オッドアイの守り人

小鷹りく

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第二部 オッドアイの行方ー失われた記憶を求めて

フィクサー

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ジェスに引っ張られながら俺はオフィスに戻った。




鍵はジェスが開けてくれてる。まだ客も来ていなかった。胃がムカムカして頭もガンガンする。こんなに飲み過ぎたのはいつぶりだろう…二日酔いってこんなに苦しかったっけ?




「ジェス…。薬…頼む…。」

「わかった。ちょっと待ってて。」




十二歳の少女に世話を焼いてもらって申し訳ない。俺はどこに居ても世話を焼かれる、いや焼かせているのか?




ジェスがオフィスに置いてある薬箱の中から錠剤の薬を出して、水を持って来てくれた。




「ありがとう…。」

「どういたしまして。もうすぐ来客だよ。仕事出来る?」

「あぁ、何とか…。多分…。」

「はぁ…。」




信じられないと言う風に彼女は肩を竦めた。呆れるわな、そりゃ。ギリギリの生活の中で滅多に来ない客なのにそれを危うくふいにするところだったし。




服は昨日の服。ヨレヨレ、シワシワのままだが、髪の毛を縛り、カツラを被り、枠の太い眼鏡をかければ胡散臭いフィクサー=“便利屋”の出来上がりだ。




十時を十分程過ぎて、オフィスのドアはノックされた。




「はい、どうぞー。」




ジェスがドアを開けてくれる。

サングラスをかけた黒い長髪のアジア人女性が、体の線丸出しなタイトワンピースに身を包んで立っていた。




「カイというフィクサーがいる事務所、ここで合ってる?」

「ええ、合ってますよ。ミセス・ダオですね?」

「あなた…、子供じゃない?」

「助手です。」

「あなたが?」

「ええ。」

「帰らせてもらいます。」

「ちょ、ちょっと待って。私はただ雑用をしているだけで仕事に関わったりはしないんです。どうぞ、中へ。」




焦ってジェスは彼女を中へ引っ張る。ダオ夫人はサングラスを掛けたまま入って来た。カバンはブランド品。靴にもブランドロゴが入ってる。富裕層だろう。




「おはよう、ございます…。ミセス・ダオ。」

酒で喉が焼けて声が出にくい。




「おはよう。貴方がフィクサー?」

「ええ、どうぞ、座ってください。」




ガンガンする頭はさっきより少しマシになってきた。薬のお陰だな。いやジェシカ様様だ。




「今回の依頼内容を聞かせて頂けますか?一応浮気のご相談とお聞きしておりますが。」

「ええ…。あら、貴方…眼の色が違うのね?」




彼女はサングラスを外してじっと俺の眼を見た。




「はい。これコンタクトなんですよ。かっこいいでしょう?変装です。髪もカツラですよ。素性がバレると動きにくいので。」




俺はつらつらと嘘を並べる。銀髪でオッドアイと知れたらあっという間に特徴が結びついて逃げ場をなくしてしまう。用意周到にしていて損はない。




夫人はなんだ、と詰まらなそうにして本題に入った。




「あなた、何でもしてくれるんですよね?夫の浮気をどうにかして欲しいんです。何度喧嘩しても治らなくて。それも二人。探偵に調べて貰ったんだけど、結局別れさせるのは無理だったの。彼はお金持ちだから愛人達も別れたくないと言い張って…。彼のことを愛しているし、離婚もしたくないけど、浮気が許せない。どうにかしたくて…」




「浮気はいけませんね。私ならあなたのご主人の愛人達を二度と彼に近づけなく出来ますよ。そして報酬次第では彼の浮気性も治すことが可能です。」

「本当に?!治せるの?!」

「ええ、報酬次第で。」

「どうやって?」

「企業秘密です。」

「愛人と別れさすのは5000でしてくれるのよね?」

「一人につき5000です。治療は追加で1万USドルです。」

「香港ドルじゃないの?」




ジェスが嫌な顔をした。電話口でアポを取ったのは彼女だ。俺は客を見て値段を釣り上げた。きっとこの金額でも彼女は支払う。浮気の偵察ではないのだから、これくらいは対価として支払って貰わねば俺だって困る。客は毎日来るわけじゃない。全く居ない月もあるのだ。背に腹は変えられない。


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