3 / 231
Chapter 3: 会社
しおりを挟む
週の半ばにはミーティングも立て続けにあり、忙しかったが、体調を壊すこと無く過ごせた。
忙しい一週間はあっという間に過ぎる。
あんなに長く感じた月曜から、今日はもう金曜日。金曜日はノー残業デー辞令のお陰で残業無しだ。
染谷とのコーヒーブレイクは今週2回程しかできなかったが、早く平日が終わっていくのは有難い。
俺はカバンに必要なものを入れて、お先でーす、と会社を出た。
駐車場へ向かう途中楽しそうな塊をちらほら見る。金曜日だからな、みんな飲み会か…
俺は社交的に見えて、実は劇的に人見知りだ。知らない人とも話すのが苦手だ。あまり飲み会には誘われない。
この人見知りとしゃべり下手をなんとかしたいと思うが、改善方法は思いつかない。
おしゃべりが上手くなると言う類の本だって何冊も読んで見たが実践では本通りには実行出来なかった。
本通りにことが進めば、カウンセラーは必要ないのだ。
飲み会に行けば目の事を根掘り葉掘り聞かれるので、慣れているがやはり気を使うし、
入社時に女性社員からは何かしらいつも目を覗き込まれて不愉快な思いをした事が多かった。
彼女達に悪気はなく、ただ珍しいだけだったろうが、あまりいい気分はしない。
一度中学生の時に同じクラスの好きだった女子に、目が綺麗だねと手をぎゅっと握られ、
恋に落ち、告白して付き合うことになったが長続きしなかった。
彼女には綺麗に見えても、結局自分自身は普通ではない容姿による視線で、彼女までが異色扱いされる事にも耐えれなかった。
俺の家庭環境が最悪なのが一番の原因だったが…。
そういやその子とはキスしておきたかった。俺の初キスはその後別の誰かに奪われている。それをキスと呼ぶならば…。
社会人になり、じっと目を見つめてくる女性相手に、もてているという勘違いを起こして、痛い目にあったこともある。
好意と好奇は随分違うものだと再度烙印を押された気分だった。
故に勘違いをしまいと女性に対しては少し警戒して接するようにしている。後で辛いのは自分自身なのだから。
そんな事も重なり、俺と仲が良いのは片手の指で十分な人数となり、女性で唯一俺を色眼鏡で見ないのは俺の先輩、東さんだけである。
今日もスーパーでビールとおつまみ買って自宅飲みコースだな…と横目で楽しそうな団体を横目に少し寂しく感じながら自分の車へ向かう。
「おい、鹿波!お前も今日飲み会来ないか?」
車のドアに手をかけた俺に後ろから上司が声を掛けてきた。
「課長、お疲れ様です。はい、もともと誘われてなかった会でしたし、課長も今日車なんですよね?」
「おお、でも俺一旦帰ってまた駅繰り出すわ。お前も来ないか?出張から帰ってきた中野が来るらしいし」
課長は真面目なやりやすい上司だと思う。
「でも、俺も車なんですよね、一旦帰ってるとすげー遅くなるし…」
ここで俺は断ろうとする。寂しいのにだ。寂しいより煩わしいが勝ってしまうのである。
それに実質面倒だ。それなら昨日以前に声をかけて欲しかった。人が足りなくなっただけで呼ばれたのであれば只の人数合わせかもしれない。
それでは俺のつまらないプライドが傷ついてしまう。俺のいじっぱりと人見知りはいつでも俺の生き方にマイナスな方向へ働く。
「そうか、中野、お前と話したがってたから、聞いてくれって頼まれてな。しゃあないな、じゃまた来週な」
「はい、お疲れ様です。」
俺はホッとしたような、寂しいような気持ちで車に乗り込んだ。3月の車の中はまだ寒い。
エンジンを掛けてラジオをかける。車が温まるまで待とうか、もう発進してしまおうか、迷っていると携帯が鳴った。
メールだ。中野という名前と文面が見える。
『今日来ないって、今課長から連絡あった。ほんとに来ないのか?残念』
中野は俺の同期だ。そして俺を好奇の目で見てくる。染谷にも絡んでくる。
入社して2年目に尋問の様な質問は始まった。何故かはわからないがいつも話しかけて来て、根掘り葉掘り聞いてくる。
それからはいつ会っても、お前の目にはどういう風に世界が見えるのだとか————。
何度も同じように『普通に見えてるよ、ブルーアイズの人たちには、世の中がブルーに見えてるわけじゃないのはわかるよな?』
としつこい彼に嫌気プンプンに匂わせて説明しても何度でも話を振ってくるのだ。
俺の苦手なタイプだが、話しかけてくれるのは、慕ってくれているのではないかとも思うし…
友人のあまりいない俺には有難い筈の存在なのだが、あまり近寄りたくない感じがする。
緑目のフィルターは作用していないし、嫌われてはいないはず。
でも染谷が最近彼を苦手としているので、距離を置くのがベストだと思う。
染谷は冷静かつ平等に人を見ている。彼の判断に沿った行動は吉と出ることが多い。
返事はしない事にしよう。すまんな、中野。そう考えて信号待ちで手にした携帯をカバンの中に戻した。
忙しい一週間はあっという間に過ぎる。
あんなに長く感じた月曜から、今日はもう金曜日。金曜日はノー残業デー辞令のお陰で残業無しだ。
染谷とのコーヒーブレイクは今週2回程しかできなかったが、早く平日が終わっていくのは有難い。
俺はカバンに必要なものを入れて、お先でーす、と会社を出た。
駐車場へ向かう途中楽しそうな塊をちらほら見る。金曜日だからな、みんな飲み会か…
俺は社交的に見えて、実は劇的に人見知りだ。知らない人とも話すのが苦手だ。あまり飲み会には誘われない。
この人見知りとしゃべり下手をなんとかしたいと思うが、改善方法は思いつかない。
おしゃべりが上手くなると言う類の本だって何冊も読んで見たが実践では本通りには実行出来なかった。
本通りにことが進めば、カウンセラーは必要ないのだ。
飲み会に行けば目の事を根掘り葉掘り聞かれるので、慣れているがやはり気を使うし、
入社時に女性社員からは何かしらいつも目を覗き込まれて不愉快な思いをした事が多かった。
彼女達に悪気はなく、ただ珍しいだけだったろうが、あまりいい気分はしない。
一度中学生の時に同じクラスの好きだった女子に、目が綺麗だねと手をぎゅっと握られ、
恋に落ち、告白して付き合うことになったが長続きしなかった。
彼女には綺麗に見えても、結局自分自身は普通ではない容姿による視線で、彼女までが異色扱いされる事にも耐えれなかった。
俺の家庭環境が最悪なのが一番の原因だったが…。
そういやその子とはキスしておきたかった。俺の初キスはその後別の誰かに奪われている。それをキスと呼ぶならば…。
社会人になり、じっと目を見つめてくる女性相手に、もてているという勘違いを起こして、痛い目にあったこともある。
好意と好奇は随分違うものだと再度烙印を押された気分だった。
故に勘違いをしまいと女性に対しては少し警戒して接するようにしている。後で辛いのは自分自身なのだから。
そんな事も重なり、俺と仲が良いのは片手の指で十分な人数となり、女性で唯一俺を色眼鏡で見ないのは俺の先輩、東さんだけである。
今日もスーパーでビールとおつまみ買って自宅飲みコースだな…と横目で楽しそうな団体を横目に少し寂しく感じながら自分の車へ向かう。
「おい、鹿波!お前も今日飲み会来ないか?」
車のドアに手をかけた俺に後ろから上司が声を掛けてきた。
「課長、お疲れ様です。はい、もともと誘われてなかった会でしたし、課長も今日車なんですよね?」
「おお、でも俺一旦帰ってまた駅繰り出すわ。お前も来ないか?出張から帰ってきた中野が来るらしいし」
課長は真面目なやりやすい上司だと思う。
「でも、俺も車なんですよね、一旦帰ってるとすげー遅くなるし…」
ここで俺は断ろうとする。寂しいのにだ。寂しいより煩わしいが勝ってしまうのである。
それに実質面倒だ。それなら昨日以前に声をかけて欲しかった。人が足りなくなっただけで呼ばれたのであれば只の人数合わせかもしれない。
それでは俺のつまらないプライドが傷ついてしまう。俺のいじっぱりと人見知りはいつでも俺の生き方にマイナスな方向へ働く。
「そうか、中野、お前と話したがってたから、聞いてくれって頼まれてな。しゃあないな、じゃまた来週な」
「はい、お疲れ様です。」
俺はホッとしたような、寂しいような気持ちで車に乗り込んだ。3月の車の中はまだ寒い。
エンジンを掛けてラジオをかける。車が温まるまで待とうか、もう発進してしまおうか、迷っていると携帯が鳴った。
メールだ。中野という名前と文面が見える。
『今日来ないって、今課長から連絡あった。ほんとに来ないのか?残念』
中野は俺の同期だ。そして俺を好奇の目で見てくる。染谷にも絡んでくる。
入社して2年目に尋問の様な質問は始まった。何故かはわからないがいつも話しかけて来て、根掘り葉掘り聞いてくる。
それからはいつ会っても、お前の目にはどういう風に世界が見えるのだとか————。
何度も同じように『普通に見えてるよ、ブルーアイズの人たちには、世の中がブルーに見えてるわけじゃないのはわかるよな?』
としつこい彼に嫌気プンプンに匂わせて説明しても何度でも話を振ってくるのだ。
俺の苦手なタイプだが、話しかけてくれるのは、慕ってくれているのではないかとも思うし…
友人のあまりいない俺には有難い筈の存在なのだが、あまり近寄りたくない感じがする。
緑目のフィルターは作用していないし、嫌われてはいないはず。
でも染谷が最近彼を苦手としているので、距離を置くのがベストだと思う。
染谷は冷静かつ平等に人を見ている。彼の判断に沿った行動は吉と出ることが多い。
返事はしない事にしよう。すまんな、中野。そう考えて信号待ちで手にした携帯をカバンの中に戻した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
fall~獣のような男がぼくに歓びを教える
乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。
強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。
濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。
※エブリスタで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる