オッドアイの守り人

小鷹りく

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第二部 オッドアイの行方ー失われた記憶を求めて

(R)キスをしてもいいですか

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 ギシッと体の重みでベッドが軋む。

 壊れ物を扱うようにそっと体を横たわらせて、俺の上に四つん這いで覆いかぶさった染谷は真上から俺を見つめていた。

「海静様…私に何か秘密ごとがあるんじゃないですか?」

 こんな格好で何を言わせたいんだ。恥ずかしいところを隠そうと俺は上着の裾を必死に引っ張った。

 逃げられないよう顔を腕で挟まれ上から見つめられて俺は目を逸らす。

「これ以上何を隠すって言うんだよ…全部分かってて言ってるんだろう…?」

 手のことも気づいているのだろう、俺の顔にかかる長い髪を優しく整え、片手で俺の頬を包み愛おしそうに目を潤ませて染谷が聞く。

「…貴方が好きです。キス…して…いいですか?」

 ドキンと心臓が脈打つ。染谷は大胆になった。俺は感情を余り隠さなくなった彼に翻弄されている。大人で落ち着いていて余裕があって、いつでも冷静沈着で、それなのに俺の事になると慌てふためく姿を思い出しては心をくすぐられ、自分から手放したのに何年も恋い焦がれた彼がここにいる。全てを知ってもなお俺を受け入れ、愛しているとそう呟いて。

 こんな完璧な男に溺愛されて揺るがない人間がいるのだろうか…。

 何度か重ねた事のある唇を目の前に俺は抗えず浅く頷いた。

 答えを確認してほっとした顔をしながら近づく染谷の頬が染まるとその瞳は一瞬にして炎を灯した。

 顔を包み、柔らかい唇が重ねられ優しく啄ばむようなキスが何度も何度も降り注ぎ、その柔らかさがだんだん激しさへ移り変わると、二人の口から粘膜が絡み合う音が漏れる。水音が恥ずかしさを煽ると、驚きで萎えていた俺の欲がまた目を覚まし出した。

 くちゅんっと舌を吸う音のいやらしさに反応して耳の奥がジンとする。

「…ょしぉみ——っハァッ…」

 深く俺を求める唇が頬にキスを落とし、耳へ這うと荒い息遣いが聞こえ、耳殻を噛まれた刺激で俺は声を上げた。

「っアッ!」

「…ここ、感じますか?」

 無意識にあげた声を見逃さなかった染谷は執拗に耳を舐め、耳朶や耳殻を甘噛みしては声を上げさせた。

 唇は首筋を通り、ふと服を着たままの俺の姿を見ると体を起こして染谷は深い息を吐く。

「はぁっ…。貴方を目の前にすると欲望のコントロールが出来ません…。嫌なら嫌だとそう言って下さい。言葉にできないなら力を使っても良い…。貴方の体の負担になる様な事はしませんから…怖がらないで…。」

 そう言うと自分のシャツを脱ぎ捨てた。

 均整の取れた無駄な肉の付いていない筋肉質な上半身が露わになる。薄いカーテンを通って入る木漏れが体に纏わりつく蒸気に反射して薄っすらと光ると、まるで彼の体が発光しているようだった。

 時間を忘れて見惚れていると、染谷が熱を堪える様に息を深く吐いて呟く。

「この三年間、記憶もないのに何故貴方を求めていたのか、記憶が戻ってやっと分かりました…。私の心も体も全て、頭のてっぺんから足の指先まで貴方で埋め尽くされている。
 ——全てが貴方の為で、全てが私の為だった。貴方の存在が私の記憶から姿を消そうとも、細胞が貴方を覚えてる。体が貴方を求めている。貴方の全てを愛しているんです。やっと見つけた愛しい人、もう離しません。」

 再び熱く唇を吸われ口の中を蹂躙されて、身体中にキスを落としていくその甘さに頭の中が痺れてくる。はち切れそうになって俺は何度も彼の名を呼んだ。

「——…しぉみ…よしおみ…——アッ…っアッ…。」

 愛撫の度に声が上がり体が跳ねる。目を細めて俺を見つめる彼が愛しい。こんなに求められて嫌なはずがない、こんなに愛されて嬉しくないわけがない。

「———っす…きだっ…。俺も…お前が…すき…だっ…。」

 ビクンッと彼の動きが止まり、驚きを隠せないと目を見張り俺を見つめる。

「いま、今、何と言われました?もう一度、もう一度言ってください…。」

 火照る体が熱を逃がしたがって涙が自然と流れてくる。羞恥心など捨ててしまおう、俺が全てだと言う彼に全てを曝け出そう。俺は欲しいものを欲しがって良い。素直に生きて良いんだ。彼に伝えよう、同じ気持ちでいる事を、ずっと彼を思っていたと…。

「——好き…だ、もうずっと…ずっと前から…お前が恋しかった」

「…っ海静様ッ!」

 体を痛いほどぎゅっと強く抱きしめられて息が止まりそうになる。

「———海静様…海静様…。」

 名前を呼ばれ、あちこちにキスされ、昂ぶっている俺の塊が彼の口に含まれると俺はあっと言う間に熱を放った。

「———ァアァッ…アアアッ——。」

 嬉しそうにそのまま俺の吐露したものを飲み込むと、染谷はもう一度俺を抱きしめた。

「——もう何処にも行かないでください。貴方と一緒に生きていきたい。どこへ行っても追いかけますから、どうかお傍に…。」

「あぁ、どこにも行かないよ。お前の傍に居る…ずっと。」

 そう言うと染谷は涙を流して、それを見た俺も涙が止まらなかった。




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