなかった。
「最近、元気ないな。…もしかして、例の彼女と何かあった?」
僕がそう尋ねると、彼は堰を切ったように、君とのすれ違いを話し始めた。
僕は、親身な友人を演じながら、複数回の相談に乗る中で、彼の心をじわじわと蝕んでいった。
最初は、「きっと大丈夫だよ」と励ました。
二度目の相談では、「もしかしたら、元カレのこと、まだ少し引きずってるのかもね」と、小さな不安を植え付けた。
そして、彼が「彼女が僕のことを本当に好きなのか分からない」と弱音を吐いた、三度目の相談。
僕は、最大限に同情的な顔をして、決定的な言葉を告げた。
「辛いことを言うようだけど…。多分、その子は君自身じゃなくて、君の『優しさ』だけを必要としてるんじゃないか?」
彼が息を呑み、そして、しっかりと僕を見た。
彼らの関係が終わる、その直前。彼は僕に深々と頭を下げて、こう言ったんだ。
「色々、ありがとうございました。何度も話聞いてもらって…。おかげで、決心がつきました」
僕は気遣うような笑顔で「気にするなよ」と彼の肩を叩いた。
邪魔な存在は、取り除かれた。
あとは、傷つき、孤立した君を、僕が迎えに行くだけだ。
あの夜、居酒屋で君を見つけたのは、もちろん偶然ではない。
君が独りになり、限界を迎え、誰かに救いを求める日を、ずっと待っていたのだから。
僕の部屋に、君を連れ帰る。
別れた時と何も変わっていない部屋を、君はどこか不安げに見渡していた。
「そこに座ってて」
ソファを指差すと、君は言われるがまま、小さくなって腰掛けた。僕はキッチンへ向かい、これまでのように、君に温かいココアを淹れる。
君の前にマグカップを置くと、僕はささやいた。
「…好きだったよね」
その一言が、引き金だった。
君の瞳から、張り詰めていた何かがぷつりと切れ、大粒の涙が次々と溢れ出す。マグカップを持つ君の手が、痛々しいほど震えているのを、僕は冷静に見ていた。
(予定通りだ)
僕は心の中で、冷たく呟いた。壊れる寸前まで君を追い詰め、そして、最後に救いの手を差し伸べる。君が、僕なしではもう生きていけないと、心の底から理解するために。
僕は何も言わず、ティッシュの箱をテーブルにことりと置く。そして、少しだけ離れた場所に座り、君が泣き止むのを、静かに待った。
この涙が乾く頃には、君はもう、僕だけのものだ。
まずは、君が気晴らしに選んだ男を、盤上から取り除く必要があった。
僕は、後輩がよく通うカフェを静かに調べ、そこへ通い詰めた。彼が僕の顔を「常連」として認識するまで。そして、ある日、偶然を装って彼に声をかけた。
人懐っこいが単純な彼は、僕のことをすぐに「偶然出会った、格好良くて親切な年上の友人」として慕うようになった。もちろん、僕が君の元カレだとは、夢にも思っていない。
案の定、一ヶ月もすると、彼の顔には明らかに陰りが見え始めた。僕は、その瞬間を逃さなかった。
「最近、元気ないな。…もしかして、例の彼女と何かあった?」
僕がそう尋ねると、彼は堰を切ったように、君とのすれ違いを話し始めた。
僕は、親身な友人を演じながら、複数回の相談に乗る中で、彼の心をじわじわと蝕んでいった。
最初は、「きっと大丈夫だよ」と励ました。
二度目の相談では、「もしかしたら、元カレのこと、まだ少し引きずってるのかもね」と、小さな不安を植え付けた。
そして、彼が「彼女が僕のことを本当に好きなのか分からない」と弱音を吐いた、三度目の相談。
僕は、最大限に同情的な顔をして、決定的な言葉を告げた。
「辛いことを言うようだけど…。多分、その子は君自身じゃなくて、君の『優しさ』だけを必要としてるんじゃないか?」
彼が息を呑み、そして、しっかりと僕を見た。
彼らの関係が終わる、その直前。彼は僕に深々と頭を下げて、こう言ったんだ。
「色々、ありがとうございました。何度も話聞いてもらって…。おかげで、決心がつきました」
僕は気遣うような笑顔で「気にするなよ」と彼の肩を叩いた。
邪魔な存在は、取り除かれた。
あとは、傷つき、孤立した君を、僕が迎えに行くだけだ。
あの夜、居酒屋で君を見つけたのは、もちろん偶然ではない。
君が独りになり、限界を迎え、誰かに救いを求める日を、ずっと待っていたのだから。
僕の部屋に、君を連れ帰る。
別れた時と何も変わっていない部屋を、君はどこか不安げに見渡していた。
「そこに座ってて」
ソファを指差すと、君は言われるがまま、小さくなって腰掛けた。僕はキッチンへ向かい、これまでのように、君に温かいココアを淹れる。
君の前にマグカップを置くと、僕はささやいた。
「…好きだったよね」
その一言が、引き金だった。
君の瞳から、張り詰めていた何かがぷつりと切れ、大粒の涙が次々と溢れ出す。マグカップを持つ君の手が、痛々しいほど震えているのを、僕は冷静に見ていた。
(予定通りだ)
僕は心の中で、冷たく呟いた。壊れる寸前まで君を追い詰め、そして、最後に救いの手を差し伸べる。君が、僕なしではもう生きていけないと、心の底から理解するために。
僕は何も言わず、ティッシュの箱をテーブルにことりと置く。そして、少しだけ離れた場所に座り、君が泣き止むのを、静かに待った。
この涙が乾く頃には、君はもう、僕だけのものだ。
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