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Chapter 28 ワカメ
しおりを挟む「では早速鍛錬を始めましょうか。」
染谷父が言うと皆彼の指示通り移動した。
だだっ広い道場の真ん中で、正座をした四人の大人はそれぞれ両手をそろえてお辞儀をする。
『お願いいたします。』
染谷父が指南する。
「では、海静様はあちらへ、中野は5m離れたあちらへ立ちなさい。」
言われたとおり、俺は指示された場所に立ち、中野は俺の真正面5m先に立つ。
「海静様、お手数ですが中野が腹を立てるよう罵詈雑言で彼を罵っていただけますでしょうか?言霊を汚して申し訳ないのですが、彼から貴方への嫌悪感を引き出します。」
「え?―――はい…。」
いきなり罵詈雑言を吐けと言われても…。中野のことは苦手だが別にそんなに嫌いって訳でも…。まぁとりあえず…。文句を言って訓練になるならいいか。
「バーカ!このアンポンタン。図体だけでかいでくの坊!!お前の母ちゃんデベソ!」
我ながら子供が言うような悪口で恥ずかしい…。誤謬のなさが露見してしまった。
中野も同じ事を思ったようだ。聞きながら、笑っている。そうだよな、こんな事で腹を立てる大人は居ないよな。。
染谷息子が俺に耳打ちをした。
『中野は頭の回転が遅い事を揶揄されると激怒します。また柔術の練習で私に何度もおとされています。彼にとっては辱めとなる触ってほしくない内容です。特に私の前では』
俺はせせら笑っている中野に再度挑戦する。
「おい、中野、お前染谷に何度も柔術の技かけられておちたんだって?情けないな!そんな染谷の1.5倍もあるような体して、お頭おつむも勝てなけりゃ、柔術も負けてるなんて、本当にでくの坊じゃねぇえか?!」
どうだ、これは効いたんじゃねぇか?
さすがにむぅっとしてきた顔をしてきた。緑のフィルターがぼんやり浮かんでくる。
「どうですか?緑に見えますか?」
染谷父が聞く。
「うーん、見えるんだけど、すごく薄っすら見えるだけだから、激怒って感じじゃないですね。」
「左様ですか、それではさらに追い討ちをお願い致します。」
これが効くかどうかわからないけど、それじゃぁ…
「お前の存在は鬱陶しかったんだ。何度も俺と染谷のコーヒータイムに邪魔しにきやがって、どう見えるだの何が見えるだの!ほっといてくれよ!お前みたいな低脳な人間に俺が守れるなんて思えねぇえなぁあ!!俺には染谷だけで十分なんだよぉ!!とっとと失せやがれ!!」
これでどうだ。俺の癒しタイムをいつも邪魔してきていたのは事実だから多少なりとも心がこもった罵詈雑言だったと我ながら思うのだが。
中野が軽く怒りで震えだした。緑がどんどん濃くなっていく!
『あ~あ、本当に嫌われるじゃん、俺』
そして自分への罪悪感もすごい。中野は俺を守るためにいつも柔術で体を鍛えたりしているんだし、出張だって俺の親父の情報調査だ。今のは辛いよな…。
「海静様、中野の色はどうなりました?憤慨しているように見受けられますが。」
「うん、完璧俺に嫌悪感か怒りを覚えていると思う。ほうれん草ほどに緑だ。」
やっと能力の訓練が出来るが、これを毎回するのは彼の心にも俺の心にも悪い気がするぞ。
「では、その緑をどんどん濃くしていくようにイメージして下さい。」
イメージして下さいって言われてもなぁ。緑を濃く、緑を濃く、濃く…。
「う~ん。ほうれん草より濃い緑って何だ?―――ワカメだ!」
『ワカメ・ワカメ・ワカメ・ワカメ~~~!!!!!』
心の中でわかめの色をイメージして中野をその色で塗りつぶすように目に力を入れてみた。
ワカメってほとんど黒だよな…と目に力を入れながら思うと黒くなっていく。
黒はイメージするのが簡単で、どんどん真っ黒になっていく。
真っ黒な色が中野を包む。黒いフィルターで包まれて、中野の肉体自体が真っ黒になってしまった時、中野はその場でバタンと倒れた。
「やばい!黒をイメージしちゃったよ!」
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