女性恐怖症を克服したおっさん、修行明けに貞操逆転異世界にブチ込まれる

歩く魚

文字の大きさ
35 / 44
鬼神

初体験2

しおりを挟む
   
「ど、どうだ……これが段階というものなのだろう? 理解すると、その、なんだ……恥ずかしいな」

 こちらからはよく見えないが、きっと、セラフィーネ様の顔は自信と羞恥の狭間で揺れ動いているのだろう。
 そして、彼女はゆっくりとバージルさんに近づいていく。

(――い、いやいやいやいやいや!)
 
 夜の散歩中に、偶然近くを通ったものだから、一応様子を見にきてみた。
 外観チェックだけのつもりだったのに、扉が半開きだったのだ。
 もしかしたら、彼に危険が迫っているのかもしれない。
 そう思い、抜き足差し足で様子を見にきたのだが……。

(ど、どどどどうしよう!? めっっっっちゃいい雰囲気!)
 
 さっきからバージルさんの声が甘い。
 セラフィーネ様の声はもっと甘い。
 何かとろけてる。空気がとろけてる。なんだこの密度!

(ち、違うの。私は心配して見に来ただけで――覗き見なんて――)
 
 全身から湯気が出そうだ。けど、目が逸らせない。
 セラフィーネ様が距離を詰める。
 指先が、彼の頬にそっと触れる。

「バージル。私を、受け止めてくれるか?」

 自分の喉が、ごくりと鳴るのが分かった。

「……はい。たぶん、ちゃんとはできないと思いますけど……でも、頑張ります」
「ふふっ、そういうところが、好きだ」

(い、言ったぁぁぁぁぁぁあぁあぁあ!)

 そのまま、二人は顔を近付けていき――。

(だ、だめだ。これ以上は見てはいけない)

 そうだ、ここからは二人だけの時間。
 まぁ、私は一応はバージルさんの妻候補だけど、本当は違う。
 だからこれは浮気でもなんでもないし、むしろ喜ぶべきことなんだ。
 胸が少し痛むのはきっと、性行為を経験できるセラフィーネ様が羨ましいからだ。
 しかし、それはアプローチを重ねた彼女に与えられた、ご褒美のようなもの。
 私が邪魔をするわけにはいかない。
 扉の向こうからは口付けの音が聞こえてくるが、今すぐ聞かなかったことにして帰――。

「――誰だッ!」

 セラフィーネ様の鋭い声が飛ぶ。一気に戦闘モードだ。

(あ、あぁああああ……! ばれたぁぁあ!)

 全身から冷や汗を噴き出す。
 まるで大罪を犯した罪人のように、私は扉の影に張り付いたまま凍りついていた。
 隠れてはいるが、バレるのは時間の問題。

(ど、どうすればいい!?)

 このまま素直に出て行ったらどうだろう。
 きっと、二人は私を見て――。

『煮るか。いや焼くか――』
『焼きましょう』

 ――そんな会話が交わされる未来が、はっきりと脳裏に浮かぶ。
 だからと言って、どれだけ走っても逃げ切れるわけがない。身体能力が違いすぎる。

(なら、私はどうすれば――)

 追い詰められた思考の隙間に、ふいにひらめきのようなものが落ちてくる。
 それはまるで稲妻のように――いや、もっと妙な、ズレた確信として胸の奥に染み込んできた。

(私も……混ざればいいんだ……)

 意味がわからない。きっと、私以外の全ての人はこう言うだろう。
 突拍子もない思考。
 言葉にしてしまえば、冗談だとしか思えない。
 でも、でも――この状況なら、あるいは。
 だって、よく考えてほしい。
 部屋の中の二人は、どちらも経験が浅い。むしろない。
 今の雰囲気だって、理性の境目をふらふらしてるような危うさだ。
 そこに突然、敵ではない、むしろ味方である私が加われば。
 
(この混沌。混乱。判断力の低下……いける。いけるかもしれない……!)

 もちろん、成功する保証なんてない。
 むしろ失敗すれば、さっきの「焼きましょう」の未来が確定する可能性すらある。
 それでも成功すれば、私も初体験できるというリターンがある。

(やる価値は……ある!)

 私の脳裏に浮かんだのは、勝者の笑みを浮かべたセラフィーネ様と、ぼんやり顔を赤らめるバージルさん、そしてその間にちゃっかり座っている私の姿。
 ……理性が引き返せと叫んでいる。
 でも、それ以上に――本能が、行けと言っている。
 私は深呼吸すると、姿を見せると同時に叫んだ。

「わ、私も――混ぜてくださぁぁぁぁぁぁい!」


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。 そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。 「アランくん。今日も来てくれたのね」 そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。 そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。 「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」 と相談すれば、 「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。 そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。 興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。 ようやく俺は気づいたんだ。 リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...