オッドアイの守り人

小鷹りく

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Chapter 3: 会社

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週の半ばにはミーティングも立て続けにあり、忙しかったが、体調を壊すこと無く過ごせた。

忙しい一週間はあっという間に過ぎる。

 あんなに長く感じた月曜から、今日はもう金曜日。金曜日はノー残業デー辞令のお陰で残業無しだ。

 染谷とのコーヒーブレイクは今週2回程しかできなかったが、早く平日が終わっていくのは有難い。

 俺はカバンに必要なものを入れて、お先でーす、と会社を出た。


 駐車場へ向かう途中楽しそうな塊をちらほら見る。金曜日だからな、みんな飲み会か…


 俺は社交的に見えて、実は劇的に人見知りだ。知らない人とも話すのが苦手だ。あまり飲み会には誘われない。


この人見知りとしゃべり下手をなんとかしたいと思うが、改善方法は思いつかない。


 おしゃべりが上手くなると言う類の本だって何冊も読んで見たが実践では本通りには実行出来なかった。


 本通りにことが進めば、カウンセラーは必要ないのだ。


 飲み会に行けば目の事を根掘り葉掘り聞かれるので、慣れているがやはり気を使うし、


入社時に女性社員からは何かしらいつも目を覗き込まれて不愉快な思いをした事が多かった。


 彼女達に悪気はなく、ただ珍しいだけだったろうが、あまりいい気分はしない。


 一度中学生の時に同じクラスの好きだった女子に、目が綺麗だねと手をぎゅっと握られ、


恋に落ち、告白して付き合うことになったが長続きしなかった。



 彼女には綺麗に見えても、結局自分自身は普通ではない容姿による視線で、彼女までが異色扱いされる事にも耐えれなかった。


 俺の家庭環境が最悪なのが一番の原因だったが…。


そういやその子とはキスしておきたかった。俺の初キスはその後別の誰かに奪われている。それをキスと呼ぶならば…。
 


  社会人になり、じっと目を見つめてくる女性相手に、もてているという勘違いを起こして、痛い目にあったこともある。


好意と好奇は随分違うものだと再度烙印を押された気分だった。


 故に勘違いをしまいと女性に対しては少し警戒して接するようにしている。後で辛いのは自分自身なのだから。


 そんな事も重なり、俺と仲が良いのは片手の指で十分な人数となり、女性で唯一俺を色眼鏡で見ないのは俺の先輩、東さんだけである。


 今日もスーパーでビールとおつまみ買って自宅飲みコースだな…と横目で楽しそうな団体を横目に少し寂しく感じながら自分の車へ向かう。



「おい、鹿波!お前も今日飲み会来ないか?」


 車のドアに手をかけた俺に後ろから上司が声を掛けてきた。


「課長、お疲れ様です。はい、もともと誘われてなかった会でしたし、課長も今日車なんですよね?」


「おお、でも俺一旦帰ってまた駅繰り出すわ。お前も来ないか?出張から帰ってきた中野が来るらしいし」


 課長は真面目なやりやすい上司だと思う。


「でも、俺も車なんですよね、一旦帰ってるとすげー遅くなるし…」


 ここで俺は断ろうとする。寂しいのにだ。寂しいより煩わしいが勝ってしまうのである。


 それに実質面倒だ。それなら昨日以前に声をかけて欲しかった。人が足りなくなっただけで呼ばれたのであれば只の人数合わせかもしれない。

それでは俺のつまらないプライドが傷ついてしまう。俺のいじっぱりと人見知りはいつでも俺の生き方にマイナスな方向へ働く。


「そうか、中野、お前と話したがってたから、聞いてくれって頼まれてな。しゃあないな、じゃまた来週な」


「はい、お疲れ様です。」


 俺はホッとしたような、寂しいような気持ちで車に乗り込んだ。3月の車の中はまだ寒い。


エンジンを掛けてラジオをかける。車が温まるまで待とうか、もう発進してしまおうか、迷っていると携帯が鳴った。


メールだ。中野という名前と文面が見える。


『今日来ないって、今課長から連絡あった。ほんとに来ないのか?残念』



 中野は俺の同期だ。そして俺を好奇の目で見てくる。染谷にも絡んでくる。


 入社して2年目に尋問の様な質問は始まった。何故かはわからないがいつも話しかけて来て、根掘り葉掘り聞いてくる。


それからはいつ会っても、お前の目にはどういう風に世界が見えるのだとか————。


 何度も同じように『普通に見えてるよ、ブルーアイズの人たちには、世の中がブルーに見えてるわけじゃないのはわかるよな?』


としつこい彼に嫌気プンプンに匂わせて説明しても何度でも話を振ってくるのだ。


 俺の苦手なタイプだが、話しかけてくれるのは、慕ってくれているのではないかとも思うし…


友人のあまりいない俺には有難い筈の存在なのだが、あまり近寄りたくない感じがする。


緑目のフィルターは作用していないし、嫌われてはいないはず。


でも染谷が最近彼を苦手としているので、距離を置くのがベストだと思う。


 染谷は冷静かつ平等に人を見ている。彼の判断に沿った行動は吉と出ることが多い。


返事はしない事にしよう。すまんな、中野。そう考えて信号待ちで手にした携帯をカバンの中に戻した。
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