87 / 231
第二部 オッドアイの行方ー失われた記憶を求めて
フィクサー
しおりを挟む
ジェスに引っ張られながら俺はオフィスに戻った。
鍵はジェスが開けてくれてる。まだ客も来ていなかった。胃がムカムカして頭もガンガンする。こんなに飲み過ぎたのはいつぶりだろう…二日酔いってこんなに苦しかったっけ?
「ジェス…。薬…頼む…。」
「わかった。ちょっと待ってて。」
十二歳の少女に世話を焼いてもらって申し訳ない。俺はどこに居ても世話を焼かれる、いや焼かせているのか?
ジェスがオフィスに置いてある薬箱の中から錠剤の薬を出して、水を持って来てくれた。
「ありがとう…。」
「どういたしまして。もうすぐ来客だよ。仕事出来る?」
「あぁ、何とか…。多分…。」
「はぁ…。」
信じられないと言う風に彼女は肩を竦めた。呆れるわな、そりゃ。ギリギリの生活の中で滅多に来ない客なのにそれを危うくふいにするところだったし。
服は昨日の服。ヨレヨレ、シワシワのままだが、髪の毛を縛り、カツラを被り、枠の太い眼鏡をかければ胡散臭いフィクサー=“便利屋”の出来上がりだ。
十時を十分程過ぎて、オフィスのドアはノックされた。
「はい、どうぞー。」
ジェスがドアを開けてくれる。
サングラスをかけた黒い長髪のアジア人女性が、体の線丸出しなタイトワンピースに身を包んで立っていた。
「カイというフィクサーがいる事務所、ここで合ってる?」
「ええ、合ってますよ。ミセス・ダオですね?」
「あなた…、子供じゃない?」
「助手です。」
「あなたが?」
「ええ。」
「帰らせてもらいます。」
「ちょ、ちょっと待って。私はただ雑用をしているだけで仕事に関わったりはしないんです。どうぞ、中へ。」
焦ってジェスは彼女を中へ引っ張る。ダオ夫人はサングラスを掛けたまま入って来た。カバンはブランド品。靴にもブランドロゴが入ってる。富裕層だろう。
「おはよう、ございます…。ミセス・ダオ。」
酒で喉が焼けて声が出にくい。
「おはよう。貴方がフィクサー?」
「ええ、どうぞ、座ってください。」
ガンガンする頭はさっきより少しマシになってきた。薬のお陰だな。いやジェシカ様様だ。
「今回の依頼内容を聞かせて頂けますか?一応浮気のご相談とお聞きしておりますが。」
「ええ…。あら、貴方…眼の色が違うのね?」
彼女はサングラスを外してじっと俺の眼を見た。
「はい。これコンタクトなんですよ。かっこいいでしょう?変装です。髪もカツラですよ。素性がバレると動きにくいので。」
俺はつらつらと嘘を並べる。銀髪でオッドアイと知れたらあっという間に特徴が結びついて逃げ場をなくしてしまう。用意周到にしていて損はない。
夫人はなんだ、と詰まらなそうにして本題に入った。
「あなた、何でもしてくれるんですよね?夫の浮気をどうにかして欲しいんです。何度喧嘩しても治らなくて。それも二人。探偵に調べて貰ったんだけど、結局別れさせるのは無理だったの。彼はお金持ちだから愛人達も別れたくないと言い張って…。彼のことを愛しているし、離婚もしたくないけど、浮気が許せない。どうにかしたくて…」
「浮気はいけませんね。私ならあなたのご主人の愛人達を二度と彼に近づけなく出来ますよ。そして報酬次第では彼の浮気性も治すことが可能です。」
「本当に?!治せるの?!」
「ええ、報酬次第で。」
「どうやって?」
「企業秘密です。」
「愛人と別れさすのは5000でしてくれるのよね?」
「一人につき5000です。治療は追加で1万USドルです。」
「香港ドルじゃないの?」
ジェスが嫌な顔をした。電話口でアポを取ったのは彼女だ。俺は客を見て値段を釣り上げた。きっとこの金額でも彼女は支払う。浮気の偵察ではないのだから、これくらいは対価として支払って貰わねば俺だって困る。客は毎日来るわけじゃない。全く居ない月もあるのだ。背に腹は変えられない。
鍵はジェスが開けてくれてる。まだ客も来ていなかった。胃がムカムカして頭もガンガンする。こんなに飲み過ぎたのはいつぶりだろう…二日酔いってこんなに苦しかったっけ?
「ジェス…。薬…頼む…。」
「わかった。ちょっと待ってて。」
十二歳の少女に世話を焼いてもらって申し訳ない。俺はどこに居ても世話を焼かれる、いや焼かせているのか?
ジェスがオフィスに置いてある薬箱の中から錠剤の薬を出して、水を持って来てくれた。
「ありがとう…。」
「どういたしまして。もうすぐ来客だよ。仕事出来る?」
「あぁ、何とか…。多分…。」
「はぁ…。」
信じられないと言う風に彼女は肩を竦めた。呆れるわな、そりゃ。ギリギリの生活の中で滅多に来ない客なのにそれを危うくふいにするところだったし。
服は昨日の服。ヨレヨレ、シワシワのままだが、髪の毛を縛り、カツラを被り、枠の太い眼鏡をかければ胡散臭いフィクサー=“便利屋”の出来上がりだ。
十時を十分程過ぎて、オフィスのドアはノックされた。
「はい、どうぞー。」
ジェスがドアを開けてくれる。
サングラスをかけた黒い長髪のアジア人女性が、体の線丸出しなタイトワンピースに身を包んで立っていた。
「カイというフィクサーがいる事務所、ここで合ってる?」
「ええ、合ってますよ。ミセス・ダオですね?」
「あなた…、子供じゃない?」
「助手です。」
「あなたが?」
「ええ。」
「帰らせてもらいます。」
「ちょ、ちょっと待って。私はただ雑用をしているだけで仕事に関わったりはしないんです。どうぞ、中へ。」
焦ってジェスは彼女を中へ引っ張る。ダオ夫人はサングラスを掛けたまま入って来た。カバンはブランド品。靴にもブランドロゴが入ってる。富裕層だろう。
「おはよう、ございます…。ミセス・ダオ。」
酒で喉が焼けて声が出にくい。
「おはよう。貴方がフィクサー?」
「ええ、どうぞ、座ってください。」
ガンガンする頭はさっきより少しマシになってきた。薬のお陰だな。いやジェシカ様様だ。
「今回の依頼内容を聞かせて頂けますか?一応浮気のご相談とお聞きしておりますが。」
「ええ…。あら、貴方…眼の色が違うのね?」
彼女はサングラスを外してじっと俺の眼を見た。
「はい。これコンタクトなんですよ。かっこいいでしょう?変装です。髪もカツラですよ。素性がバレると動きにくいので。」
俺はつらつらと嘘を並べる。銀髪でオッドアイと知れたらあっという間に特徴が結びついて逃げ場をなくしてしまう。用意周到にしていて損はない。
夫人はなんだ、と詰まらなそうにして本題に入った。
「あなた、何でもしてくれるんですよね?夫の浮気をどうにかして欲しいんです。何度喧嘩しても治らなくて。それも二人。探偵に調べて貰ったんだけど、結局別れさせるのは無理だったの。彼はお金持ちだから愛人達も別れたくないと言い張って…。彼のことを愛しているし、離婚もしたくないけど、浮気が許せない。どうにかしたくて…」
「浮気はいけませんね。私ならあなたのご主人の愛人達を二度と彼に近づけなく出来ますよ。そして報酬次第では彼の浮気性も治すことが可能です。」
「本当に?!治せるの?!」
「ええ、報酬次第で。」
「どうやって?」
「企業秘密です。」
「愛人と別れさすのは5000でしてくれるのよね?」
「一人につき5000です。治療は追加で1万USドルです。」
「香港ドルじゃないの?」
ジェスが嫌な顔をした。電話口でアポを取ったのは彼女だ。俺は客を見て値段を釣り上げた。きっとこの金額でも彼女は支払う。浮気の偵察ではないのだから、これくらいは対価として支払って貰わねば俺だって困る。客は毎日来るわけじゃない。全く居ない月もあるのだ。背に腹は変えられない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
fall~獣のような男がぼくに歓びを教える
乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。
強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。
濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。
※エブリスタで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる