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蜜月
ブレンダの選択
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「はぁ、はぁ、はぁ・・・ま、まだなの?もう、意識が・・・」
補修の終わっていない耐毒スーツには、その空いた隙間から毒気が中へと染み込んでくる。
それらとスーツによって浄化された空気は混ざり合って、結果とし薄められた毒気を中の人間は吸うことになっていた。
それは即座に毒気にやられ意識を失うような状況にはなりはしないが、真綿で締めるように徐々に中の人間の意気を削いでいく。
荒い呼吸を続けているそのスーツを身に纏った人間、アレクシアの意識は吸い込み続けた毒気に、もはや朦朧という段階を過ぎていた。
その足取りはふらふらと彷徨うばかりで、前に進むのも覚束ない。
しかしアレクシアはそれを意志の力だけで、何とか前へと進み続けていたのだった。
「そんな、ここまで・・・来て・・・私は・・・」
それも限界を迎える。
霞んだ目で前を見つめ続けていたアレクシアも、そこに森の木々が映るばかりとなれば、やがて諦めの気持ちも芽生え始めてしまう。
そうした気持ちは、薄らいだ意識には致命傷にもなるだろう。
揺らいだ気持ちに縺れた足は彼女の身体を地面へと打ち付けて、二度とは立ち上がらせない。
周囲の地面を掴むようにしてもがく彼女も、その身体を再び持ち上げる力は既に残ってはいなかった。
「ごめんね、ブレンダ・・・」
急激に薄れていく意識に、彼女が最後に口にしたのは残していく妹の名前だった。
「・・・お姉様?」
そう唐突に呟き、彼方へと振り返ったブレンダは一体何を感じ取ったのか。
しかし少なくともその胸に去来した、得も言われぬ不安感は間違いないものであった。
「ブレンダ殿、どうかなされたのでござるか?」
「うぅん、何でもない。それよりダンカン、お姉様を見なかった?さっきから探してるんだけど、どこにも見当たらないの」
自らの所へやって来るなり、明後日の方角を見つめては何やら呟いているブレンダに、ダンカンは不思議そうにそう尋ねている。
彼の言葉に自らの胸に去来した不安を振り払うように首を振ったブレンダは、姉であるアレクシアの居場所を尋ねていた。
「アレクシア殿でござるか?それなら先ほどスーツを着込んで外に向かわれるのを見ましたが・・・」
「お姉様が外に!?どうして止めなかったの!!?」
アレクシアの居場所を尋ねるブレンダに、ダンカンは丁度先ほど見かけたと答えている。
その回答にブレンダは叫び声を上げると、ダンカンへと食って掛かっていた。
そんな彼女の反応に、ダンカンは訳が分からないと目を白黒とさせている。
「止めるも何も・・・もうスーツも直っておるのではござらんか?アラン殿が出て行かれた以上、もはや我々は彼女に頼るほかござらんし・・・止める訳にも」
「直ってないわよ!!それぐらい気付かなかったの!?あぁもう、だから頼りにならないって言うの!!」
「そんな、ではアレクシア殿はどうして・・・」
食って掛かってくるブレンダの反応に、ダンカンは驚きと戸惑いを見せるばかり。
何故なら彼は、アレクシアが直ったスーツを身に纏って外へと向かったと考えていたからだ。
それを否定するブレンダは、アレクシアを止めなかったダンカンに頭を抱えて嘆いていた。
「それで!お姉様はどこに向かわれたの!!連れ戻してこないと!!」
「それは例の遺跡に向かわれると・・・ま、待たれよブレンダ殿!?今、何と申されました!?」
ブレンダは勢いのままに、アレクシアが向かった先について尋ねている。
それに押されるままに答えたダンカンはしかし、決して聞き逃してはならない彼女の言葉を慌てて聞き返していた。
「決まってるでしょ!お姉様を連れ戻すって言ったのよ!!遺跡の探索なんてただでさえ危険なのに、不完全な装備で向かうなんて自殺行為だわ!!行って、連れ戻してこないと!!」
「そ、それは分かるでござるが・・・しかし我らはこの村から出ることなど出来ないではござらんか!それをどうなされるおつもりなのでござるか、ブレンダ殿!!」
ダンカンがそれを聞き返したのは、それを聞き逃したからではなく信じられなかったからだろう。
しかし彼のそんな希望も空しく、彼女は改めてはっきりとそれを告げていた。
自らでアレクシアを連れ戻すという、その決意を。
「スーツなら他にも何着か残ってる、それを使うだけよ」
「し、しかしですなブレンダ殿!そのスーツは、既に機能を失っているという話では!?まさか、わしの知らない生きたスーツが他にもまだあったのござるか!?」
自分達にこの村から出ることは不可能だと口にするダンカンに、ブレンダは耐毒スーツを着用すれば問題ないと返している。
それは確かに道理であったが、この村にはそのスーツはアレクシアが着用している一着しか残っていない筈であった。
「そんなのある訳ないでしょ!!機能が死んだスーツでも気休めにはなるわ!少しだけ外に出ても大丈夫なぐらいにはなる筈でしょ!」
「そ、それは無茶というものですぞブレンダ殿!!そんなスーツなど気休めにもならない、それはブレンダ殿が一番ご存じなはずではないですか!!そんなものを着込んで遺跡まで向かおうなど、土台無理な話ですぞ!!」
そしてそのダンカンの懸念は、どうやら間違いなかったらしい。
ブレンダはそんなスーツなど存在しないことを認めると、自分は機能の死んだスーツを着込んで外へと赴こうとしていること白状していた。
しかしそれは、どう考えても自殺行為だ。
確かに外気を遮断し、多少なりともスーツの内側へと空気を溜め込むことの出来るそれを着込めば、何もしないよりは外で活動することも出来るだろう。
事実ブレンダはそれを着込んで、村の近くに生えている薬草を収集することもあった。
しかし、それとこれとは話が違う。
村から遺跡までは距離があるし、何よりそこにはそれ相応の危険が待っているだろう。
そんな場所に、不完全な装備で向かうなど自殺行為に他ならないからだ。
「そんなの分かってるわよ!!私が一人で遺跡に向かったって、お姉様は連れ帰ってこれない・・・でも、それが出来る奴が一人いるでしょ?私はそいつに話をつけに行くのよ!」
「そんなことが出来る人間が・・・?ま、まさかブレンダ殿!?」
それはブレンダも理解している。
彼女はどうやら遺跡に向かうのではなく、別の場所に向かうことでアレクシアを連れ戻そうと考えているようだった。
「ふふん、そのまさかよ!あいつに・・・アランにお姉様を連れ戻させるの!!あいつならそれくらい、訳ない筈でしょう?」
その人物とは、アラン・ブレイクその人だ。
こんな世界でも何不自由なく出歩くことが出来、その能力を十全に発揮できる彼ならば、遺跡に向かったアレクシアを連れ戻すことも可能だろう。
そうブレンダは、自信満々に言い切っている。
「し、しかしですなブレンダ殿!彼とはその・・・喧嘩別れをしたばかりで、はたして引き受けてくれるでござろうか?」
しかしそれには、明らかな見落としが一つ存在した。
それはアランが、それを引き受けてくれるのかという事であった。
彼とは喧嘩別れし、この村を出て行かれたばかりなのだ。
そんな彼が危険を冒してまで、アレクシアの救出という仕事を請け負ってくれるとは思えない。
「・・・他に方法があるの?」
「そ、それはそうでござるが・・・しかしですな、余りに見込みが低すぎるのではござらんか?それに危険を冒すのは、正直どうかと・・・」
「何もしなければ、お姉様を失うだけでしょう!!だったら見込みが薄くても、とにかくやるの!それに・・・」
見込みが薄くとも、ブレンダはとにかくやると言って聞かない。
それはそれ以外に、彼女を救出する手段が考えられないからであった。
そんな彼女を何とか引き留めようとするダンカンに、ブレンダは何か考えるように顎へと手をやっていた。
「それに・・・何ですかな、ブレンダ殿?」
「うぅん、何でもない。それより急ぐわよ!!早くしないと、お姉様が!!」
ブレンダが口にした意味深な言葉を、ダンカンも聞き逃してはいない。
しかし彼にそれを問われたブレンダは、首を横に振ってはそれを誤魔化すと、こんな事している時間も惜しいと駆け出していた。
「ま、待ってくだされブレンダ殿!!せめて、わしだけでもお供を!!」
「無理に決まってるでしょ!!あんたみたいな無駄にでかい図体をしまえるようなスーツなんて、ないに決まってるじゃない!!」
「そ、そんなぁ・・・」
足早に立ち去っていくブレンダを慌てて追いかけるダンカンは、せめて自分だけでも彼女についていこうと追い縋っている。
しかし彼のような巨体の持ち主が着用出来る耐毒スーツは、この村には残されていない。
それすらも着こまずに村の外へと赴くのは、もはや自殺行為を超えてただの自殺となってしまう。
それを知らされたダンカンを情けない声を上げながらも、彼女の背中を追いかけ続けていた。
それからブレンダがこの村の門を潜り外へと向かうまでに、そう長い時間は掛からなかった。
補修の終わっていない耐毒スーツには、その空いた隙間から毒気が中へと染み込んでくる。
それらとスーツによって浄化された空気は混ざり合って、結果とし薄められた毒気を中の人間は吸うことになっていた。
それは即座に毒気にやられ意識を失うような状況にはなりはしないが、真綿で締めるように徐々に中の人間の意気を削いでいく。
荒い呼吸を続けているそのスーツを身に纏った人間、アレクシアの意識は吸い込み続けた毒気に、もはや朦朧という段階を過ぎていた。
その足取りはふらふらと彷徨うばかりで、前に進むのも覚束ない。
しかしアレクシアはそれを意志の力だけで、何とか前へと進み続けていたのだった。
「そんな、ここまで・・・来て・・・私は・・・」
それも限界を迎える。
霞んだ目で前を見つめ続けていたアレクシアも、そこに森の木々が映るばかりとなれば、やがて諦めの気持ちも芽生え始めてしまう。
そうした気持ちは、薄らいだ意識には致命傷にもなるだろう。
揺らいだ気持ちに縺れた足は彼女の身体を地面へと打ち付けて、二度とは立ち上がらせない。
周囲の地面を掴むようにしてもがく彼女も、その身体を再び持ち上げる力は既に残ってはいなかった。
「ごめんね、ブレンダ・・・」
急激に薄れていく意識に、彼女が最後に口にしたのは残していく妹の名前だった。
「・・・お姉様?」
そう唐突に呟き、彼方へと振り返ったブレンダは一体何を感じ取ったのか。
しかし少なくともその胸に去来した、得も言われぬ不安感は間違いないものであった。
「ブレンダ殿、どうかなされたのでござるか?」
「うぅん、何でもない。それよりダンカン、お姉様を見なかった?さっきから探してるんだけど、どこにも見当たらないの」
自らの所へやって来るなり、明後日の方角を見つめては何やら呟いているブレンダに、ダンカンは不思議そうにそう尋ねている。
彼の言葉に自らの胸に去来した不安を振り払うように首を振ったブレンダは、姉であるアレクシアの居場所を尋ねていた。
「アレクシア殿でござるか?それなら先ほどスーツを着込んで外に向かわれるのを見ましたが・・・」
「お姉様が外に!?どうして止めなかったの!!?」
アレクシアの居場所を尋ねるブレンダに、ダンカンは丁度先ほど見かけたと答えている。
その回答にブレンダは叫び声を上げると、ダンカンへと食って掛かっていた。
そんな彼女の反応に、ダンカンは訳が分からないと目を白黒とさせている。
「止めるも何も・・・もうスーツも直っておるのではござらんか?アラン殿が出て行かれた以上、もはや我々は彼女に頼るほかござらんし・・・止める訳にも」
「直ってないわよ!!それぐらい気付かなかったの!?あぁもう、だから頼りにならないって言うの!!」
「そんな、ではアレクシア殿はどうして・・・」
食って掛かってくるブレンダの反応に、ダンカンは驚きと戸惑いを見せるばかり。
何故なら彼は、アレクシアが直ったスーツを身に纏って外へと向かったと考えていたからだ。
それを否定するブレンダは、アレクシアを止めなかったダンカンに頭を抱えて嘆いていた。
「それで!お姉様はどこに向かわれたの!!連れ戻してこないと!!」
「それは例の遺跡に向かわれると・・・ま、待たれよブレンダ殿!?今、何と申されました!?」
ブレンダは勢いのままに、アレクシアが向かった先について尋ねている。
それに押されるままに答えたダンカンはしかし、決して聞き逃してはならない彼女の言葉を慌てて聞き返していた。
「決まってるでしょ!お姉様を連れ戻すって言ったのよ!!遺跡の探索なんてただでさえ危険なのに、不完全な装備で向かうなんて自殺行為だわ!!行って、連れ戻してこないと!!」
「そ、それは分かるでござるが・・・しかし我らはこの村から出ることなど出来ないではござらんか!それをどうなされるおつもりなのでござるか、ブレンダ殿!!」
ダンカンがそれを聞き返したのは、それを聞き逃したからではなく信じられなかったからだろう。
しかし彼のそんな希望も空しく、彼女は改めてはっきりとそれを告げていた。
自らでアレクシアを連れ戻すという、その決意を。
「スーツなら他にも何着か残ってる、それを使うだけよ」
「し、しかしですなブレンダ殿!そのスーツは、既に機能を失っているという話では!?まさか、わしの知らない生きたスーツが他にもまだあったのござるか!?」
自分達にこの村から出ることは不可能だと口にするダンカンに、ブレンダは耐毒スーツを着用すれば問題ないと返している。
それは確かに道理であったが、この村にはそのスーツはアレクシアが着用している一着しか残っていない筈であった。
「そんなのある訳ないでしょ!!機能が死んだスーツでも気休めにはなるわ!少しだけ外に出ても大丈夫なぐらいにはなる筈でしょ!」
「そ、それは無茶というものですぞブレンダ殿!!そんなスーツなど気休めにもならない、それはブレンダ殿が一番ご存じなはずではないですか!!そんなものを着込んで遺跡まで向かおうなど、土台無理な話ですぞ!!」
そしてそのダンカンの懸念は、どうやら間違いなかったらしい。
ブレンダはそんなスーツなど存在しないことを認めると、自分は機能の死んだスーツを着込んで外へと赴こうとしていること白状していた。
しかしそれは、どう考えても自殺行為だ。
確かに外気を遮断し、多少なりともスーツの内側へと空気を溜め込むことの出来るそれを着込めば、何もしないよりは外で活動することも出来るだろう。
事実ブレンダはそれを着込んで、村の近くに生えている薬草を収集することもあった。
しかし、それとこれとは話が違う。
村から遺跡までは距離があるし、何よりそこにはそれ相応の危険が待っているだろう。
そんな場所に、不完全な装備で向かうなど自殺行為に他ならないからだ。
「そんなの分かってるわよ!!私が一人で遺跡に向かったって、お姉様は連れ帰ってこれない・・・でも、それが出来る奴が一人いるでしょ?私はそいつに話をつけに行くのよ!」
「そんなことが出来る人間が・・・?ま、まさかブレンダ殿!?」
それはブレンダも理解している。
彼女はどうやら遺跡に向かうのではなく、別の場所に向かうことでアレクシアを連れ戻そうと考えているようだった。
「ふふん、そのまさかよ!あいつに・・・アランにお姉様を連れ戻させるの!!あいつならそれくらい、訳ない筈でしょう?」
その人物とは、アラン・ブレイクその人だ。
こんな世界でも何不自由なく出歩くことが出来、その能力を十全に発揮できる彼ならば、遺跡に向かったアレクシアを連れ戻すことも可能だろう。
そうブレンダは、自信満々に言い切っている。
「し、しかしですなブレンダ殿!彼とはその・・・喧嘩別れをしたばかりで、はたして引き受けてくれるでござろうか?」
しかしそれには、明らかな見落としが一つ存在した。
それはアランが、それを引き受けてくれるのかという事であった。
彼とは喧嘩別れし、この村を出て行かれたばかりなのだ。
そんな彼が危険を冒してまで、アレクシアの救出という仕事を請け負ってくれるとは思えない。
「・・・他に方法があるの?」
「そ、それはそうでござるが・・・しかしですな、余りに見込みが低すぎるのではござらんか?それに危険を冒すのは、正直どうかと・・・」
「何もしなければ、お姉様を失うだけでしょう!!だったら見込みが薄くても、とにかくやるの!それに・・・」
見込みが薄くとも、ブレンダはとにかくやると言って聞かない。
それはそれ以外に、彼女を救出する手段が考えられないからであった。
そんな彼女を何とか引き留めようとするダンカンに、ブレンダは何か考えるように顎へと手をやっていた。
「それに・・・何ですかな、ブレンダ殿?」
「うぅん、何でもない。それより急ぐわよ!!早くしないと、お姉様が!!」
ブレンダが口にした意味深な言葉を、ダンカンも聞き逃してはいない。
しかし彼にそれを問われたブレンダは、首を横に振ってはそれを誤魔化すと、こんな事している時間も惜しいと駆け出していた。
「ま、待ってくだされブレンダ殿!!せめて、わしだけでもお供を!!」
「無理に決まってるでしょ!!あんたみたいな無駄にでかい図体をしまえるようなスーツなんて、ないに決まってるじゃない!!」
「そ、そんなぁ・・・」
足早に立ち去っていくブレンダを慌てて追いかけるダンカンは、せめて自分だけでも彼女についていこうと追い縋っている。
しかし彼のような巨体の持ち主が着用出来る耐毒スーツは、この村には残されていない。
それすらも着こまずに村の外へと赴くのは、もはや自殺行為を超えてただの自殺となってしまう。
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