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第二部 オッドアイの行方ー失われた記憶を求めて
説教
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どうやったら自制できるんだ…。
薄っすらと紅く上気した顔で下から見上げる彼が愛おしくて堪らない。
シャツの前は全て肌蹴て辛うじて肩から腕を隠しているだけ。露わになった日焼けのしていない白い肌には二枚の花びらがピンクに染まっている。ズボンは太腿を摩擦して傷口が開いてはいけないから、下着ごと脱がせてしまった。右を向いても腿の傷に触り、左を向いても腕の傷に触るから彼は仰向けのままで惜しげもなく美しい裸体を私の前に晒し、恥ずかしさに耐えて震えていた。
なんという悩ましい姿…見ているだけで果ててしまいそうだ…。
幼少の頃から守り人として育てられたのに、もうどうにも自分の感情に逆らえない。
私の本来の務めは能力者を守り、その血を絶やさぬように御子が子孫を作るよう見守る事。今はその務めに逆行する行為を行おうとしている。
国からは血を守れと言われていて、血筋の御子に能力があろうと無かろうと関係なく血は脈々と受け継がねばならない。それが伊集院家に生まれた彼の運命…この血は絶やしてはならないのだ。そして赤乃様の意識体が受け継がれる子孫を作らねばならない…。1200年も御先祖様たちがそれを守り続けてきたのに、もし海静様がその歴史を止めてしまう事になれば彼の顔に泥を塗ってしまう事になる。赤乃様もどうなるのかわからない。
だがこの愛しさに蓋をする事など到底無理な話だ。父が聞けば卒倒してしまうだろう。私が海静様の事を敬い、慕っている事は知っていても、まさか守り人にあるまじき禁忌を犯すとは夢にも思っていないだろうから。親不孝ですみません、父さん、と心の中で謝ってはみるが、この妖艶な美しさを目の前にすれば、誰であろうと魅了されてしまうはずだと、自分の感情を肯定するもう一人の自分もいる。
「ょし…ぉみ…?」
深いキスを何度も交わし、息が荒いままの彼が私の名前を呼ぶと体の芯に疼きが生まれる。
さっきまで考えていた罪悪感も背徳感も常識もこのせり上がる愛しさの前では無力だ。
「海静様…あまりその様な瞳で煽らないで下さい…見ているだけで堪らない。体の傷に触るような事はしたくないんです。傷をちゃんと直してから…。」
少し顔を赤らめて切なそうに頷く彼が可愛らしくて、堪らずまたキスをする。勇気を振り絞り、その想いを打ち明けてくれた彼への愛しさは一層深まるばかりだ。
キスをしては欲情し、お互いの高まりを存分に愛撫し合っても、体は繋がりを欲しがって際限が無かった。欲望を堪えるための口づけは彼の身体中にその欲求不満の赤い痕を無数に残していった。
*
「——っおい!これ、どうするんだよ!こんなに付けて!」
海静様は部屋の姿見の前で自分の首元や背中を確認している。
夕食に出掛けようと鏡を見た彼は至るところにキスマークが付いている事に立腹した。
「あーっ!ここにも…ここも…
こんな見える所にいっぱい付けやがって!」
「貴方が余りにも気持ちよさそうなので、つい…。」
鏡の前に立つ彼の後ろから腕を回し腰を抱く。
「ここにも…それからここにも付けましたよ…。」
私は後ろから抱きしめながら指先で彼の太ももや付け根を指差した。
かっと赤くなった彼は私を振り向き、キスをするのかと思って見つめていたらまた怒られた。
「増長するな。どこにも行けなくなるだろ!」
それから私はこっ酷く説教を受けてキスマークは見える所には付けませんと約束させられ、テイクアウトの夕食を一人で買いに行く事になった。
*
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