女性恐怖症を克服したおっさん、修行明けに貞操逆転異世界にブチ込まれる

歩く魚

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鬼神

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 セラフィーネは交渉に向かないと自分を評価したが、実際には、かなり強かだ。
 頭の中で、もしこの提案を断った場合の未来をいくつか並べてみた。どれも、リーネットを巻き込む危険性が高すぎる。
 ここで強情を張れば、たぶん本当に、彼女は俺を守るために無理をする。
 そして、誰かが――また、大切な誰かが、俺の目の前で傷つくかもしれない。

(……それだけは、絶対に嫌だ)

 ゆっくりと顔を上げ、答えを出せないでいるリーネットに頷く。
 すると、彼女は俺の意思を汲み取り、セラフィーネに言葉を告げた。

「……分かりました。その提案、受けます」

 彼女の声は少しだけ硬かった。
 セラフィーネは眉ひとつ動かさず、ただ頷く。

「それでは、私はこれから日用品を持ってくる。必要なものはあるか?」
「……へっ?」

 リーネットが目を丸くしたのも無理はなかった。
 今まさに、監視か拘束かの瀬戸際のような緊迫感だったというのに、セラフィーネはまるで、これからルームシェアを始めるかのような口ぶりだ。

「ま、待ってください。もしかして、ここで一緒に暮らすつもりですか……?」
「当然だろう。共同管理とは、そういうことだと理解しているが?」
「い、いえ、言葉の上ではそうですけど……!」

 リーネットがうろたえるのをよそに、セラフィーネは実に淡々としていた。
 もしかすると本当に、彼女はこれをただの観察の一環として捉えているのかもしれない。

「……じゃあ、私は掃除しておきます……」

 受け入れてしまったし、向こうに敵意がない以上、断ることはできない。
 リーネットが半ば呆然と呟き、箒を手に取る。
 セラフィーネはそれを横目に見て、こちらに一度だけ視線を投げた。

「バージル、貴様が取るに足らない男の中では見所があるのかもしれないが、それは上っ面だけに過ぎない。すぐに見抜くぞ」
「それでも構いません。俺も、あなたがどういう人なのか、見させてもらいます」

 突っぱねたつもりだったが、何故かセラフィーネは少し嬉しそうに口の端を吊り上げた。
 どこか満足げな表情。鋼のような意思の奥に、微かに隠された何かが見えた気がする。
 ……頬が赤く染まっているような、気のせいだろうか?

「少しは骨のあることを言うようだな」

 そう言い捨てて、彼女は軽やかに背を向けた。
 そのまま、扉の外へ出る。

「一刻もしないうちに戻る。寝床のスペースは空けておけよ」
「寝床の……えっ、セラフィーネ様!? 一緒に寝るつもりですか!? 本当に!? 私たち、寝るところ一つしか――」

 扉がばたんと閉じられた。
 リーネットの叫びは空しく、夜の風にかき消される。
 ――こうして、俺とリーネットとセラフィーネの、奇妙な共同生活が幕を開けた。
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